中学受験

2026年はさらに難易度上昇? なぜ中学入試の算数は年々難しくなっていくのか、6つの要因を解説

近年の中学入試では、難関校の算数を中心に入試問題の難度が急上昇しています。中学受験のプロが、その実態と背景にある6つの構造的要因を解説します。

小野 博史

執筆者:小野 博史

中学受験ガイド

2025年度の中学入試が終わり、来年度以降の中学入試に向けて動き出している方も多いと思います。

中学入試のプロとして、ここ数年の入試問題を見ると、難関校の算数を中心に入試問題の難度が急激に高くなっている印象です。今回はその要因を6つ紹介します。
算数難化の波が押し寄せる中学受験の最新事情

算数難化の波が押し寄せる「中学受験」最新事情

<目次>

要因1:受験率の上昇とコロナ禍の反動

首都圏の中学入試全体を俯瞰すると、2014年度の入試受験者4万2800人、受験率14.1%を底にして、この10年間ずっと受験者数と受験率が上がり続け、2025年度入試は入試受験者5万2300人、受験率18.1%でした。

受験者数が増え、受験率が上がると、入試は厳しくなります。つまり、入試問題のレベルが上がるか、合格最低点が上昇するかのどちらかとなります。

中学入試の算数・理科を教える者としての肌感覚で言うと、2014年ごろから難関校を中心に少しずつ難度が上がっていました。

ところが、この入試問題の難化傾向にブレーキをかけたのがコロナ禍でした。

新型コロナウイルス対策として学校休校が実施されたのが2020年4~5月、その後は短縮・オンライン授業体制が敷かれ、夏期休暇・冬期休暇の短縮などにより大きな影響を受けたのが2021年度入試でした。

小学校の授業時間が減ったことを受けて、2021年度入試では、小学校6年生の後半で履修する内容からは、できるだけ出題しないようにとの要請もあったようです。

そして新型コロナウイルスの余波は2022年度入試にも影を落とし、学校運営・入試運営・授業運営に苦慮する学校は非常に多くありました。

このように、2021~2022年度入試は新型コロナウイルスの影響で難度が易化した時期といえます。

要因2:東京午後入試の新設ラッシュ

コロナ禍は学校運営にも大きな影を落としました。

ほとんどの私立中学校が、受験生の父母を対象とした学校説明会を中止し、文化祭などのイベントへの来校を禁止したことで、受験生向けの学校体験型イベントが開催できませんでした。

その結果、受験生を減らすことになった中堅私立中学校は、最後のブルーオーシャンだった2月1日、2日の午後入試へと参入してきました。

それらの午後入試方式が、算数1科目入試や得意科目選択入試方式だったことが、算数の難度上昇に拍車をかけたと言っていいと思います。

四谷大塚の合不合判定テストの現在の偏差値表は、1枚目が「1月前半~2/1午前」、2枚目が「2/1午後、2/2午前、2/2午後」、3枚目が「2/3、2/4以降」の3枚組みですが、それまで2枚組みだった偏差値表が3枚組みに変更になったのは、2022年度受験用の9月の偏差値表からです。つまり、2022年度受験から午後入試が増加し、2枚に収まらなくなったことを顕著に表す象徴的な事例です。

なお、コロナ禍でのオンライン授業対応などが保護者に評価され、公立校より私立校を選ぶトレンドは高まってはいたものの、埼玉・千葉・神奈川在住の受験生は通学距離の短い県内私立中学校を選ぶ傾向が強かったのがコロナ禍の入試です。

要因3:英語加点入試の増加

2020年度の小学校3年生から新学習指導要領が全面実施となり、小学校の授業で英語(外国語)が必修化されました。それを受けて、中学入試で英語加点方式を採用する中学校が増えています。

2025年度の豊島岡女子中の入試では、従来の4科目判定に加えて、国語と算数と英検資格による判定を追加しました。英検のCSEスコアにより、英検準1級以上(CSE2304以上)で100点、英検2級(CSE1980~2303)で90点、英検準2級(CSE1980以上)で80点、英検準2級(CSE1728~1979)で70点、英検3級(CSE1456以上)で50点のみなし得点を加点して判定します。

来年度の湘南白百合中の入試での英検みなし得点は、豊島岡女子中と同じ基準に変更するそうです。今年度の豊島岡女子中の判定基準は、今後の英検みなし得点基準に先鞭(せんべん)をつけることになると思われます。

