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映画『8番出口』はアメリカでヒットするのか? 魅力を振り返り“成功の可能性”を映画ライターが考察

興行収入50億円超えを記録した映画『8番出口』は、2026年に北米公開も予定されています。アメリカでもブレークするか? 本作の魅力を振り返ります。※画像:©2025 映画「8番出口」製作委員会

斎藤 香

斎藤 香

映画 ガイド

フリーランスライター。芸能誌、映画誌の編集者を経て、現在、映画を中心にWEB、紙媒体などで取材執筆活動中。インタビュー経験も多数あり。

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映画『8番出口』は2025年8月29日(金)に公開されて大ヒット。興行収入は50億円を突破しました。2025年の話題作の1本として、映画ライターの筆者が『8番出口』の魅力をひも解いていきます。
<目次>

『8番出口』とは

「8番出口」

©2025 映画「8番出口」製作委員会

ゲーム『8番出口』はインディーゲームクリエイターのKOTAKE CREATE(コタケクリエイト)が開発。ストーリーはなく、プレーヤーは地下通路で起こる異変を8つ見つけて、8番出口から外に出たらクリアというウオーキングシミュレーターゲームです。
 
映画では、ゲームプレーヤーの立ち位置に、主人公・迷う男(二宮和也)を配しています。男が異変を見つけて8番出口から脱出するというゲームの構成と同じルートをたどりつつ、ゲームにはストーリーがないので、迷う男のオリジナルストーリーをゲーム内容とリンクさせています。

『8番出口』のストーリー

「8番出口」

©2025 映画「8番出口」製作委員会

迷う男(二宮和也)が派遣の仕事に向かうために地下通路を移動中、携帯が鳴り、謎の女性(小松菜奈)から連絡が入ります。迷う男と女性にとって、とても大切な話を交わした後、男は角を曲がり、出口から外に出るつもりでしたが、なぜか同じ通路に戻ってしまいます。
 
壁のポスター、ロッカー、歩く男(河内大和)……まったく同じ地下通路。男は戸惑いますが、「ご案内」に目を留めます。
 
・異変を見逃さないこと
・異変を見つけたら、すぐに引き返すこと
・異変が見つからなかったら、引き返さないこと
・8番出口から外に出ること

 
迷う男が地下通路から脱出するためには、異変を8つ見つけなければなりません。しかし、異変はなかなか見つからないのです。

『8番出口』が成功したポイント3つ

【1:川村元気監督の斬新な発想が起点となる】 
「8番出口」

川村元気監督 ©2025 映画「8番出口」製作委員会

もともとゲームと映画の相性はよく、これまで多くのゲームが世界中で映画化されてきました。『トゥームレイダー』シリーズ、『バイオハザード』シリーズ、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』など、数えきれないほどです。
 
しかし、『8番出口』は映画化されたゲームの中でも異質。個性的なキャラクターは存在せず、ストーリーもない。地下通路を歩いて出口を探すだけのゲームをどう映画化するのか。川村元気監督はきっかけをこう語っています。

「能のような見立てができると思った。あの空間とは何か、異変とは何か。あの空間が人間の心の中で、そこで心に抱いている罪が可視化されているのだとしたら……。そう捉えたら物語が急に動き出した」(公式インタビューから抜粋)

地下通路を能の舞台として捉えるという斬新な発想が起点となり、川村監督の力で映画化は実現へと動き出しました。そして、もう1つ、川村監督が鋭かったのは、この映画に二宮和也をキャスティングしたことです。
 
【2:二宮和也のスター性とクリエイティブ力】 
「8番出口」

©2025 映画「8番出口」製作委員会

主演だけでなく、本作の脚本協力としてもクレジットされている二宮和也。撮影中も活発に意見を出して、スタッフとともに頭を悩ませて本作を作り上げたと、数々のインタビューで話していましたが、彼が本作にもたらした力はそれだけではありません。
 
インディーズゲームの映画化は一種の賭け。川村監督ならばある程度の高みに引き上げることは可能だったにせよ、この映画をメジャーシーンに押し上げたのは二宮和也の主演が大きかったのではないでしょうか。二宮主演で映画化が発表されたとき、エンタメニュースとして大きく取り上げられていました。

