マネジメント

“牛丼並盛30円値下げ”で話題の「すき家」に、吉野家と松屋が単純に追随しないワケ【企業の価格戦略】

牛丼チェーンのすき家が牛丼並盛を450円に値下げして話題になっています。値下げ戦略は集客の1つのキーとなり得ますが、一方で期限を定めない値下げはデメリットとなることも。価格戦略の考え方とその難しさについて考えてみましょう。※画像:Shutterstock.com

大関 暁夫

大関 暁夫

組織マネジメント ガイド

東北大学卒。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントの傍ら上場企業役員として企業運営に携わる。

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すき家が牛丼並盛を値下げした狙いとは? ※画像:Shutterstock.com

すき家が牛丼並盛を値下げした狙いとは? ※画像:Shutterstock.com

牛丼チェーン大手の「すき家」が、牛丼並盛の価格を従来の480円から450円に値下げして話題になっています。

これによって牛丼チェーン大手3社における同商品の価格関係は、「吉野家」が498円、「松屋」が460円なので、すき家が最も安くなりました。材料費、人件費が値上がりを続ける中で、大手牛丼チェーンもこれまで値上げトレンドを余儀なくされてきただけに、すき家の値下げは注目を集めているのです。この値下げにはどのような狙いがあるのか、また一般的な価格戦略の考え方とその難しさについて考えてみましょう。

「なか卯」での成功体験を受けて

すき家は昨今の相次ぐ値上げで客足が鈍っていたところにたびたび異物混入騒ぎがあり、2025年4~6月期で7億6800万円の営業赤字を計上してしまいました。今回の値下げは、客足の呼び戻しに向けたカンフル剤的な役割として位置付けられるように思えます。現在のところライバル大手2社に値下げ追随の動きはなく、今回はあくまですき家独自の事情での値下げ戦略といえそうです。

値下げ戦略は確かに集客の1つのキーにはなります。特にすき家を経営するゼンショーホールディングス(HD)では、傘下の丼うどんチェーン「なか卯」で2023年に卵価格上昇の最中、親子丼を値下げして来店客数を伸ばした実績があるのです。価格上昇傾向にある牛丼業界で「逆張り」ともいえる今回の牛丼値下げは、過去の成功体験を受けて同様の集客効果を狙った値下げ策であると思われるのです。

しかし、実施期限を定めない値下げは収益面に大きなダメージを与える可能性があります。特にコスト高止まり傾向の現状において、赤字の同社にはさらなる負担となることでしょう。市場はそのあたりを懸念してか、敏感に反応しています。値下げを発表した翌日には、一時前日比で5%、511円も株価を下げています。

6月に就任したばかりの小川洋平ゼンショーHD社長は、「個人消費が弱い今こそ、消費者の支持を得るチャンス」としていますが、果たして思惑通りにシェアを伸ばすことができるのか、今後の推移は注目に値します。

過度な値下げのデメリット

価格戦略は常に同じ正解があるわけではなく、商品の特性やコスト環境、時々のマーケット情勢、さらには景気動向など、さまざまな要因を踏まえて臨機応変な対応が必要です。ほぼ同質のものを扱っている企業同士であれば、価格的な優位は買い手の支持を得るための重要な要因になり得ます。

しかし、価格を下げ過ぎれば自社の首を絞めることにもなり、時と場合によっては価格競争を捨て、付加価値を付けることで埋め合わせをして競争力を維持することに努めることにもなるのです。付随サービスやメニューの豊富さなどで、価格差を意識させないなどの工夫がそれに当たります。

インターネット上でのEコマースの普及によって、全く同じ商材が自社よりも安価で売られるケースが間々ある昨今ですが、付随作業や商品加工などのサービス、あるいはアフターケアや相談対応などの実施で、価格差以上の付加価値を感じさせて顧客支持を得るという戦略が、一部で有効な対抗措置となり得ています。

家電業界では量販店やネット販売が低価格で人気の今も、値引きではなく設置作業、部品交換、修理などの付随サービスで高い顧客支持を得ている「ライフテクト ヤマグチ」(町田市)などは、その好例です。

ライフテクト ヤマグチは、地域に密着した取り組みを行い、家電販売の枠にとらわれず、住まいの事はなんでも対応させて頂きます。 お気軽にご連絡ください!

「ライフテクト ヤマグチ」の公式Webサイトより

大手3社が同じ商品のほとんどを同じ価格で扱うコンビニエンスストア業界では、24時間営業という高コスト下で利便性を売るという性格上、値引き競争は命取りになりかねません。この業界の差別化は基本的に、お弁当などオリジナル商品のバリエーションという点で競うことが、常とう戦略となっているのです。

コンビニ業界だけでなく大手企業同士の場合、行き過ぎた値下げ競争は、例えそれが消費者から歓迎されたとしても経済的に疲弊して共倒れにもなりかねず、極力避けたいと思うのが企業経営の常識でもあるのです。

業界ごとの諸事情はあれども、ネット時代の今は特に情報伝播(でんぱ)が早いので、消費者向けのビジネスでは他社動向などの変化に対して常に早い対応が必要とされています。ライバルの動きをにらみながら経済情勢などを勘案しつつ、商品・サービスの「価格」「質」「付随サービス」のバランスでいかに差別化を図るのか、瞬時の経営判断が求められるのです。

吉野家と松屋が値下げしていないワケ

今回すき家の牛丼値下げにライバルの大手2社が単純に追随していない理由は、現状が諸経費高騰の折であることが大きいでしょう。2社はライバルの値下げの影響を計りつつ、状況に応じた対抗策については水面下で検討済みなのではないでしょうか。

吉野家は業界の草分け的存在で、固定ファンも多くブランド力はトップクラスです。すき家の値下げによって、牛丼の単価で価格差が48円に広がった影響がどう出るのか。業界のリーダー格である吉野家が何か策を打って出れば、流れが大きく変わりそうです。

松屋に関しては、すき家の値下げによって牛丼価格が逆転されており、影響は吉野家よりも大きいように思われます。松屋はカレー、定食、季節メニューなどの多品種分散戦略を基本としているので、こちらはその戦略特性を生かした対抗策が早期に展開されるかもしれません。

消費者にとっては、ただうれしいばかりの牛丼の値下げですが、値下げをする企業とその競合企業にとっては、水面下でさまざまな思惑が交錯する企業戦略のぶつかり合いなのです。そんなことも頭に置きながら食してみれば、牛丼1杯の味わいも変わるかもしれません。

>【画像で見る】すき家、吉野家、松屋の牛丼並盛価格
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