
失恋のつらさから立ち直るのは、誰にとっても簡単なことではありません(出典:Shutterstock)
多くの人が一度は経験するであろう「失恋」。特に感受性が豊かな若い頃の失恋は、心に深い刻印を残すことがあります。その経験が、その後の人生の糧となることもあれば、逆にトラウマのようになり長く引きずってしまうこともあるかもしれません。
みなさんの中にも、大きな失恋を経験し、それが今の自分につながっているという方もいるのではないでしょうか。
この問いに対して、恋の国「イタリア」から興味深い研究論文が発表されました。失恋を科学で解き明かす——非常に興味深いですよね。
今回はその論文を元に、失恋の経験が人生にどう関わってくるのか、また失恋をどのように生かせばよいのかについて、わかりやすく解説します。
【論文】失恋の心身への影響は?「思い返すほど、痛手が大きくなる」
本研究は、イタリア・カッシーノ大学のStefania Mancone氏らが『Front Psychiatry』誌に2025年3月に報告したものです。研究の結果、「失恋を思い返す回数が多いほど、学業や身体の不調は増し、感情的なつらさも強まる」ことが明らかになりました。特に、何度も繰り返し考える「反芻思考(はんすうしこう)」と、別のことに没頭して現実から目を背ける「回避的対処」を行うほど、感情的苦痛が増す傾向が見られました。
逆に、前向きに捉え直す「ポジティブな態度」や、問題に向き合う「問題解決型の対処行動」をとる人ほど、学業成績や家族関係が改善しやすいという結果が出ています。以下で詳しく解説しましょう。
研究の背景と目的:若い世代の失恋時の行動と、その後の人生の経過について
1. 研究の背景失恋したとき、人は様々な行動をとりますが、大きく以下の4タイプに分類されます。
- 反芻(はんすう)思考:くよくよ同じことを繰り返し考える
- 回避的対処:現実から目を背け、別の何かに没頭しようとする
- 問題解決的対処:どうして失恋にいたったのか、原因や対策に向き合う
- ポジティブ態度:失恋を前向きに捉え直す
本研究は、その「失恋時の行動」と「その後の人生の経過」の関係を明らかにするものです。
2. 研究の目的
- 反芻思考が「学業・家族関係・身体の健康・感情的ウェルビーイング」の4領域に与える影響を評価する
- 「ポジティブ態度」「問題解決型対処」「回避的対処」が、その関係をどう仲介するかを分析する
- 周囲からの支援の質が対処行動や適応結果に与える影響を明らかにする
対象者は、過去2年以内に恋人との別れを経験した17~22歳のイタリア在住の若者たち560人です(平均年齢18.7歳)。20~30分のオンライン調査により、以下の情報を収集しました。
- 交際期間や、別れてからの期間、別れの切り出しなどに関する基本情報
- 失恋の影響度
- 周囲からのサポート評価
- 困難への向き合い方(COPE-NVI:イタリア語版)
- くよくよ考えてしまう度合いのチェック(反芻思考尺度)
判明! 失恋後の心身の健康を守るカギは「前向き思考」と「人とのつながり」
1. 反芻行動はは心身に悪影響を及ぼすくよくよ考える傾向が高いほど、「心の幸福感」や「身体的な健康」、「学業成績」への悪影響が強くなる傾向が見られました。くよくよするほど、精神的にも身体的にも、そして学業面でも苦しみが深くなる傾向があるようです。
2. 回避行動も心身に悪影響を及ぼす
同様に、問題を避ける傾向が強いほど、心身の健康に悪影響が及びやすいこともわかりました。問題から目を背けることは、心身の不調に関連があるようです。
3. 人に頼って前向きに考えることは、よい影響につながる
一方で「人に頼る」傾向のある人は、前向きな態度をとりやすく、問題解決にも取り組みやすい傾向がありました。
また、「ポジティブな態度」は反芻思考と負の相関があるようです。前向きな人ほどくよくよ考えにくい傾向がありました。加えて、学業成績への好影響も確認されました。
まとめ:失恋を乗り越えるために大切なこと
この研究から、失恋によるつらさを軽減するためには、以下のような対応が重要だと考えられます。- 同じことを何度も考えすぎない
- 感情から目を背けずに向き合う
- 前向きに捉え直す
- 具体的に行動し、問題を解決しようとする
- 一人で抱え込まず、人に頼る
筆者の経験から……あなたや誰かが失恋した時に
そうは言っても、筆者である私も、心を奪われた失恋を40年経った今も思い返してしまいます。自分を責めて、ああすればよかった。こうすればよかった。しかし、いまさらどうすることもできない、これしかなかったのだ、と答えの出ない結論に至る人生を繰り返しています。失恋のつらさを和らげる方法どころか、何度も自分自身を否定的に考え続けて、心に悩みを抱えてしまいました。本当につらいことは、人にもなかなか言えないものです。そのせいで、年月とともに傷が深くなってしまったのかもしれません。もしかすると、早い段階で友人に打ち明けていれば、私の人生は変わって変わったものになっていたかもしれません。そんなふうに思えたのは、この文章を書いたことで、ようやく少し心が軽くなったからです。
もし周囲の人が失恋したとき、あるいはご自身が失恋したとき、私のように長くつらい思いをかかえることがないよう、ぜひこの記事を参考にしてみてください。あなたの心が少しでも軽くなりますように。
■論文情報
Stefania Mancone,Giovanna Celia,Fernando Bellizzi,et al.Emotional and cognitive responses to romantic breakups in adolescents and young adults: the role of rumination and coping mechanisms in life impact.Front Psychiatry. 2025 Mar 28:16:1525913.
- doi: 10.3389/fpsyt.2025.1525913. eCollection 2025.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40225842/(PubMad・英語)
- https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11985774/(PMC全文・英語)