浅田真央選手を襲った悪夢

浅田選手を襲ったショートの不調。それは「オリンピックの魔物」が原因ではなかった。

浅田選手を襲ったショートの不調。それは「オリンピックの魔物」が原因ではなかった。

まさかのショートプログラムに日本中が悲しみ、完璧なフリーに日本中が涙を流したフィギュアスケート浅田真央選手のソチ五輪。彼女自身が笑顔で終われたことに救われた人も多いだろう。

しかしそれで「よかった」と言うわけにはいかない。なぜなら、フリーを見ればわかるように、本来の力が発揮できれば浅田選手は金メダル争いをしていたはずだからだ。

浅田選手を襲ったショートの不調について、「オリンピックの魔物」と言った人もいるが、今回に限ってそれは正しくない。

真の原因は「個人戦の前に行われる団体戦」に浅田選手が出場を余儀なくされたことだ


選手の体調を無視したソチ五輪の大会運営

言うまでもないが、選手は「個人戦」でのメダル獲得に選手人生の全てをかけている。よって体調のピークも個人戦に合わせるのが当然だ。今回初採用されたフィギュア団体戦も、本来であればスキージャンプのように個人戦の後の余力で争われるべきだが、今回は先に行われた。

フィギュアスケートは過酷なスポーツ。十分に調整しないと怪我にもつながるため、団体戦に出る選手は一度体をつくらなければならない。

しかし今大会では、団体戦の後に個人戦が行われるため、たった数日間で疲労を回復させながら再び体をピークに戻さなければならないという、五輪史上かつてない無謀な条件を突きつけられたのだ。


無謀な条件が引き起こした悲劇

それは想像を絶する事態を招いた。団体戦に出た各国の超一流選手が、個人戦で全く本来の能力を発揮できなかったのだ。

男子シングルの団体戦1位エフゲニー・プルシェンコ選手(ロシア)は個人戦直前に故障し棄権。金と銀を取った羽生結弦選手とパトリック・チャン選手(カナダ)も、かつて経験のないほどミスを重ね、自己ベストとはほど遠い点数での「相対的な勝利」。地元ロシアの新聞に「勝者なき勝利」と酷評される結果。

女子への悪影響も甚大。浅田真央選手が目を疑うような失敗をしたのをはじめ、鈴木明子選手も得意のジャンプでミス。団体戦で完璧な演技を披露したユリア・リプニツカヤ選手(ロシア)も度重なる転倒で5位に終わるなど、あり得ない失敗が相次いだ。


キムヨナ選手が代弁した団体戦出場選手の本音

有力選手を襲った悪夢の連鎖のわけは、オリンピックの魔物のせいでも心理面での問題でもない。個人戦の前に団体戦に出なければならなかったという、「選手の体調を無視した大会運営」にあった。

女子シングル個人戦に先立ち、韓国のキムヨナ選手がこう言った。
「私はアメリカや日本に生まれなくてよかった。団体戦に出なければなりませんからね。団体戦に出させられる選手は体調管理が困難でかわいそうです」
これは団体戦に出た選手が言いたくても言えない本音だ。

そして女子ショートプログラムが終わった後、解説者の八木沼純子さんもこう述べた。
「(団体戦の後)ずっと同じポジション(体調)をキープするのは難しいので、一度リセットしてから作り直すのが一番ですが、選手によってはそれは難しい
※( )内は筆者補足
つまり団体戦に出ることの悪影響は最初から明らかだったのだ。


戦力差に目をつぶった日本のスケート連盟

しかも日本の場合、ISUの評価(別掲補足)からも、団体戦で勝ち目がないことは最初からわかっていた。そんな勝ち目のない団体戦に参加させたスケート連盟の責任は重大だし、その判断の誤りが、浅田選手の心身にダメージを与え、結果的に金メダルを奪ってしまったといっても過言ではない。

これほど明らかな悪影響をもたらしたソチ五輪でのフィギュア団体戦。次のピョンチャン(平昌)五輪では、行われるとしても個人戦の後に変更すべきだし、場合によっては廃止も検討すべきだろう。


<補足>
国際スケート連盟(ISU)が発表した各国別ポイント(2013.12月時点)
1位カナダ(6053)
2位ロシア(5459)
3位アメリカ(5274)
4位日本(4062)

日本と3位以上の差は、世界と互角に戦えるペアとアイスダンス選手が不在なため。実際のソチ五輪団体戦にあてはめると、上位3ヶ国のどこかで選手が当日に棄権しない限り、逆転は不可能なポイント差。実際に優勝国ロシアはたった3種目で日本の4種目合計点を上回った。
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