チェーンソーでモヤモヤした気持ちを吹き飛ばす
――後半、部屋でチェーンソーを手にするシーンはすごくインパクトがありました。桃子はモヤモヤした気持ちをチェーンソーで爆発させていましたが、演者としては、どういう心境でしたか?江口:チェーンソーのシーンは撮影後半だったんです。撮影の前半は、朝のゴミ出しなど、ひとりのシーンが多く、お姑さん役の風吹ジュンさんとのシーンも一言二言で終わってしまって、寂しさがあったんです。 でも中盤以降、真守の不倫相手が出てきたり、元上司を訪ねるシーンがあったりしたので、いよいよ物語が動き出すと同時に自分も動き出すという気持ちになっていきました。だから後半のチェーンソーのシーンは楽しくてスッキリしましたね。
ヒューマンサスペンスと聞いてびっくり!
――周囲の人が自分に無関心で苦しいのに、必死に平静を保っている桃子の心情が心に刺さるという女性が多いような気がします。江口さんは桃子への共感はありませんでしたか?江口:この映画の取材をしてくださる女性の記者さんから「桃子の気持ちに共感しすぎて……しんどかったです」という感想をいただくことが結構あり、なんか「すみません」という気持ちです。
私の気持ちとしては共感というか……確かに居場所がどんどん奪われていくわけですから、かわいそうだなと思いました。 ――予告編では“ヒューマンサスペンス”というキャッチコピーなのですが、その面白さはどこにあると思いますか?
江口:撮影しているとき、私はサスペンス映画だと思って演じていませんでした。なので予告編を見て「ヒューマンサスペンスって?」と驚きました。
桃子は、身に起こったことに不安を覚えつつも日記に自分の考えをつづるなど、とても正直に生きている女性だと思うんです。
でも彼女は本音を表に出さないでグッとこらえているので、第三者からは「何を考えているのか分からない」と見えて、それが怖いのではないかと。その怖さがサスペンスにつながるのかもしれません。 ――桃子はだんだん自分の居場所を奪われていきますが、同じ状況になったら江口さんはどうしますか? 桃子のように平静を保って耐えますか?
江口:私は桃子とは正反対で、ここに自分の居場所はないと思ったら、自分から離れていくタイプです。
ただ器用ではないので、すぐに新しい関係性を築けるほどの力はありませんけどね。そもそも私はとても恵まれた環境でお仕事をさせていただいていると思っています。10代の頃からずっと同じ劇団(東京乾電池)と事務所に所属していますから。それはとても幸運なことではないかと思います。 ――共演者とのシーンが増えると楽しさが増していくとおっしゃっていましたが、やはり共演する俳優さんとの芝居のセッションによって、自分の中で役が立ち上がってくるのでしょうか?
江口:そうだと思います。なので他の作品でも、撮影初日はすごく悩みます。まだ共演者とも芝居をこなせていない状態なので、自分と向き合って「この声のトーンで合っているのかな」とかすごく考えます。
「よし、これでいい」という気持ちにはなかなかなれませんね。初日の芝居はとても重要なんです。一度演じたらそれ以降、大きく変えることはできないので。だから毎回、いつも最初は不安です。
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