コロナ禍で制作が1年以上延期に
――リハーサルもしっかりされたそうですね。上田監督:税務署チームと詐欺師チームと橘チーム(小澤征悦さんが演じる権力者)に分かれてリハーサルをしましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で制作が延期になってしまったんです。キャストをもう一度集めるのに苦心して、結局1年4カ月も待つことになりました。
――確かにオールスターキャストなので集めるのが大変そうです。
上田監督:やっと撮影が始められるというときに、僕が新型コロナに感染してしまって、初めてリモートで撮影することになりました。
――リモートで演出して、新たな気付きなどはありましたか?
上田監督:僕は、撮影現場で走り回って演出するタイプなので、モニターの前で全体を見るということをあまりしてこなかったんです。でも今回、強制的にモニターの前で演出することになり、キャストの皆さんの芝居を一歩引いて見たら、細かい点にいろいろ気付くことができたんです。自分は現場を俯瞰で見ていなかったなと思いました。
新型コロナから復帰して現場に戻ってきたときは、以前よりも走り回らなくなり、モニターの前で演出することが増え、バランスが取れるようになりました。
俳優たちのアイデアを取り入れながら作り上げた
――本作はメジャーな俳優が総出演していて、これまでとは勝手が違うところもあったと思いますが、演出をしていて大変だった点はどのようなところですか?上田監督:そうですね、俳優の皆さんを束ねられていたか……と考えると、できていなかったかなとは思います。
さっきもお話ししたように、撮影前から主演の内野さんに脚本作りにも参加していただいてガッツリ組んできましたし、撮影前にリハーサルをするなど、準備は万端だったのですが、これまでとは撮影現場の様子がまったく違いました。 ――どのようなところが違いましたか?
上田監督:これまでの僕の作品は、メジャーではないけれど人間的に魅力のある俳優たちに出演してもらっていました。でもこの映画は、内野さんを始め百戦錬磨の俳優たちが結集していて、俳優たちからアイデアを提供されることも多かったんです。そのアイデアは素晴らしく、僕が考えたプランを大きく上回ってくる。そうすると一度作り上げたものを壊して、再構築して、出来上がった新しいプランを俳優たちに見せて納得していただかないといけないわけです。
――これまでそんなふうに役者からプランが提出されることはあまり経験がなかったんですね。
上田監督:そうですね。これまでの現場では自分のプランに自分の思いついた新たなアイデアを付け加えていくスタイルでやってきました。でもこの映画は、内野さん、岡田さんなど俳優たちとしっかり話し合って、新たなプランを加えて作り直すという作業の繰り返しでした。 ただ俳優の皆さんは「こういう現場は珍しい」とおっしゃっていました。監督によって撮影の進め方は異なると思いますが、経験豊富なベテラン監督など、自分の世界をがっちり貫くという方はけっこういると思うんです。そういう監督と仕事をしてきた俳優にとっては、僕みたいに俳優のアイデアがよければ「それいいですね!」と取り入れていくというスタイルは珍しく映ったのかもしれません。
みんなで「ああしよう、こうしよう」と話し合いながら作り上げていく現場はワークショップみたいでした。
――上田監督らしい撮影現場だったんですね。
上田監督:そうですね。これまでと同じように映画作りができたとは思うのですが、俳優の皆さんのレベルが高いので、質問や提案を打ち返したり、まとめたりするのがとても大変でした。すごくタフな現場でしたし、かなり鍛えられました。
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