壁が低く開放的な校内
校内は廊下の壁が取り払われ、開放的に改修されています。ろう児は耳からの情報がない分、視界の確保が必要なためです。 |
ガイドも午後の体育の授業を見せていただきましたが、その様子はどこにでもある小学校の風景でした。「背筋をピンと伸ばしなさい」「1つ1つの動きをきちんと行いなさい」と、先生が日本手話で注意しているそばで、別の子が足をいい加減に動かしはじめと、なかなか全員が集中できません。昼食後は、なんとなく気持ちがのらないのですよね。「午後の体育は、かったるいよぉ」という子どもたちの心が伝わってきて、笑ってしまいました。
日本語対応手話での会話はルー語の世界?
前回記事で、聴者が“手話”として学ぶ手話は日本語対応手話で、ろう者が使う“日本手話”とは違うものであることにふれました。だからといって、ボランティアによる手話教室などで学ぶ手話が、ろう者に通じないわけではありません。日本語対応手話であっても、多くのろう者は大筋は理解できるといいます。日本語をそのまま手話に置き換えているため、日本語を熟知している人なら理解が早いのだそうです。初めて英語を学ぶ中学生が、「これはペンです。=This is a pen.」と置き換えて覚えれば理解しやすいのと同じです。
ただ、違う言語であるため、すべての言葉を単純に置き換えられるものではありません。英語と日本語の関係でいえば、「This は、Pen だね」と、英語まじりの日本語のような理解になるそうです。まるでルー語の世界ですね。
これでは、日本語を充分に理解できていない子どもにとっては、“母語”である日本語を置き去りにされたまま、英語を勉強しているような状態です。知識の蓄積もままならず、抽象的な概念などを理解することも難しくなります。
そのまま大人になってしまうと、充分な学力も身に付かず「この子は耳が聞こえないから劣っている人間だ」という偏見の目で見られてしまうかもしれません。だからこそ、子どもたちがきちんと母語としての日本手話を学び、日本の社会で生きていくための日本語の能力を身に付ける場が必要だったのです。