実技教科の評価って、本当に難しいんです。
今回は、13年間の教員経験を持ち、その中で元体育主任も務めた筆者が、「実技教科の成績評価の難しさ」を主要教科との違いも踏まえてお伝えします。
現在はコーチング塾を主宰し、多くの教員や保護者にコーチとして携わる筆者だからこそ語れる、現場のリアルと評価の真実。この記事が、保護者や教育に関心のある方にとって、お子さまへの関わり方や学校への理解を深める一助となれば幸いです。
テストだけでは見えない「実技教科」の世界
国語や数学などの主要教科は、テストの点数と成績が比較的リンクしやすいです。例えば、国語で90点を取っていて「2」がつくことは、ほとんどありません。なぜなら、生徒や保護者に説明がつかないからです。一方、音楽や美術、保健体育、技術家庭科などの実技教科はどうでしょうか。授業での発表、表現の仕方、授業中の取り組み方、忘れ物の有無……そういった“日々の様子”も成績の大切な要素になります。
テストで90点を取っていても、授業で発言しない、やる気が見られない、実技に消極的だったとなると、成績は下がることもあります。
ここで認識しておきたいのは、主要教科でも授業中の取り組みは評価に含まれますが、実技教科では特に“授業そのもの”が成績に占める割合が大きいということです。これを認識せずに、主要5教科と同じ感覚で考えてしまうと、「テストが良かったのに成績が低い!」と疑問や不満につながってしまうのです。
成績に必要なのは「説明できる根拠」
教師にとって、成績をつけるというのは本当にプレッシャーのかかる仕事です。ただ数字を出すだけではなく、「なぜこの成績なのか」を誰が聞いても納得できるように説明できることが求められるからです。筆者自身も教員時代、テスト・提出物・授業態度・活動への参加度などを総合的に見て、できる限り「説明可能な成績」を心掛けていました。特に中学3年生の進路に関わる時期は、保護者からの問い合わせも多く、根拠のない成績は出せないという現場の事情もあります。
今の中学校では「絶対評価」が導入されているとされています。つまり、「他の生徒と比べず、その子自身の達成度で評価する」というものです。
しかし、実際の現場では“絶対的ではなく、相対評価”になっている状況が大半です。例えば、「学年全体がよく頑張っていても、全員に『5』はつけられない」といった“空気”や“バランス”が働いてしまうことがあるのです。これは制度的な問題というより、教育現場が持つ独特の文化や、進学との兼ね合いからくる現実的な葛藤と言えるでしょう。
子どもを支えるために必要なのは、大人同士の信頼関係
「うちの子、テストは良かったのに成績が低い……」そんなとき、保護者としてどう対応したらよいか悩むこともあると思います。まずは、お子さんに優しく聞いてみてください。「授業中の様子、どうだった? 心当たりある?」と。自分で考えるきっかけを与えることが大切です。
その上で、もし納得がいかないようであれば、「先生に聞いてみたら?」とお子さんが気持ちを伝えられるように促してみることをおすすめします。その反応を見て、保護者から担任の先生や教科担当に聞いてみるのはもちろんOKです。
ただし、「どうしてこんな成績なんですか!」と感情的に切り出すのではなく、「実は気になっていて……」という形で、丁寧に聞く姿勢が大切です。教師と保護者は本来、子どもを支える“チーム”。対立ではなく、協力の関係であることが重要です。
また、教員同士の関係性も大切です。今回の改ざん問題では、音楽の先生の意思を確認せずに成績を変えたことが大きな問題でした。これは評価の仕方以前に、「先生同士のコミュニケーション不足」が背景にあったと思います。
学校はチームで子どもたちを見ています。でも、忙しさやプレッシャーの中で、意思疎通がうまくいかないこともあります。評価の調整をするならば、教科担当と相談して、お互いが納得する形で行うべきでした。そこが欠けてしまったことが、今回のような大きな問題につながったのだと考えられます。
成績への“モヤモヤ”は、誰の課題?
最後に、保護者の方へお伝えしたいのは、「お子さんの成績に振り回されすぎないでください」ということです。持つべきは「成績に対しての不安や不満が出てきたとき、それは誰の課題なのか?」という視点です。これはアドラー心理学の考え方の1つである「課題の分離」に通じます。子どもが「なんでこの成績なの?」と感じたとき、まず、向き合うべきは本人です。自分で理由を考え、先生に確認する。それは子ども自身の学びであり、成長のチャンスでもあります。
一方、親が「こんな成績じゃ困る」と焦ってしまうと、子どもよりも先に“親の課題”として捉えてしまうことがあります。でも実際は、成績は“子どもの課題”であり、親のものではありません。
もちろん、進路や受験に直結する場合には、親がサポートしたり一緒に考える場面も必要です。でも基本的な姿勢として、「これは誰の課題?」と自分に問いかけること。これが“過干渉”を防ぎ、子どもを信じて任せる土台になります。
課題の分離は、冷たく突き放すということではありません。むしろ、「あなたのことを信じてるから、自分で考えてみよう」と伝える行為でもあります。親としての役割は、答えを与えることではなく、“自分で答えを出せる力”を育てること。
成績という結果を通して、子ども自身が「どう受け止め、どう次につなげるか」を考える。そのプロセスを支えることこそ、教育において本当に大切な関わり方だと筆者は思います。
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