面接官のひと言が大きな転機に
しかし4度目の転職時、面接官から言われたあるひと言が片桐さんの大きな転機となる。「あなたが過去働いていた会社でのトラブル対応の経験、スキルは素晴らしい。うちの会社でもその力を発揮してもらえないか」
そう、面接官に言われた時、片桐さんは自分が他者からどう見られているのか、そして自分のキャリアのアピールポイントは何か、明確になったと言う。
これまで自分がどのような状況下にあったのか、具体的に何から手を付けて問題を沈静化させたのか。要するにトラブルの原因分析、対処法、防止策の検討・実施、そして業務改善の道筋づくりまで、トラブルを引き起こした会社の信用問題や経営問題に対して、実務知識をベースに据えたうえで、上司や経営層に提言ができていることに気付いたのだ。
それ以降、新たな転職先は全てトラブル対応が前提に。経理や決算などのトラブル対応の即戦力として入社し、一定期間かけて現場の混乱の収束や会社の信用回復に取り組み、経理ミスの発生を抑える業務改善を行うのが片桐さんの重要なミッションとなった。そして、それらが一段落したころ、片桐さんにとってはその会社を離れるタイミング、幕引きだと感じるようにもなったと言う。
「脱法的な仕事は何一つありませんが、汚れ仕事のような側面は否めず、問題が収束したころには、会社の内情を知り過ぎた社員として、自分の居場所はもうないのだと自覚するようになりました。ただ皮肉なことに、このような火消しと立て直しの仕事を繰り返すようになったせいか、その評判を聞きつけた別の会社(転職エージェントも含め)から継続的に声がかかるようになって。その結果、私はその後も1、2年ごとに転職を繰り返してきたんです」
最後に片桐さんは、自分のキャリアをこうまとめてくれた。
「私は転職を重ねてきたとは言っても、たぶんその1つひとつが“プロジェクト”だったのだと、今では捉えています。今後のキャリアもまだ20年以上残っていますが、おそらく同じようなプロジェクトがたくさん待っているのではないかと思っています。私としてはこれまでと変わらず、入社して当事者として問題解決に取り組みたいです。
これまで仕事で出会った同僚たちは今でも自分にとって大切な仲間であり、ブレーンのような存在です。苦労を共にし、さまざま知恵を持ち寄り、いわばどん底の状況で共に仕事をしてきた彼らとは、今でも連絡を取り合い、互いにリスペクトし合っています。力強い味方がいてくれるから、私は転職回数が多いことを恥じたり、後悔したりしていません」
片桐さんの語る1つひとつの言葉に、仕事の本質とは何か、キャリアとは何か、深く感じ入ることが多かった。転職回数が多い人はつまり、それだけ会社から求めれてきた人物ということなのだ。
転職する人も多いこの時代、“転職することの意味”について、私たちはさまざまな視点からより掘り下げて考えてみる必要があるのかもしれない。