ITジャーナリスト・高橋暁子さんの著書『若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義』では、SNSにおける世代間のコミュニケーションスタイルの違いや、それによって引き起こされる誤解について、鋭い視点で分析しています。
今回は本書から一部抜粋し、なぜ若者たちはLINEのメッセージをすぐに既読にしないのか、そして「既読スルー」や「未読無視」が彼らにとってどのような意味を持つのか、その背景にある複雑な心理について紹介します。
若者はLINEの「既読」をすぐにつけない
LINEでは、メッセージを読むと「既読」がつきます。既読機能を嫌がる人は多いです。
「既読をつけても返事をできない時があるから」「既読をつけたらすぐに返事をしなければいけない気になるから」という、返信へのプレッシャーで嫌がる人は多いようです。
「すぐに既読をつけると暇と思われるから」「すぐに既読をつけたら返事を待っていたみたいで気持ち悪いから」という意見も聞きました。
すぐに既読をつけるのは、このように、あまりいいとは思われないようなのです。
息子が中学生になり、LINEを使い始めました。彼の使い方で気づいたことがあります。通知にメッセージ内容を表示させる設定にしていたので、通知でメッセージは読めていました。それなのに既読はつけず、何日もそのままにしていたのです。
どうやら他の友達も同じようにしているようで、数日間既読がつかないのは当たり前。既読をつけたら返事をするというやり方をとっているようでした。
息子のLINE相手は同じ中学の同級生が中心なので、彼らのやり方を見て学び取った一般的な方法なのでしょう。
相手へ送ったメッセージが何日間も既読にならないのに、自分だけすぐに既読をつけたら待っていたようでかっこ悪い、暇そうに見える、気持ちに余裕がなさそうに見えると判断しているのかもしれません。
「既読スルー」=バカにされている?
「未読無視」「既読スルー」というものがあります。未読無視は、いつまでもメッセージに既読がつかないこと。既読スルーは、メッセージに既読がついたのに返事がないことを指します。若者にとっては、これは大きな意味を持つことのようです。
「自分がバカにされている」「自分を嫌っている」「怒っている」などの意味を持つ行動に思えるためです。
LINEのやり取りがなかなか終わらないことがあるのは、お互いが相手へのメッセージに返事をし続けてしまうためです。相手のメッセージで終わって自分が返事をしなかった場合、「無視した」と思われる可能性があります。
これを恐れて、「意味がないスタンプでもいいから送って、絶対に自分がやり取りの最後になるように気をつけている」という学生がいました。未読無視や既読スルーは、自分が相手をどう思っているのかという、非言語コミュニケーションになり得ます。
それを理解している若者たちは、誤解を恐れているのです。
相手が自分の投稿をどのくらい見ているか、どのくらい反応しているか、投稿から反応までの早さや頻度なども、相手が自分をどう思っているかということが見える行為です。
mixiの「足あと」が支持された理由
mixiで初期にあった「足あと」機能は、なぜ人気があったのでしょうか。これは、自分のページを見に来てくれた人がわかる機能だったからです。Instagramのストーリーズも閲覧した人が確認でき、TikTokでもプロフィールの表示履歴をオンにすると同様に確認できますが、これと似た機能です。
支持されたのは、足あとによって、「いいね!」やコメントなどがなくても、相手が自分を気にかけて見に来てくれたことがわかったためです。それによって相手を近く感じ、親しみを覚えました。
すべてのSNSにそのような機能があるわけではないので、相手が自分をどうとらえているかは、自分の投稿への反応率、反応までの時間などで量るしかありません。
他の人への反応が多いのに自分の投稿には反応が少ない場合は、自分はあまり気にかけてもらえていないということになります。単に忙しくSNSが見られないだけなら問題ないのですが、そうでない場合が問題視されます。
たとえば大学生などは複数のSNSを使っているため、他のSNSへの更新や反応から判断されることがあります。
「LINEは既読にならないのに、Instagramの更新はしている」「DMに返事が来ないのに、Xの投稿はしていた」などの行動は、「見られる状態なのにあえて見ないのではないか/あえて返事をしないのではないか」と判断され、トラブルの元になることがあります。
Instagramでも、ログイン中の場合、アイコンに小さな緑の丸い印がつきます。大人はほぼ気にしない機能で、知らなかったという方も多いでしょう。
しかし、学生など相手が自分をどう見ているかが気になる世代はこの機能を把握しており、よくチェックしていると聞きます。
相手の様子は知りたいけれど、自分が気にしていることは知られたくないため、このような機能が重宝されるというわけでしょう。
SNS時代、自分の行動は始終見られており、行動から判断されていると考えるべきなのです。 高橋暁子(たかはし あきこ)プロフィール
ITジャーナリスト/成蹊大学客員教授。元小学校教員。書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。『ソーシャルメディア中毒』(幻冬舎)など著作多数。SNSやスマホの安心安全利用等をテーマとして、テレビ、雑誌、新聞、ラジオ等のメディア出演多数。令和3年度から中学校国語教科書(教育出版)にコラム掲載中。