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険悪な空気ではない? 介護・医療現場で使われる「不穏」の意味

【薬学部教授が解説】2025年問題で介護現場の人手不足が深刻化する中、患者さんの「不穏」への対応も介護者にとって大きな課題の1つです。一般的に使われる「不穏」と、介護・医療現場で使われる「不穏」は、実は意味が異なります。分かりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

不機嫌な様子の高齢者

一般的に悪いニュアンスで使われることが多い「不穏」。医療・介護現場での意味は?


2025年問題が指摘される中、介護現場では人手不足が深刻化し、認知症の方へのケアの負担が増しています。特に、落ち着きを失い、時に激しい感情を表出する「不穏」への対応は、介護者にとって大きな課題の1つです。知らない方は誤解してしまいがちな「不穏」が指す状態について、分かりやすく解説します。
 

「不穏」とは? 一般的な意味と、介護・医療現場での意味の違い

「不穏」とは、読んで字のごとく「穏やかでない」という意味です。一般的には、何か良くないことが起こりそうな雰囲気のときに「不穏な空気」などと言いますね。誰かが場にそぐわない発言をしたときなど、周りの人たちがどう反応していいのか戸惑い、何となくトラブルが起こりそうな、不安や緊張感が漂った状態です。また、集団内で秩序を乱すような行動を企てる人のことを「不穏分子」と呼ぶこともあります。

一方で、医療用語として介護や医療現場で使われている「不穏」には、違う意味があります。明確な定義はありませんが、普段は穏やかな患者さんが、落ち着きを失い、急に大声を出したり暴れたりして、興奮状態になることを指す場合が多いです。

認知症や精神疾患などの1つの症状として現れたり、治療のために用いている薬の副作用や感染症の影響で脳機能が低下したときなどに現れます。一時的な軽い意識障害を「せん妄(せんもう)」と言いますが、せん妄によって不穏状態が引き起こされることもあります。
 

脳と薬学の専門家として「不穏」という表現について思うこと

ただし、脳と薬の専門家として思うこともあります。介護や医療の現場で、「不穏」という言葉は手短で便利な用語として使われています。薬を処方するときにも「不穏時に服用」といった指示があります。

しかし、先にご紹介した通り、一般的に「不穏」というと、日常生活の中でも悪いニュアンスで使われることが多い言葉です。意味があいまいな状態で浸透しているので、相手の受け取り方によっては失礼になってしまうケースもあります。また患者さんが落ち着きを失う原因はさまざまですので、理由はよく分からないけど落ち着きがないから「不穏」と片づけてしまうのも、少し注意が必要です。できる限り具体的な状態を伝えるほうが、適切でしょう。

例えば「落ち着きがなく、不安をどう解消していいのか分からない様子で、いら立ちが行動に現れているようです」と言い換えるだけでも、その患者さんの心の動きがより伝わるのではないでしょうか。介護や医療における「不穏」という言葉の使い方について、見直すことも検討していいと筆者は考えています。
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