演出は『勝手にふるえてろ』(2017)『私をくいとめて』(2020)などを手掛ける大九明子監督。出演の決め手になったこと、役作り、共演についてなどさまざまなお話を伺いました。
<目次>
萩原利久さんと河合優実さんにインタビュー
――『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』は大九明子監督の最新作で、ジャルジャルの福徳さんが執筆された小説の映画化作品です。原作小説と脚本を読んで感じたことを教えてください。萩原利久さん(以下、萩原):僕は10代の頃から2回ほど、大九監督と仕事をしたことがあるのですが、長編作品では大九監督作に出演したことがありませんでした。なので、大九監督の映画に出演できることが純粋にうれしくて、脚本を読む前から、出演したいと気持ちを固めていました。
小説は脚本の後に読んだのですが驚きました。ジャルジャルの福徳さんが執筆した小説と聞いていたので、多少コント寄りの世界観を想像していたんです。しかし、実際は登場人物の人間性にフォーカスしたストーリーで「こんなに素晴らしい小説も書ける、何でもできる方なんだ」とリスペクトする気持ちが芽生えました。
ただ小西の感情は複雑で、難しそうな役だという印象も。でもだからこそやりがいがある役だと思いました。
河合優実さん(以下、河合):大九監督とはドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(2023/NHK BS)でご一緒したことがあり、また大九監督とお仕事したい気持ちがありましたし、原作は福徳さんの小説ということで、私にとっては、お二人の名前を聞くだけでワクワクするものがありました。
私も脚本を先に読んだのですが、大学というキラキラしたキャンパスの中で、学生はまだ未熟だけれど大人になりかけていて、時間もたっぷりあって……という独特な大学という空間が描かれていて、これは今の自分にしかできないと思いました。小説も脚本の世界観のままだったので、大九監督は原作を大切に脚色されていると思いました。それでいて、脚本から「大九監督の世界」がとても感じらたので、素晴らしい変換だと思いました。
小西役は河合優実さんありきで役作りをしました(萩原)
――萩原さん、難しそうな役だとおっしゃっていましたが、どのように役を作っていったのでしょうか?萩原:まず僕は作品に臨むとき、自分の中で役の軸となる部分をしっかり作ります。もちろん撮影現場で修正をして変化していくことはありますが、全編を通して1人の人間としてブレないようにしておきたいんです。ただ小西役はその軸が定まらなくて悩みました。
小西は受け身で、桜田さんの言葉や行動に影響を受けて、いろいろなことを感じて、それが小西の言動に現れてくるので、事前に軸を決めないほうがいいのかもしれない。桜田さんの言葉を素直に受け止めて、それに対して表現していくほうがいいのではないかと思いました。でもそれは僕にとって勇気のいることなんです。
――軸を決めずに芝居をすることは挑戦だと。
萩原:普段やったことのないことにトライして失敗したら……と思うと怖かったのですが、桜田さんの言動を受け止めるために小西の心の器を大きくしようと意識しました。小西役は本当にいろいろ考えましたし、かなり準備を整えて臨みました。
――河合さんとのお芝居のセッションで小西役を作り上げていったんですね。
萩原:そうですね。もう河合さんありきで……。言葉の1つひとつを丁寧に届けてくれるので、それをしっかり聞いて、感じて、芝居を返していき、本当にうそのないきれいな演技ができたと思います。不安だったけれど、河合さんとの芝居で、不安が安心に変わっていくという瞬間が撮影現場で何度もありました。桜田役が河合さんで本当によかったです。
桜田はハードルの高いキャラクターでした(河合)
――河合さんは桜田役をどうやって作っていきましたか?河合:役のつかみ所が難しく、最初は不安でした。小西から見た桜田はすごくステキな女の子で、前半の2人のシーンではキラキラした時間を作ろうという明確な目的が持てたのですが、後半、桜田の内面に入っていくにつれて「本当はどんな人なのだろう」という根本的な疑問が生まれてきて……。小西に見せていない桜田の一面はどのようなところだろう、それをこの映画の中で表現できるだろうかといろいろ考えました。
――大九監督のアドバイスはなかったのですか?
河合:大九監督がピンポイントに「こういう言い方をしてみてください」というときは監督の中に「絶対にこうしてほしい」という強いイメージがある場合なので、その監督のイメージに合わせていく瞬発力が試されている感じもしました。
――瞬時に監督の指示を理解して表現しないといけないのですね。
河合:大九監督と私の間で、ズレることなく「しっくりいった、できた!」という感覚を得られることもあるのですが、迷いがあるとき、本番前に稽古ができるわけではないので、一発でバン!と最適解を出すのはハードルが高いと感じました。ただ、そのようなことも楽しかったです。スタッフとキャストで悩みながらも楽しんで映画を作っている感覚がありました。
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