子供の教育

不登校の息子が突然「僕、明日から学校に行く!」その裏に。元教員の母が語る挑戦と希望の光

わが子の不登校という困難を乗り越え、そこから得た学びをもとに、オルタナティブスクールを設立した元教員の挑戦をご紹介します。挫折や苦悩を力に変え、社会の中で自分らしい価値やキャリアを創るヒントになるはずです。

坂田 聖一郎

執筆者:坂田 聖一郎

子育て・教育ガイド

子どもが学校に行かないという状況は、保護者に抱えきれないほどの悩みや不安、孤独感をもたらすものです。「この子の将来はどうなるのだろう」「私の子育てが間違っていたのだろうか」とご自身を責めてしまったり、ご自身のキャリアについて先が見えないような閉塞感を抱いたりする人もいるかもしれません。

でも、もし、その経験そのものが、人生をより豊かにし、社会の中で自分にしか創り出せない価値を生む「キャリア」につながるとしたら?

今回は、わが子の不登校の経験を通して、新たな道を切り拓いた1人の女性のストーリーをご紹介します。不登校に深く向き合い、それを乗り越え、現在はオルタナティブスクール「I’m(アイム)」を主宰されている、元教員の堀美香さんです。

ここからは、堀美香さんの言葉でつづっていただきます。

始まりの物語 ~ 私のこと

息子さんたちとI’mで

息子さんたちとオルタナティブススクール「I’m」で

教員を目指した理由の1つは、私自身の挫折経験でした。私も高校時代、不登校気味だったんです。人の気持ちを読みすぎる性格の私は、人間関係に疲れ、全てが面倒に感じていました。

当時習っていたピアノの先生からも「そんな経験をした人が先生を目指すのはいいんじゃないか」と後押しされ、挫折経験を生徒に語れるような先生になりたいと思い、教育の道に進みました。

教員の仕事は充実していてやりがいも感じていましたが、一方で、教員の中には、真面目で優等生タイプの人が多かった。そんな学校という空間を、私は少し窮屈に感じていました。

「普通」を手放して見た景色

息子が不登校になったとき、私はとても深い悩みに直面しました。「普通」とは違うんだ、「かわいそう」という目で世間から見られているんだという思いから、学校に行かない息子と行かせられない自分を責める気持ちが生まれました。

でも、拭えない違和感も同時に感じていました。本当に学校に行くことだけが「普通」なのだろうか? 学校を選択しない子どもがいてもいいはずだし、そんな親子のための選択肢がもっとあってもいいはず。子どもたちがもっと自由に、個性を伸ばしながら教育を受けられる場所が必要だと感じ始めていたのです。

また、子どもを変えるのではなく、自分が変わる必要性を強く感じ、コーチングを通じて自分と向き合い、自分がどうしたいのかを考えていました。

息子の一言がくれた決意

決め手になったのは、息子からの一言でした。小学校入学直後に不登校になった息子は、2年生になると少し登校する日もありました。そして言ったのです。

「僕は2年生で学校行ったよ。でも決めた。3年生は行かない」

息子はただ行きたくない、ではなく、行ってみてから自分で行かないという選択をしたんです。このとき、チャレンジして自分で決めた息子の意見を尊重したいと思いました。

そして、子どもが“ありのまま”でいることができて、自分らしく成長できる場所、そんな学校を作ろう、と決意しました。私の挫折経験や不登校の息子を持つ親としての経験が活きるような場所を自分が作りたいと。

息子がそこに来ようが来まいが関係ない、私が作りたいものを作るという気持ちが強く湧いてきたのです。

「ありのまま」の居場所

オルタナティブススクールI’m

オルタナティブススクール「I’m」

「I’m」が最も大切にしているのは、子どもたちが自分らしく過ごせるように、心地よい環境を作ること。強制的に何かをするのではなく、それぞれのペースで学び、自分の感覚を大切にしながら成長できる場所でありたいと思っています。

私たちが提供したいのは、型にはまった教育ではなく、「ありのままで生きる」ための力を育む場所です。

実際に「I’m」に通っている子どもたちの変化を見ていると、その成果がはっきりと感じられます。「本来の自分を取り戻している」子どもたちが多くいるのです。

入学当時は「自分はダメだ」と思い込んでいるような子どもが、次第に自信を持ち、笑顔を取り戻していく姿を見ることが、私にとって何よりの喜びです。

なかでも印象的だったのが、表情が乏しく無口だった子が、数カ月後には友達と冗談を言い合って大笑いするようになっていたこと。その変化を見ると、まさに「この子は本来こういう子だったんだ」と感じさせられます。

