自分はサプリとプロテインばかり
子どもたちだけ置いていくのはやめてほしいと彼は妻に言った。今までできる限り、夕飯だって自分たちで作ってきたのに、いったいどうなっているんだと妻に聞くと、「自分の時間がほしいの」と言う。あと10年もすれば、子どもたちは親と一緒にはいてくれなくなる。それまで家族で楽しむ時間があってもいいじゃないかと彼は言った。自分の時間はそれからでも遅くない。だが妻は納得しなかった。
「私は今の年齢で自分を大事にしたいと言い張るんです。家族を作った意味がないと思いました。筋トレを否定はしない、きみの好きなことをする時間も必要。でも今は、優先順位として家族での時間を大事にしてほしい。そう説得したんですが、なかなか……」
妻はサプリやプロテインが主食となった。自分がそれで済むので、子どもたちの夕食も、どんどん適当なものになっていく。
「仕方がないから、今は僕が作り置きをしています。家族の連絡用のホワイトボードに、今日のメニューと、上の子に電子レンジでチンしてと指示を書いて。なるべく早く帰るようにはしていますが、妻は自分がいなくてもなんとかなると思ったようで、ますますジムに入り浸りですね」
実は筋トレでなく浮気にハマっているのでは?
子どもたちがインフルエンザにかかったときは、さすがにジムを休んで看病していたので彼も一安心したのだが、彼らが元気になるとまたジムにいる時間が長くなった。「実は妻の浮気を疑ったこともあるんです。いろいろ調べたけど、本当に筋トレにはまっているだけだった。確かに贅肉がなくなり、妻は魅力的になりました。でも僕には、それが魅力に見えない」
もちろん、妻は日曜日の昼間などは子どもたちと過ごしているが、夕方早めにジムに出かけていく。1日中、家にいたり一家で朝から晩までどこかに出かけていくことはほとんどない。
「夏休みは早めに計画を立てて、4、5日旅行する予定です。妻も渋々ながら賛成してくれた。どうやらお盆時期はジムも休みになるので、その時期にと言われたんですが、混むし高いから、別の時期にしました。かなり怒っていましたが、たまには家族で楽しむ。これ、僕の心からのお願いだからと言って了解してもらったんです」
内心、ムカムカしてますよとリョウタさんは言った。だが子どもたちの喜ぶ顔が見たいのだ。それ以外は望んでいないと彼は断言した。本当は筋トレに飽きてくれればいいんですが、とまた困惑したような表情を見せた。