『中学受験 親がやるべきサポート大全』(著:菊池洋匡、刊:SBクリエイティブ)では、中学受験を単なる試験突破の手段として捉えるのではなく、親子で共に成長し、豊かな人生を築くためのプロセスと考える視点をお伝えしています。
今回は本書から一部抜粋し、中学受験で絶対避けたい「子どもをウソつきに変える親の声かけ」を紹介します。
子どもをウソつきに変える親の声かけ
✕:うまくいったときに、「天才! 賢い!」と才能を褒める。失敗を恐れて挑戦しなくなり、成績が落ちる。
〇:「頑張っているね!」と努力を褒める。
失敗を恐れず努力を続ける。
子どもを褒めるときに「天才」はNG!
昔の生徒に、とても知能が高い子がいました。年齢相応でないくらい頭が良く、学校の勉強は簡単すぎて退屈。そのせいで、授業中に問題行動を起こすこともしばしば見られたそうです。学校の授業中の問題ある振る舞いに、はじめは発達障害を疑ったそうです。そこでWISCを受けてみたところ、100人に1人より少ない超高IQだと判明したとのことでした。
「もっとこの子に合った勉強をさせてあげたい」――そう思って塾に通い始めたところ、水を得た魚のように生き生きと勉強し始めました。すぐにテストのコツもつかみ、高偏差値を連発。順風満帆に塾通いは進みました。最初の頃は……。
しばらく塾に通ううち、徐々に成績に翳りが見え始めます。少しずつ偏差値が下がってきたのです。
間違えた問題を確認してみると理解できていないわけではありませんでした。もう一度解かせれば正解できますし、何なら問題用紙には正しい途中式と答えが書いてあります。しかし、解答用紙には謎の誤答が書かれているのです。「いったいなぜ?」。親御さんは困惑しました。
また、それと並行して、宿題をやらないことも増えてきました。そのため、やればできるはずの漢字の問題などの取りこぼしも増えてきました。
果たしてその子に何が起こっていたのでしょうか?
「僕はまだ、本気を出していないだけ」
宿題をやらない理由としては、「勉強に飽きてきた」「ゲームなどのもっと楽しいことを見つけてしまった」といったことも考えられます。しかし、「問題用紙に正しい答えが書いてあるのに、解答用紙に書き写すのを間違える、しかも、それが何度も続く」といったことは、これでは説明がつきません。こうしたときに疑ってみるべきは「セルフハンディキャッピング」です。これは「自分の能力を高く見せたい」「できないところを見せられない」という心理ゆえに、できなかったときのために言い訳の余地を残そうとしてしまう振る舞いです。
「本当はできていたのに」「私はまだ本気を出していないだけ」……そうした言い訳ができるように、全力を出すことを避けてしまうのです。
しかし、そうやって頑張ることから逃げていたら、力が伸びませんから、いずれ「本当に全力を出してもダメ」という状態に陥ってしまいます。
せっかくの高い能力を持っているのですから、セルフハンディキャッピングに陥らないようにしてあげたいものですね。
その子をセルフハンディキャップに追い込んだ理由
無意識に自分の能力にブレーキをかけてしまうセルフハンディキャッピング。とても怖いものですよね。自分のプライドを守るために、本気を出して失敗したくないという気持ちが生まれて、本気を出せなくなってしまうなんてことを防ぐには、いったいどんな声かけや育て方をしていけばよいのでしょうか?そのための方法は、日ごろから成績の良し悪しで一喜一憂しないことです。
そして、子どもを褒めるときには、テストの結果ではなく、テストに向けての行動を褒めることです。また「頭が良いね」のように才能や能力を褒めるのではなく、「よく頑張ったね」と行動を褒めることです。
「頭の良さ」が評価されるとなったら、「頭が良いことを見せなければいけない」と子どもは考えます。最も「頭の良さ」を示せるのはどういう状況だと思いますか? それは、「努力していない」のに「良い成績が取れた」ときです。逆に「頭が悪い」と思われてしまう状況は、「努力した」のに「良い成績が取れなかった」ときです。
子どもがセルフハンディキャップに陥る原因は、「頭の良さを見せたい」と思わせてしまうことです。逆に「頭の良さ」ではなく「頑張っていること」が評価されるとなれば、自分の頑張りにブレーキをかけるメリットも必要性もなくなるわけです。
子どものマインドは大人の声かけで変わる!
子どもの行動が私たち大人の声かけで変わることを示した、スタンフォード大学(米国)の教育心理学者、キャロル・ドゥエック教授の実験を紹介します。ドゥエックは、まず、小学生の子どもたちに図形的なテストを与えて解かせました。最初の正答率は上々です。実験はこの先です。
テスト結果を伝えるとき、子どもを3つのグループに分け、「とても賢いね(能力を褒める)」と「とてもがんばったね(努力を褒める)」「ただ点数を伝えるだけ(比較対象)」というように対応を変えました。
この結果、能力を褒められたグループは、新しい挑戦を恐れるようになりました。不正解を経験して、自分が賢くないことになってしまうのは怖いことです。まさにセルフハンディキャッピングを行う子どもたちの心理です。
しかも、能力を褒められたグループの子は、結果をごまかそうという態度に出ることが増えました。ドゥエックの実験では、賢さを褒められたグループでは40%弱の子が、ウソをついて点数を実際よりも高く自己申告しました。比較対象用の点数を伝えられただけのグループでは、ウソをついた子は10%強だったので、その差は顕著です。
ウソをついて成績をごまかすことは、成績が下がること以上に嫌だと思いませんか? だとすれば、賢さを褒めることは、成績が下がる以上のデメリットがあるといえますね。
一方、努力を褒められたグループは、その後も意欲的に取り組もうとしました。「結果ではなく、頑張ったことが認められる」と思うからこそ、失敗を恐れないのです。
こうしたマインドを持つ子は、難易度が上がった後も、「最初はわからなかったけど、よく考えたら解けるのが楽しい」と言うようになります。難問に次々と挑戦するため、実力も上がっていきます。できないものをできるようにするのが学習ですから、学習に失敗はつきものです。ですから、失敗から学ぶ意識を持っているマインドセットを育てていきたいですね。
この実験では、効果測定のテストで、能力を褒められたグループは成績が下がり、努力を褒められたグループは成績が上がっていました。
あなたがうれしそうな態度を取るのはどんなとき?
あなたはこれまで、お子さんにどんな声かけをしてきましたか? 「あなたは賢いね」「天才だね」そんなふうに能力を褒める声かけをしてしまっていなかったでしょうか?褒める場合だけでなく、あなたがうれしそうな態度を見せるときについても考えてみてください。あなたが子どもにうれしそうな態度を取るのは、子どもがテストで良い点数を取ったときでしたか? それとも、子どもが頑張っていたときでしたか?
成長力がある子に育てたければ、子どもの頑張りを認めて、褒めて、できないことに果敢に挑戦するマインドを持った子に育てていきましょう。
菊池洋匡 プロフィール
中学受験専門塾 伸学会代表。
10年間の講師歴を経て、2014年に自由が丘校を開校し、現在は目黒校・中野校を合わせて3校舎を運営。
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