そして、子どものことで悩む親にも、心地よい居場所を提供したいと思っています。息子のことで悩んだ経験や学んだコーチングを活かし、お母さんにとっても、正直な気持ちを吐き出せたり、元気になれる場所であれたらと思っています。

実際に悩んでいる保護者と会話をしたり、コーチングを実践したりする中で、保護者の偏った捉え方や悩みを生み出している感情がほぐれていくことを感じます。

子どもの選択と、私がやりたいこと

特に印象深いのは、当初「何としてもこの子を学校へ行かせたいのです!」という切実な願いを抱えていらしたお母さんの変化です。

私との対話や、I’mでお子さんが日々生き生きと過ごす姿を見守る中で、お母さんの中に「この子の人生なのだから、学校に行っても行かなくても、どちらでもいい」という穏やかな受容の気持ちが育まれていきました。

そして、いざお子さん自身が「やっぱり学校に行くよ!」と選択したとき、予想外にも「戸惑っています。私はI’mに通ってほしいのに……」と、なんともうれしい悲鳴を聞かせてくださったのでした。

そして、不登校だった私の息子も、現在I’mには通っていません。なんと、I’mのオープン前日に「僕、明日から学校にいく!」と突然宣言し、そのまま学校に通い始めたのです。子どもの選択は自由であるべきだということを、改めて息子が教えてくれた出来事でした。

私自身は、これからも不登校を経験するお子さんや、そのことで深く悩む保護者の方々が、I’mという居場所やコーチングを通して、自分自身を見つめ直し、本来の力を取り戻し、自分らしい人生を歩めるよう、心からのサポートを続けていきたいと思っています。

未来へ、地域とともに挑戦!

オルタナティブスクールI’mでの創作シーン

オルタナティブスクール「I’m」での創作シーン

I’mでは、確かな学力を育むための学習支援に加え、勉強という枠にとらわれない多角的な学びの機会を大切にしています。

例えば、週に一度の「キッチン」活動。子どもたちはメニューを決め、自分たちで買い物に出かけ、協力して料理を作り上げます。この自由なプロセスの中で、「旬の野菜はこれかな」「短い時間で作るならAIに相談して時短レシピを探そう!」と、探求心と応用力を自然に発揮するのです。

私たち大人はただ温かく見守るだけ。子どもたちは体験を通して、確かな生きる力を培っていきます。

I’mの目指す未来は、「大人も子どもも、ありのままで生きることを心から楽しめる場所」として、その価値とつながりをさらに広げていくことです。その実現へ向け、私自身の挑戦も続きます。

今は、地域の方々誰もが気軽に立ち寄れる憩いの場となるよう、敷地内のビオトープ作りや、子どもたちが企画・運営に関わるカフェのオープン準備を進めています。このカフェは、子どもたちが「自分でゼロから形にする喜び」を体験できる、特別な学びの場となるでしょう。

この挑戦を支えていただくため、現在クラウドファンディングも企画中です。ここから生まれるつながりは、I’mに通う子どもたちが地域社会と交わり、将来、自分らしく社会で活躍するための大きな力となります。
  • クラウドファンディングはこちら(申し込み開始予定日:5月15日)
I’mの根幹にあるのは、「ありのままで生きる力」を子どもたちの中に育みたい、という強い思いです。環境がどうであれ、自分自身の力で道を切り拓いていく力は、誰の中にも必ず宿っていると私は信じています。この揺るぎない信念こそが、I’mを創る最大の原動力であり、これからも私を導く羅針盤です。

今は、私の人生に新たな光と挑戦をもたらしてくれた、不登校という経験をした息子に、心から感謝しています。

ドラゴン先生からのコメント:経験こそが「価値」になる

堀さんは、お子さんの不登校という困難な経験を、ご自身の最も強力な「価値」に変え、社会に貢献する活動をされています。ご自身の経験、そしてコーチングで培ったスキルを活かして、同じように悩む親子に寄り添い、凝り固まった考え方を解きほぐし、前向きな変化を促しています。

私たちはつい、失敗や挫折を避けようとしがちですが、堀さんの歩みは、そのような経験こそが、その後の人生でかけがえのない力となり、自分らしい方法で社会に価値を創造することにつながることを証明しています。

そして何よりすばらしいのは、堀さん自身が常にチャレンジし続けていることです。ご自身の経験から得た深い理解を元に、既存の枠にとらわれず、常に新しい方法で子どもたちやその家族をサポートし、よりよい社会を創り上げようとされています。彼女のビジョンと実践は、まさにこれからの時代に求められる生き方、そして教育の在り方を体現しているのではないでしょうか。

増え続ける不登校という社会課題に対し、ご自身の経験と個性を活かして貢献される姿は、堀さんのお子さんをはじめ、多くの方に勇気を与えるでしょう。
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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