
体力がつくだけではない? 子どもの心と脳の成長や、将来の健康にもつながるスポーツのメリットとは(出典:Shutterstock)
中学入試の受験熱からプレッシャーが増す中、スポーツなどの習い事と勉強が両立できるのか、不安になる保護者の方は少なくありません。「習い事に体力を使ってしまうと、勉強ができないのでは」「スポーツを続けていて、成績が落ちたらどうしよう」と心配する気持ちもよく分かります。
しかし、ご安心ください。子どもにとってスポーツは、単なる体力づくりではなく、心と脳、さらには将来の健康習慣を育てる、非常に重要な学びの機会なのです。
今回は、最新の研究から明らかになった2つの視点から「スポーツが子どもに与える影響」についてご紹介します。
スポーツは最強の「心のサポーター」! 精神安定や認知機能向上の報告も
スポーツは身体能力の向上だけでなく、心の健康にもよい影響を与えると分かっています(※1)。2018年にアメリカで行われた実験では、子どもたちに屋内と屋外でウオーキングをしてもらい、その後で脳波測定と認知機能のテストが実施されました。結果、屋内外問わずウオーキングを行ったグループでは、認知機能の改善が認められたのです。さらに、屋外で歩いたグループのほうには、脳波に「瞑想(めいそう)状態」ともいえる、深いリラックス状態がより多く現れていました。
つまり、自然の中で体を動かすことは、精神を安定させ、認知機能の向上にもつながるのです。外遊びを普段からしている子は、精神状態も認知機能にもプラスの影響があると考えられます。
機会があれば、ぜひ自然の中で体を動かすことを試してみてください。公園の緑や森の空気は、それ自体にストレス軽減効果があると考えられています。親子で一緒にハイキングに出掛けるのも、すてきな「心の栄養」になるでしょう。
将来の健康に先行投資! 子どもの頃の運動習慣と病気の関係
40代・50代になると現実味を帯びてきて心配になるのが、心筋梗塞や脳梗塞といった血管の病気です。親世代になると、周りにそういった病気になった人もいるのではないでしょうか。実は、これらの疾患リスクも、子どもの頃の運動習慣と深く関係していることが、最新の研究で明らかになっています(※2)。2024年にイギリスで行われた研究では、1682人の子どもを11歳から24歳まで13年間にわたって追跡しました。その報告によると、テレビ視聴やゲームなどで座っている時間が1分増えるごとに、心臓の筋肉の重量がわずかに増加する傾向が確認されたそうです。心臓の重量が増加するとは、その分、心臓に余分な負荷がかかる状態になります。これは、狭心症や心筋梗塞・早期死亡といったリスクにつながると分かっています。つまり、座っている時間はなるべく少ないほうが、心臓にとってはよいということです。
一方で、ごく軽い運動、例えば、ゆっくり歩いたり、家事を手伝ったりする程度の動きを1分増やすだけで、心肥大が抑制されることも明らかになっています。こうした運動で、成長に伴う心臓の重量増加を、最大49%も軽減できる可能性があるとの報告もあります。つまり、日々の小さな運動の積み重ねで心肥大は解消でき、将来の大きな健康リスクを防ぐカギになるということです。
子どもが成長し、壮年期以降になってからの健康も、子どもの頃からつくられていくのです。勉強ばかりに偏らずに軽い運動を続けることは、子どもの人生を長期的に見た場合にも、非常によいことだと言えます。
児童精神科医としてのメッセージ「運動は、子どもの未来を育む最高のプレゼント」
子どもにとってスポーツや運動は、単なる体力づくり以上の、計り知れない価値を持っています。認知機能の向上やメンタルの安定、将来の心臓づくりにも欠かせません。特定のスポーツで一番になることや、厳しいトレーニングに耐えることだけが重要なのではなく、子どもたちが自ら「楽しい」と感じ、体を動かす気持ちよさを知ること、この経験こそが大切なのです。
また、スポーツには粘り強さ、協調性、自己効力感などの非認知能力を育む力もあります。私自身も高校時代にサッカーに打ち込み、仲間との信頼関係を築いた経験が、医師としてチーム医療に関わるうえでも貴重な糧になりました。
また、私の児童精神科外来には、不登校や人間関係に悩む子どもたちが訪れます。その子どもたちと保護者の多くが、つらい状況の中で「人にどう思われるだろう」という不安を抱え、人との関わりを避けてしまう傾向が見られます。しかし人は人を支え、人に支えられて生きる生き物です。人との関係につまずいても、自分を理解してくれる人に支えられて、踏ん張れることもあります。スポーツはそのような経験ももたらしてくれるものです。
ぜひ、まずは親子で一緒に笑いながら、子どもの「やってみたい!」という純粋な好奇心を大切にしてあげてください。それこそが、お子さんの未来を豊かに輝かせる、最高のプレゼントになるはずです。
■参考文献
1. Andrew W. Bailey,Garrett Allen,Josh Herndon,et al.Cognitive benefits of walking in natural versus built environments. World Leisure Journal 2018;30:293-305.
https://doi.org/10.1080/16078055.2018.1445025
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/16078055.2018.1445025
2. Andrew O Agbaje.Accelerometer-based sedentary time and physical activity from childhood through young adulthood with progressive cardiac changes: a 13-year longitudinal study.European journal of preventive cardiology.2024 Sep 06;31(12);1480-1492.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38711312/
https://academic.oup.com/eurjpc/article/31/12/1480/7655444