転職のノウハウ

こっそり誤情報を引き継ぐ“ステルス復讐”も増えている…近ごろよく耳にする「リベンジ退職」の実態

「リベンジ退職」という言葉が広まりつつある。会社での不満や負の体験に対する抗議として、従業員がトラブルを起こしながら退職することを指す。昨今のリベンジ退職の傾向を紹介し、そして会社と自分を守るための対策を考える。※画像:PIXTA

小松 俊明

小松 俊明

転職のノウハウ・外資転職 ガイド

東京海洋大学教授。専門はグローバル教育/キャリア教育。サイバー大学客員教授を兼任。著書は「できる上司は定時に帰る」「35歳からの転職成功マニュアル」「人材紹介の仕事がよくわかる本」「エンジニア55歳からの定年準備」他。元ヘッドハンターで企業の採用事情に詳しい。

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最近よく耳にする「リベンジ退職」の実態とは ※画像:PIXTA

最近よく耳にする「リベンジ退職」の実態とは ※画像:PIXTA

近ごろ「リベンジ退職」という言葉をよく聞くようになってきた。リベンジ退職とは、職場での不満や負の体験に対する抗議として、従業員が意図的に会社にダメージを与える形で退職することを指す。

リベンジ退職の代表的な事例は3つに集約される。「退職時に後任者への円滑な引き継ぎを拒否すること」「決算期など、いわゆる会社の繁忙期に合わせてわざと退職すること」、そして「退職前後に、会社批判とも取れる投稿をSNSなどで繰り返すこと」である。

そして、それらは多様化の動きすら見せているという。昨今の実態に迫りつつ、会社と自分を守るための対策を考える。
<目次>

巧妙な「ステルス・リベンジ」

「リベンジ退職」というくらいだから、退職前後に辞める社員と残る社員(あるいは会社)との間に目に見えた形で激しいトラブルがあることが想像される。しかし近年のリベンジ退職の実態は、むしろ目立ったトラブルを避ける傾向が強まっている。隠密に、こっそり行う「ステルス・リベンジ」が増えているのだ。日本人に多い「人との対立を避けたい性格」的にも、この方法のほうが適しているのかもしれない。

具体的にどういうことだろうか。例えば、引き継ぎを拒否して波を立てるのではなく、まじめに引き継ぎ準備に取り組んでいる“ふり”をして、実は誤った引き継ぎを行うことなどだ。引き継ぎ時に巧妙に間違った情報を織り込むことが多いという。

しかも、すぐに表面化するような分かりやすいフェイク情報ではなく、一見間違った作業であると分からないように、どちらとも取れるような表現で「不親切に」「不誠実で」「間違いを誘引する」業務指示を肝心な場所に残しておくのだという。業務を詳しく理解している人だからこそできる巧妙な技だと言っていいだろう。ある程度の知性がないとできない行動でもある。

実際引き継ぎを拒否することは、誰の目から見ても退職者が悪く自分勝手な行動に映るものであり、退職者自身に非難の矛先が向かう。しかし、ステルス・リベンジを仕掛けておけば、退職後しばらくしてから後任者が業務で失敗し、その結果会社に損害を与えることができるかもしれない。会社への恨みが深ければ深いほど、そして退職者が有能な実力者であればあるほど、こうした知能犯は増えるのだ。

あえて繫忙期に合わせて退職する

次は「決算期など、いわゆる会社の繁忙期に合わせてわざと退職する」パターン。これは転職者の売り手市場が続いていることが関係しているのだろう。「辞めても次がある」から、復讐の後押しをしてしまっているのかもしれない。

転職社会が定着してから久しいが、繁忙な決算時期や年末商戦などの時期を避け、後任者への十分な引き継ぎ期間を設けるなどして、会社都合のタイミングに配慮して退職する慣行は今でもあるに違いない。退社後にも良好な人間関係を継続させることを望む人が多いことを考えれば、こうした辞め方は合理的である。ただし、転職先の企業にとっても都合はあるわけで、辞める会社のそれと一致しているとは限らない。

従来、新しく社員を受け入れる会社は、その社員が円満に退社することを優先し、入社時期に融通を利かせることが多かった。しかし、転職市場の盛り上がりから出ていく人は常にいるし、体調不良で職場から一時離脱する社員もいる。しかも入社して早期に退職する新卒社員も増えてきているとあって、慢性的に戦力ダウンな状態が続いている職場は多い。採用難もあって戦力の追加も容易ではない。

このような状況を踏まえて、少しでも早く人材が欲しい会社は対策を講じるようになってきた。例えば条件面では、入社時期を会社都合として明示するのと同時に、ある時期までに入社できた場合には特別なボーナスを支給すると提示するなど、すぐに辞めて転職先に入社するメリットを強調するようになってきた。

さらに仕事の内容においても、入社直後に参加してほしい国際会議や海外出張などの情報を提供し、新しく入社予定の社員に対して“チャンスを逃すと損をすること”をほのめかすなどして、辞める会社よりも新しく入社する会社の都合を優先させて、自分の未来に向けた選択を重視するように仕向けていくのである。

「立つ鳥跡を濁さず」という日本古来のことわざにある価値観を好む日本人だとしても、新しいスタートを切る会社から明るい未来を提示されたら「後は野となれ山となれ」となり、リベンジ退職をもくろむ人に「後足で砂をかける」合理的な理由を与える状況を生んでいるのではないだろうか。

>次ページ:実はSNSよりもネガティブな投稿を見かける場所
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