ルミネ荻窪は10月6日、「必要な確認をおこなった結果、制作過程に問題があったことを重く受け止め、該当ビジュアルを今後一切使用しないことといたします」と発表しました。また、デニーズやZoff、クレディセゾンなど、江口氏のイラストを使用していた他社も対応に追われています。
“トレパク”疑惑浮上でSNS炎上
SNSでは、「モデルとなった女性をほぼ丸写ししているのでは」と、“トレパク(トレースとパクリを組み合わせた造語)”疑惑も浮上し、炎上状態。過去のイラストについても、写真との類似性の高さを指摘する投稿が相次いでいます。今回争点になっている「第三者の肖像を無断使用すること」と「トレパク」について、一般的な事情においては、法的にどのような問題点があるのか。弁護士である筆者が解説します。
ポイントは「肖像権」と「パブリシティ権」
トレパクとは、「トレース」と「パクリ」を組み合わせて作られた造語であり、他人の作品をトレース(なぞって)し、同じような構図のものを作り上げ、自身の作品かのようにして発表することを指します。トレパクの法的問題点について説明する前に、整理しておきたい情報の1つに「肖像権」があります。肖像権は、一般的に、私生活上の容姿を無断で他人から撮影されたり、撮影された写真を公開・利用されたりしない権利のことをいい、法律上の明文はないものの、判例上認められています。
また、肖像権に似た概念として、「パブリシティ権」というものもあります。パブリシティ権は、人の肖像の財産的側面に関する権利です。有名な人の肖像はそれだけで顧客を引きつける価値があるため、その点に着目して肖像を利用できる権利が、パブリシティ権です。
第三者の肖像を無断で利用することは、肖像権を侵害していることになります。ましてや商用利用ということになれば、パブリシティ権の侵害にもなり得ます。
肖像権侵害であれば、損害賠償請求(民法709条)、謝罪広告の掲載(同法723条)、さらに著作権侵害が認められた場合には、10年以下の拘禁刑、もしくは1000万円以下の罰金か、その両方が科せられる可能性があります(著作権法119条)。
トレースそのものに問題はないけれど
そもそも、第三者の画像や作品をただトレースすること自体は、もちろん問題ありません。練習のために画像や他人の作品などをトレースすることで技術向上を図ったりすることは、一般的にもよく行われます。しかし、トレースしたものをあたかも自身の作品であるかのようにして、第三者の目に触れる形で公開すると前述の(人の容貌を描いたものであれば)肖像権侵害やパブリシティ権侵害となったり、人の容貌ではなくても著作権侵害となったりする可能性があります。
なお、トレース自体はしているものの、独創性が加わっており、結果的に別の作品といえるものであれば、問題ありません。ただし、どこまで変更を加えれば問題がなくなるのかという明確な基準はありません。作品全体を観察し、総合的に判断されることになります。
トレースした作品をSNSなどにアップロードする際の注意点
では、もしも自分が何らかの作品をトレースしたものをSNSなどのWeb上にアップロードする場合、どのような点に注意するべきなのでしょうか。主に3つの注意点があります。1:トレースした画像、作品の権利者・被写体に事前に許可を取る。
最も無難な方法です。
2:画像や作品をトレースするときにオリジナリティーを加える。
ただし、オリジナリティーをどこまで加えれば問題がなくなるのかという明確な基準はありません。複数人の意見を聞いてみるといいでしょう。
3:ネット上でアップロードされている、トレースが許可されているフリー素材を使う。
利用目的に制限がある場合があるので、事前に利用規約などを確認しておく必要があります。
トレースすること自体は問題ありませんので、きちんと法律上問題になる点を理解し、適正に取り扱いをしましょう。
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