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『19番目のカルテ』で松本潤が演じる「総合診療医」とは? 総合診療医経験を持つ医師が解説!

ドラマ『19番目のカルテ』で注目を集める「総合診療医」。専門分化が進む現代医療の“隙間”を埋めるこの診療科の役割とは? 総合診療医として勤務した経験のある医師が現場の視点から、いま求められる理由を解説します。

中田 航太郎

中田 航太郎

医師・起業家 / 予防医学・予防医療 ガイド

東京医科歯科大学医学部卒業後、救急総合診療に従事。2018年6月に株式会社ウェルネスを創業し予防医療サービス「Wellness」を提供。多くの患者さんと接する中で、防ぎえた後悔をなくしたいと考え「病気になる前にパーソナルドクターと予防する世界」を目指しています。健康管理や予防のために役立つ情報を発信します。

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出典:「19番目のカルテ」公式サイトより

出典:『19番目のカルテ』公式サイトより


話題のドラマ『19番目のカルテ』(TBS系)。主人公は、魚虎総合病院で「総合診療医」として勤務する医師。派手な手術や専門的な治療ではなく、“なんとなく”の不調や原因不明の痛みに悩む患者に寄り添い、丁寧な問診や全身の診察を通じて原因を探っていきます。これまであまり注目されてこなかった「総合診療科」という領域が、いま脚光を浴びています。

本記事では、総合診療医とは何か、なぜいま必要とされているのか、そして現場ではどのように医療の“空白地帯”を埋めているのかを、総合診療医として予防医療にも取り組む医師の視点から解説します。
 

「診断がつかない病」に挑む姿が共感を呼ぶ『19番目のカルテ』第1話

『19番目のカルテ』第1話では、原因不明の全身の痛みに苦しみ、日常生活も困難になった女性・黒岩百々(仲里依紗)のエピソードが描かれます。彼女は複数の病院を受診しても原因が分からず、痛み止めでやり過ごす日々を続けていました。

そんな中、搬送先の病院で出会った総合診療医・徳重晃(松本潤)が、検査入院の結果をもとに一つずつ可能性を除外し、「線維筋痛症」と診断します。この病気は血液検査などで異常が出にくく、診断が非常に難しいことで知られています。

この一連の描写は、まさに総合診療医の役割を象徴するシーンです。診療科の枠を超え、患者の訴えを丁寧にすくい上げ、医療の“ブラックボックス”に光を当てていく。その姿勢は、専門特化された現代医療の中で忘れられがちな、「人を診る医療」の本質を映し出しています。
 

なぜ専門医の時代に、“全体を診る医師”が求められるのか

日本の医療は、世界でもトップレベルの高度な技術と専門性を誇ります。一方で、内科、循環器科、呼吸器内科、消化器内科、整形外科、など、極めて細かく診療科が分かれているため、「自分が何科にかかればいいか分からない」という患者の声は後を絶ちません。

「疲れが取れない」「微熱が続く」「痛みが続く部位がある」「複数の症状があるが異常が見つからない」——このような曖昧な症状を抱えた患者に対し、専門医制度だけでは対応しきれない場面が少なくないのです。

そうした中で登場したのが「総合診療医」。特定の臓器にとらわれず、患者の“人となり”や生活背景も含めた全体を診る「全人的医療」を担う存在です。
 

「総合診療医」とはどんな医師? 医療の“司令塔”としての役割も

総合診療医(Generalist)は、特定の臓器に限定せず、幅広い知識と視野で患者を診る医師です。病気そのものだけでなく、患者の生活環境や心理状態も踏まえて診療を行います。まさに、“病気ではなく人を診る”医療です。初期診断、複数疾患の整理、社会的背景を含めた介入、そして必要に応じて専門医へつなぐ、一連のプロセスをマネジメントする「医療の司令塔」と言えるでしょう。

『19番目のカルテ』では、複数の診療科を転々とする患者の“診断がつかない病”に、若き総合診療医が地道な情報収集と仮説検証を重ねて迫っていきます。これは、実際の総合診療の現場でもよく見られるアプローチです。
 

「なんとなく不調」に向き合う医療の最前線

実際、筆者も総合診療医としての勤務経験がありますが、「検査では異常がないがつらい」といった訴えを頻繁に受けました。そうした場合、単に検査データだけを見るのではなく、「生活リズム」「ストレス」「栄養」「睡眠」など、多角的な視点から患者の健康状態を評価する必要があります。

また、患者本人すら気づいていない、病気の“兆候”を見抜く力も求められます。たとえば軽度な貧血の背後に消化器がんが潜んでいたり、「なんとなく疲れる」という訴えの裏に心疾患が隠れていたりすることがあるのです。そうした“見逃されがちな兆候”を察知することも、総合診療医の責務です。
 

予防医療との高い親和性──病気の“前”にアプローチする

筆者は現在、パーソナルドクターとして、経営者やビジネスパーソンに向けた予防医療を提供しています。そこで重視しているのが、“症状が出る前に気づく”という姿勢です。これは総合診療医の思考と非常に近く、両者は高い親和性を持っています。

特に、「一見したところ健康そうに見える人」の中に潜むリスクを炙り出すには、検査データを見るだけでは不十分です。本人の日常の変化を丁寧にすくい取る観察力や洞察力、幅広い医療の知識が求められます。
 

社会の変化とともに変わる医療。総合診療医のこれからに期待されること

高齢化社会では、複数の疾患を抱える人が増え、“部分最適”から“全体最適”へと医療の在り方も変化が求められています。専門医制度の優れた面を活かしつつ、患者の人生全体を見渡せる医師の存在が不可欠です。

総合診療医は、地域医療でも都市型医療でも、その橋渡し役を担える貴重な存在と言えます。その役割や重要性をより多くの人に知ってもらうことが、これからの医療を形づくる一歩になるのではないでしょうか。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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