ただし、帰国生入試・特色入試を除いて英語入試の必修化は行われず、英検を中心とする資格試験によるみなし得点加点が中学入試の主流となります。そのため、幼少時から英語を学習していたり、帰国生基準は満たさないが英語圏で生活していたなどのケースを除き、英語を5番目の科目として中学入試のために学習することはおすすめできません。

要因4:都立中高一貫教育校ブームが一服

公立中高一貫校の適性検査問題は、私立中学入試のような国語・算数・理科・社会というくくりとは全く異なります。適性検査1が文系思考力重視型問題(国語と社会の融合型)、適性検査2が理系思考力重視型問題(算数と理科の融合型)で、それに作文や小学校の報告書得点を含めた総合得点で合否を決める入試方式が、公立中高一貫校の一般的な判定基準です。

そのため、端的に言えば、小学校での評価と地頭が良く、総合力(全体的な学力)の高い受験生だけが対応できる入試問題です。

都立中高一貫教育校の最大の利点は授業料負担がないことですが、その選抜方法が特殊で、志願倍率も高く(都立中高一貫教育校の一般枠の平均応募倍率は、2023年度4.66→昨年度4.03→今年度3.60と変化)、複数回受験ができないため、難関入試であるという認識が広まったといえます。これに加えて、今後は私立高校の授業料が所得制限なしで無償化されるため、首都圏私立中学受験熱はより高まると考えられます。

要因5:中国籍教育熱心層の増加

2026年には在留中国人が100万人を突破する見込みである昨今、教育移住し、永住権を取得しようとする中国籍の小学生は増加しています。

中学受験御三家の合格実績トップであるSAPIXの10人に1人が中国籍の生徒と言われており、孟母三遷の教えを実践し、教育次第で運命は変えられるという考え方が強く根付いている中国籍の親たちは非常に教育熱心です。消化不良を起こしかねない膨大な教材を全てこなさせ、取り組みの甘さは許さず、良いと言われるものは全て取り入れて、徹底的にやり込んで妥協しない。

筆者は千葉県柏市で進学塾を経営し、算数や理科を教えているのですが、5年ほど前、小学6年生になって転塾してきたばかりの生徒の中国籍のお母さまから「先生は優しすぎます、甘すぎです」と、笑い交じりで怒られたことがあります(苦笑)。最終的には第一志望の本郷中に合格しましたが、優しくて甘いと言われたのはこのときが初めてです(笑)。

要因6:大手塾の教材の進化

四谷大塚の予習シリーズが全面改訂されて、新予習シリーズのカリキュラム・教材で学習してきた小学6年生が、2024年度入試の受験生でした。

予習シリーズを基本教材としているのは、四谷大塚、早稲田アカデミー、中学受験の中小塾(筆者の経営している塾も含まれます)など多数に上ります。

SAPIXやグノーブルの教材は週単位の冊子ですから小規模の改訂やアップデートが容易なのですが、予習シリーズの改訂はカラー図版も多く、教材として使用する傘下塾も多いため多大な影響を与えます。大幅な改訂が行われたのは算数で、カリキュラム進度や例題のレベルも難関校受験を想定してかなり難化しました。

中学受験界にとっては、予習シリーズの改訂は大学入試共通テストのカリキュラム変更や学校教科書の改訂に匹敵するといえます。日能研もテキスト『栄冠への道』を一部改訂しましたが、いまだに厚くて重い白黒教材なのと、プラットフォーム自体は変わっていないため、中学受験勢力地図に与える影響は軽微でしょう。

算数の予習シリーズがかなり難化したことを受けて、四谷大塚は今年から小学4年生と小学5年生を対象に『基礎トレーニング』という教材を新発売し、段差を埋めています。一昔前は、SAPIXも予習シリーズを副教材として推奨し、小6生は合不合判定テストが受験必須だったのですが……。中学受験は諸行無常、盛者必衰の世界なのです。

なお、筆者の経営する塾の小学6年生の夏期講習の教材も、算数・理科について大改訂を行う予定です。今までは予習シリーズを主教材として、小テストや副教材を作成することで対応してきたのですが、ここ数年の入試問題の難度上昇に対応するためには、夏期講習の教材をプラットフォームから抜本的に改訂しないと厳しいと筆者は判断しました。

というわけで、おそらく来年以降も、難関校の中学入試問題は算数を中心にレベルアップを続け、算数に引っ張られる形で国語が深化する流れは変わらないと思います。保護者の皆さんは、受験生が気を引き締めて日々の課題に取り組めるようサポートしてあげてください。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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