ITジャーナリストの高橋暁子さんの著書『若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義』では、SNSにおける世代間のコミュニケーションスタイルの違いや、それによって生じる誤解や摩擦について、具体的な事例を交えながら分かりやすく解説しています。
今回は本書から一部抜粋し、かつて「常識」だったガラケー時代のメール作法が、なぜ現代の若者には奇異に映るのか、そして若者たちがLINEで句読点や絵文字を使わない意外な理由、さらには「おじさん」を感じさせる顔文字の傾向について紹介します。
ガラケー時代のメール作法
LINEはサービス開始が2011年と、比較的最近できたものです。ほとんどの大人世代は、ガラケーのメールからコミュニケーションをスタートさせていることが多いでしょう。
ガラケーのメールは、メールなので長文が当たり前でした。
読みやすくするために、改行したり、句読点をつけたり、絵文字や顔文字をつけたりしました。
なお、私が2008年に取材した記事 (ASCII.jp「黒メールはNG、クローバー付きメールは脈なし? 絵文字から知る『女子大生のホンネ』」) からは、若者世代のガラケーメール文化がうかがえます。
絵文字が一つも使われていないメールは「黒メール」と呼ばれて嫌われること、そのようなメールは「怒っている」という意味になること、相手に「怖い」印象を与えること、などがインタビューから読み取れます。
これは今も共通する感覚で、長文で書かれた絵文字や顔文字がない文字だけからなるメッセージは相手に威圧感を与え、怖い、怒っているという印象を与えることがわかっています。
相手にそのような誤解を与えないよう、絵文字や顔文字、カタカナなども使って明るく楽しい印象の文面にすることは、けっして間違っていないというわけです。
句点 (。) ありの文面となしの文面では、ありのほうが怒りを込められているように感じるという調査結果もあります。
「いいね~(^^)」
「いいね~。」
「いいね~」
では、同じ文面でも意味が違うというのです。
若者のLINEに句読点・絵文字がない理由
大人の作法としてはおじさんLINE、おばさんLINEが正しいのですが、若者世代が見るとあまりの違いに驚くことになります。たとえば中学生になったばかりだった息子に、私のLINEアカウントを見せてみたところ、「文章が長い! 絵文字が多い!」と驚いていました。
そして、「やり取りがこれだけで終わるのは短い。僕らは延々とやり取りしているから、ママたちみたいに一往復で終わるなんてない。それから、句読点がついているの初めて見た」と言っていました。
「ほらね」と、他の子とのやり取りを見せてもらいましたが、どの中学生も短文でやり取りの回数が多く、句読点はつけず、絵文字も顔文字も見当たりませんでした。
クラスLINE、学年LINEなどでもみんなそうだったので、その世代では間違いなくそれが一般的なのです。
この違いを言語化したものが、「おじさんLINE」「おばさんLINE」というわけです。
おじさんLINE、おばさんLINEになるのは、文章コミュニケーションを始めたツールによるところが大きいでしょう。
ガラケーメールはサーバーに取りにいく必要があった時もあり、リアルタイムでのプッシュ通知ではなかったため、非同期コミュニケーションにならざるを得ませんでした。
そこでいつ読むかわからない相手が不快な気持ちにならないよう、楽しい文面にすることが相手への気遣いでした。
ところがLINEから利用し始めた場合、プッシュ通知が当たり前であり、既読機能も備えていたため、チャットのような同期型のリアルタイムコミュニケーションが可能でした。
同期型コミュニケーションの場合、多少の失言をしても、すぐにフォローのメッセージを送ることができます。
相手を待たせないよう、絵文字や顔文字をつけないこと、句読点をつけずに短文で送ることが、相手への気遣いというわけなのです。
若者世代がやり取りする上の世代といえば、両親やバイト先の店長、上司などです。
立場の違いから、若者を怖がらせないよう、気を遣ってメッセージを送ることが多いでしょう。
ライトで楽しい印象の文面にして、怖い印象を与えないことを意識して送るはずです。
おじさんを感じる顔文字とは?
なお、「Simejiランキング」による「Z世代が選ぶ!! “おじさん”を感じる顔文字TOP10」によれば、全体に、汗をかいていたり、凝った顔文字はガラケー時代を思わせ、古さを感じさせるようです。 シンプルな笑顔の絵文字くらいにしておくと、若者に引かれずに済むかもしれません。若者も、「まだ親しくない人にメッセージを送る時は、悪意がないことを伝えるためにあえて笑顔の絵文字を一つくらい入れることがある」という使い方をするようです。
彼らは、すでに親しい同士で送るからこそ絵文字、顔文字がいらないコミュニケーションをしています。お互いに相手のことをよく知っていて、悪意がないことがよくわかっているためです。
ちょっとした失言も、リアルタイムコミュニケーションなら気づいてすぐにフォローすることもできます。
しかし、まだ親しくない人に送る場合は、誤解されないように絵文字を入れて情報を付け加えることがあり、その点は大人と大きく変わらないのです。 高橋暁子(たかはし あきこ)プロフィール
ITジャーナリスト/成蹊大学客員教授。元小学校教員。書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。『ソーシャルメディア中毒』(幻冬舎)など著作多数。SNSやスマホの安心安全利用等をテーマとして、テレビ、雑誌、新聞、ラジオ等のメディア出演多数。令和3年度から中学校国語教科書(教育出版)にコラム掲載中。