数々の映画、ドラマで結果を残してきた二宮和也が主演するのなら、アイドル二宮のファン以外の映画ファン、ゲームファンも「どういう映画になっているんだろう。ニノ主演なら見たい!」と思ったはず。注目度は一気に上昇し、加えて、数々の国際映画祭出品のニュースも本作の知名度を後押ししたのです。
 
【3:カンヌ国際映画祭など世界の映画祭の効果】
「8番出口」カンヌ国際映画祭

第78回カンヌ国際映画祭公式上映 ©2025 映画「8番出口」製作委員会

『8番出口』が出品された国際映画祭は、以下の通り。

・第78回カンヌ国際映画祭「ミッドナイト・スクリーニング部門」
・第50回トロント国際映画祭「センターピース部門」
・第58回シッチェス・カタロニア国際映画祭「コンペティション部門」
・第30回釜山国際映画祭「ミッドナイト・パッション部門」

 
これらの映画祭に参加したことで “世界的にも注目されている作品” とアピールできたことは効果的だったと考えます。

また、カンヌ国際映画祭では、ポスターデザインのコンペティション「Prix Luciole」で『8番出口』のポスターが最優秀賞を受賞。シッチェス・カタロニア国際映画祭では、最優秀音楽賞を受賞(中田ヤスタカ、網守将平)。そしてNEONの配給で北米公開が決定。実はこのNEON配給というのが大きなポイントなのです。
「8番出口」ポスター

ポスターデザインのコンペティション「Prix Luciole」で最優秀受賞 2025 映画「8番出口」製作委員会

『8番出口』アメリカ公開に期待が高まる!

「8番出口」

©2025 映画「8番出口」製作委員会

『8番出口』の配給を決めたNEONはアメリカの独立系映画制作・配給会社。A24とともに、今、ハリウッドで影響力のある映画会社です。ちなみにNEONの配給作品は、近年、米・アカデミー賞をはじめ、国際映画祭での受賞作が多いのも特徴。

・『パラサイト 半地下の家族』(2020年/第72回カンヌ国際映画祭パルムドール賞、第92回アカデミー賞作品賞、監督賞ほか)
・『落下の解剖学』(2023年/第76回カンヌ国際映画祭パルムドール賞ほか)
・『ANORA アノーラ』(2024年/第77回カンヌ国際映画祭パルムドール賞、第97回アカデミー賞作品賞、監督賞、主演女優賞ほか)など。
 
日本映画では『PERFECT DAYS』(2023年/役所広司主演)も配給しており、本作は第96回アカデミー賞国際長編映画賞候補になりました。
 
ただ『8番出口』は2025年度作品。本年度の米・アカデミー賞国際長編映画賞日本代表は『国宝』に決定しているため、2026年も日本代表になる可能性はありません。
 
しかし、第96回アカデミー賞で『ゴジラ-1.0』がアジア映画史上初の視覚効果賞を受賞しました。この年の国際長編映画賞日本代表に選ばれていなかったにもかかわらず、別のカテゴリで受賞を勝ち取ったのです。
 
『8番出口』はすでに世界各国で上映が決まっており、韓国などで人気を博していると聞いています。2026年北米公開の結果次第では、アメリカの賞レースに参戦する可能性もあるわけです。アカデミー賞の前哨戦と言われる、全米各地の批評家協会賞で『8番出口』が候補、あるいは受賞することがあれば、2027年に開催される第99回アカデミー賞への現実味が増してきます。
 
ちなみに『ゴジラ-1.0』、そして第94回のアカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』は、これらの前哨戦を席巻し、アカデミー賞受賞につなげました。
 
北米公開で『8番出口』がどのような結果を出すのかは、NEONがどれだけ本作のプロモーションに力を入れてくれるかにもかかってくるのですが……。2026年もまだまだ『8番出口』から目を離せそうにありません!

『8番出口』2025年度作品(公開日:2025年8月29日)

「8番出口」

©2025 映画「8番出口」製作委員会

原作:KOTAKE CREATE『8番出口』
監督:川村元気
脚本:平瀬謙太朗、川村元気
脚本協力: 二宮和也
出演:二宮和也、河内大和、浅沼成、花瀬琴音、小松菜奈
音楽:Yasutaka Nakata(CAPSULE)、網守将平
配給:東宝
©2025 映画「8番出口」製作委員会
映画公式Webサイト:映画『8番出口』
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