転職のノウハウ

教員を志す若者は減り、指導しない上司が増えた今だからこそ…改めて考えたい「教える」ことのメリット(2ページ目)

生きることは「学ぶこと」とよくいわれるが、今や積極的に人に教える側に回る人は少ないのかもしれない。特に若い世代はその傾向が顕著だろうが、年を重ねると教育に興味を持つ人もいる。なぜ、人生のライフステージによって意義が変化するのだろうか。※画像:PIXTA

小松 俊明

小松 俊明

転職のノウハウ・外資転職 ガイド

東京海洋大学教授。専門はグローバル教育/キャリア教育。サイバー大学客員教授を兼任。著書は「できる上司は定時に帰る」「35歳からの転職成功マニュアル」「人材紹介の仕事がよくわかる本」「エンジニア55歳からの定年準備」他。元ヘッドハンターで企業の採用事情に詳しい。

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メリットは教えられる側だけにあるわけではない

もともと会社員として働いていた高橋さん(40代男性・仮名)は、40代半ばで「実務家教員」として大学教員に転身した。

実務家教員とは、企業や官公庁などにおける実務経験を通して培われた知識やスキルなどを生かして、大学などの高等教育機関において教育や研究などの職務に従事する教員のことである。

今、この実務家教員を求める声が増えてきているのだが、その背景にあるのは、人口減少社会を迎えた日本で、“人材育成の質を向上させる必要性”があるということだ。それには、大学教育が社会人として必要なスキル開発に役立つことを、学生により明確にイメージさせることが有効だ。実務経験が豊富な元ビジネスパーソンが教育の現場に立つことで、その狙いを実現させようという試みである。

大学教員には研究能力の高い人物が多いが、実務家教員に期待されているのは「教育指導力」と「実務能力」である。

高橋さんが注力したのは、学生のインターンシップの機会を作ることだった。そのために産業界や行政機関、そしてNPO(非営利団体)やNGO(非政府組織)などとパートナーシップを結ぶことに注力した。長年営業職で鍛えたコミュニケーション力や新規開拓の経験が大いに生かせたという。

「継続して学生インターンを受け入れてもらうには、インターンの目的や内容、そして双方のメリットを明確にする必要があり、そのためには相手を知る傾聴力や地道な信頼関係作りへの具体的アクションが欠かせません」と、高橋さん。

会社員時代は部下の育成にも力を入れていたというが、いつから人材育成に関心があるのか、なぜ人材育成に関心があるのだろうか。
 
「人に教えることで自分の頭が整理できるんですよ」と、高橋さんは人材育成がもたらす自分へのメリットから話し始めた。

「分かりやすく人に伝えようとすると、自分の知識や理解を一度分解して整理し、そのうえで再構築するので、自然とあいまいなところがあぶり出されます。自分の気付いていなかったことや、分かったつもりになっていた部分が明らかになるので、学び直すことができるんです。

あとは純粋に、相手に教えて分かってもらえたり、喜んでもらえたりした時はうれしいですし、自分もホッとします。自分だけでなく、他の人も自分と同じ知識やノウハウを持っていると思うことで、何かあった時の保険をかけることができたようで安心できるんです。もちろん、教えるにあたっては、ハラスメントに十分配慮しなければならないなど、このご時世ならではのハードルはあります。ただそれ以上に、教えるということは、相手と自分の双方に大きなメリットがあると思います」

双方の経験が人生を豊かにする

中高年になると、人材育成への熱意が芽生える人は多くなる。それは自身が若い時に上司・先輩から得た恩を、今度は後輩に返したいと考えるからだ。現代のように人とのつながりが希薄になると「恩返し」の機会も減ってしまうが、ベテラン世代は依然、若手の成長を応援したいと考えているのではないだろうか。

しかし、ハラスメントなどの壁が立ちはだかるのが今。そこで、若手社員からも「積極的に教えを請う」ことが重要だと、筆者は考える。若手が自ら働きかければ、ベテラン側も一方的な指導となるリスクが減り、ハラスメント不安が和らぐ。さらに、ベテラン世代の失敗談や苦労話も「反面教師」として学びに変わり、人生経験を幅広く吸収できるのだ。

「学ぶ側」と「教える側」の双方の経験は人生を豊かにする。年齢や立場が変わっても、「人に教える」「誰かに学ぶ」意欲と姿勢は、自己成長と社会貢献の好循環となり得る。変化の激しい現代社会だからこそ、互いに学び合い、支え合う関係性の大切さを再認識する必要があるのではないだろうか。
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