表情も体の動きも大切な言語です
声という“音”で会話する聴者にとっては目から鱗が落ちるようなエッセイ集です。 |
NHKの手話ニュースなどにも出演されている木村晴美さんの著書「手話文化とろう文化」にはこんな例が紹介されていました。
ある人が講演会で「聴者(きこえる人)がろう者に手話を教えるべきではない」と日本手話で表現した内容を通訳が訳したら「聴者がろう者に手話を教えるべきだ」と伝わってしまったそうです。
日本手話では「聴者/ない(否定を表現する非手指動作)/ろう者/手話/教える/必要」と表現することで、「聴者がろう者に手話を教えるべきではない」を意味します。しかし、否定を表現する非手指動作としての「ない」を訳さなかったために、まったく正反対の意味になってしまったというのです。通訳をした方が日本手話を充分に理解していなかったために起きた間違いでした。
聴者にとっては、顔の表情や手の動きは、単なるジェスチャーにすぎません。でも、声という音に頼らない言語である日本手話には、それぞれに意味があることなのですね。
ろう者は、日本手話を使う言語的少数者
もう1つ、“ろう”という表現についても解説しておきましょう。ガイドは最初「使っていいのかしら?」と躊躇してしまいました。だって、一般的には、聞こえないことを「聴覚に障害がある」「耳が不自由」と呼びますよね。でも、これには「聞こえない」ことが、何か欠けていることであるようなネガティブなイメージがあります。
そうではなく、ろう者とは、日本手話という日本語とは異なる言語を使う言語的少数者であり、コミュニケーションを聴覚でなく視覚・触覚によって行うことで、独自の文化を作り上げてきたとするのが「ろう文化」です。
日本には100校近くのろう学校があるといいますが、すべての授業を日本手話で行う学校はありません。
耳が聞こえる人と同じような会話ができるようにと「聴覚口話法」が主流です。補聴器で音を拾い、口の動きを真似し、声を出して会話するというものです。かつては「手話を使うと日本語を覚えられなくなる」と考えられていたといいます。
そして、日本語の“会話”を学ぶことに時間の多くが割かれてきたことで、充分な学力を身に付けることができませんでした。
明晴学園の目指す“バイリンガル教育”とは、日本手話で教育を行い、言語としての日本手話とろう文化をしっかりと学んだ上で、日本の社会で生きていくために必要な日本語の読み書きを学び、聴児(聞こえる子ども)と同等の学力を持ち、社会で生き抜いていく力を身に付けていくことが目的です。
ということを簡単にご説明したところで、明晴学園の様子は、こちらでご紹介します。
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