認知症

アルツハイマー病の新薬「ドナネマブ」の特徴・効果・レカネマブとの違い

【薬学部教授が解説】第二のアルツハイマー病の抗体薬「ドナネマブ」が使用可能になりました。「レカネマブ」と「ドナネマブ」の共通点と違い、どちらが効果があるのか、現在分かっていることを解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

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第二のアルツハイマー病の抗体薬「ドナネマブ」。その特徴と効果は?


認知症の原因疾患として半数近くを占めるアルツハイマー病。その進行を抑制することが期待される新薬が、2023年12月から使用可能になりました。販売名は「レケンビ点滴静注」(有効成分の一般名:レカネマブ)です。アルツハイマー病の原因物質の一つと目される「アミロイドβ蛋白(Aβ)」に特異的に結合し、その有害な作用を減らしたり、Aβの除去を促すことで、アルツハイマー病の進行を遅らせたりできると期待されています。

加えて、2024年11月から「ケサンラ点滴静注液」(有効成分の一般名:ドナネマブ)が発売され、使用可能になりました。「レカネマブ」と「ドナネマブ」は、どちらも語尾が「~ネマブ」ですが、これはどちらも神経(”ne”uron)に作用するモノクローナル抗体(”m”onoclonal ”a”nti”b”ody)であることを示しています。さらに具体的に言うと、Aβに特異的に結合してその有害な作用を減らすことでアルツハイマー病の進行を遅らせることができると期待される点では同じです。

ただし、アルツハイマー病の患者さんによってはどちらを使った方がいいのか分かれる可能性もあります。先行の「レカネマブ」と新たに使用可能になった「ドナネマブ」の共通点と相違点をわかりやすく整理して解説します。
 

レカネマブとドナネマブの共通点

両者に共通している点は、次の通りです。
 
  1. 初期のアルツハイマー病患者を対象としており、できるだけ早期から診断を受けて投与開始する必要がある
  2. 点滴投与される
  3. 特定の施設でないと、治療を受けられない
  4. 脳浮腫や脳出血に注意が必要
  5. 高額薬だが、保険が適用されるので、高額療養制度が利用できる

3と4については、レカネマブもドナネマブも、添付文書に次のような同じ警告が記されています。

1. 警告
1.1 本剤の投与は、アミロイドPET、MRI等の本剤投与にあたり必要な検査及び管理が実施可能な医療施設又は当該医療施設と連携可能な医療施設において、アルツハイマー病の病態、診断、治療に関する十分な知識及び経験を有し、本剤のリスク等について十分に管理・説明できる医師の下で、本剤の投与が適切と判断される患者のみに行うこと。
1.2 本剤の投与開始に先立ち、本剤投与によるARIAの発現割合、ARIAのリスク及びリスク管理のために必要な検査、ARIA発現時の対処法について、患者及び家族・介護者に十分な情報を提供して説明し、同意を得てから投与すること。また、異常が認められた場合には、速やかに主治医に連絡するよう指導すること。

ARIAとは、Amyloid-related imaging abnormalities(アミロイド関連画像異常)の略です。具体的には、レカネマブやドナネマブのようなアミロイドに対する抗体の投与を受けた方にみられる脳画像検査上の異常で、脳浮腫や脳出血などが含まれます。ですので、もともと浮腫や脳出血を生じる恐れのある方などにはレカネマブやドナネマブは使えません。

5に関してもう少し詳しく補足しておくと、レカネマブには1瓶あたり200mgと500mg入った2種類が用意されており、ドナネマブは1瓶に350mg入った1種類です。なので、1瓶あたりで示される薬価には差があるようにみえますが、同じ患者さんに投与される場合には、ほぼ同じ金額になるように予め算定されているので、最終的に薬代は同等(年間で300~400万円)になります。公的医療保険の対象となり、さらに高額療養費制度により、70歳以上の一般所得層(年収約370万円以下、住民税非課税世帯を除く)の場合、外来による負担額の上限は年間で14万円程度と見込まれます。
 

レカネマブとドナネマブの違い

両者には、いくつかの違いもあります。

用法・用量については、それぞれの添付文書上で

「通常、レカネマブ(遺伝子組換え)として10mg/kgを、2週間に1回、約1時間かけて点滴静注する。」

「通常、成人にはドナネマブ(遺伝子組換え)として1回700mgを4週間隔で3回、その後は1回1400mgを4週間隔で、少なくとも30分かけて点滴静注する。」

とされています。ドナネマブの方が投与間隔が空く分だけ、負担は少ないと思われます。

両者の最も大きな違いは、レカネマブは投与期間が決まっていないのに対し、ドナネマブは決まっていることです。ドナネマブの添付文書にはこう記されています。

7.2 本剤投与中にアミロイドβプラークの除去が確認された場合は、その時点で本剤の投与を完了すること。アミロイドβプラークの除去が確認されない場合であっても、本剤の投与は原則として最長18ヵ月で完了すること。18ヵ月を超えて投与する場合は、18ヵ月時点までの副作用の発現状況、臨床症状の推移やアミロイドβプラークの変化等を考慮し、慎重に判断すること。
7.3 アミロイドβプラークの除去は、アミロイドPET検査又は同等の診断法により評価し、検査を実施する場合の時期は本剤投与開始後12ヵ月を目安とすること。

レカネマブは、投与後、脳画像検査などでAβの除去が確認されても、副作用などの問題が生じない限りは18ヵ月(1年半)投与を継続することとされていますが、ドナネマブは、一定の効果が確認できた時点で投与を完了することができますし、1年で効果がなければそれ以上継続することも求められていません。すべての患者に効果が認められるとは限らないので、ドナネマブの方が融通が利くと思われます。
 

レカネマブとドナネマブはどちらが効果があるのか?

もっとも気になる効果については、現時点では何とも言えません。それぞれの臨床試験成績を見ると微妙な違いはありますが、両者を直接比較したデータがないためです。しかし、同じAβをターゲットにした抗体とはいえ、少しだけ機序が違うので、患者さんによってどちらが適するかが変わってくる可能性はあります。

アルツハイマー病でAβが産生・蓄積していく過程では、「Aβモノマー」→「可溶性Aβ凝集体(オリゴマー、プロトフィブリル)」→「不溶性のAβフィブリル」と変化し、それぞれの段階のAβの性質や毒性が変わります。レカネマブは、可溶性で毒性が高いと言われる「Aβプロトフィブリル」に結合する抗体です。一方のドナネマブは、不溶性のAβフィブリルが時間経過に伴いさらに変化してできる「N末端第3残基がピログルタミル化されたAβ(N3pG Aβ)」に結合する抗体です。「N3pG Aβ」は、古くなったAβのかたまりであり、できたばかりの不溶性Aβフィブリルよりも毒性が高いと考えられています。

病気の診断や投与計画の段階で、それぞれの患者さんの脳内でAβがどのような形で毒性を示しているのかを知ることは困難ですので、レカネマブとドナネマブのどちらを選択すべきかは難しい判断になりますし、患者さんごとに両者の差がでるのかも現時点では不明です。

実際の臨床成績は、将来に向けて非常に貴重なデータとなります。そうしたデータの蓄積が、さらに今後アルツハイマー病の患者さんを救うことに生かされるとともに、病気の原因を追究する基礎研究の側面からも、特に長年議論されてきたアミロイド仮説の真偽に一定の決着をもたらしてくれると期待されます。

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