そこで、今回は都心から2時間以内で行ける、訪問満足度が高めな「珍スポット」3選を紹介する。普段、お目にかかれないような珍スポットを中心に、周辺の見どころも、あわせて紹介しよう。
※道路の混雑状況によっては2時間で到着できない場合があります。
3つの県を3歩で回れる場所がある?
最初に訪れたのは、埼玉県の加須(かぞ)市。と言われても、すぐに場所が思い浮かぶ人は少ないだろう。加須市は埼玉県北東部の端っこにある、かなり面積の広い市である。この加須市の北端を通過する県道9号線を車で走っていると面白い現象が起こる。カーナビの音声が、短時間の間に「栃木県に入りました」「群馬県に入りました」「埼玉県に入りました」「群馬県に入りました」「栃木県に入りました」と、故障したのかと思うくらい頻繁に、別の県に入ったことを告げるのだ。そう、この辺りは埼玉、栃木、群馬の3県の県境が、かなり複雑に入り組んでいるのである。
ちなみに、この県道は茨城県古河市まで続いており、日本で唯一、4県(埼玉、栃木、群馬、茨城)を経由する県道だという(いずれの県でも、県道の整理番号を「9号」としている)。 これだけでもネタとしては面白いが、今回の旅の目的地は別にある。SNSでだいぶ有名になってしまい、やや今さら感はあるが、埼玉、栃木、群馬の3つの県が境を接する「三県境」というポイントがあるのだ(さすがに茨城も含む四県境はない)。
「三県境」を目指すには、「道の駅かぞわたらせ」に駐車すると便利だ。ここは2019年まで「道の駅きたかわべ」という名称だったので、カーナビのデータが古いと検索でヒットしないかもしれない。埼玉県でありながら利根川の北岸に位置するこの辺り一帯は、北川辺町という独立した小さな町だったが、2010年に平成の大合併で加須市に編入。その後も、「きたかわべ」という名称がしばらく残っていたのだ。
さて、お目当ての「三県境」は、道の駅から階段を下りて450メートルほどの、田んぼの真ん中にある。 小さな用水路の合流地点に「三県境界」と刻まれた小さな標柱が立っており、標柱の周囲をぐるりと一周すれば、3つの県を巡ったことになる。3県巡りが済んだ後は、付近のスタンプ台で訪問記念のスタンプを押すのを忘れずに。 ちなみに、スタンプの台紙に「全国に三県境は40か所以上ありますが、歩いて3歩で回れる三県境はここだけです」と書いてある。なぜだろうか。
筆者も全ての三県境を訪れたことがあるわけではないので断言はできないが、その多くが山奥にあるからだと思われる。例えば、東京都、埼玉県、山梨県の三県境は、雲取山という標高2000メートルを超える高山の山頂付近にあり、気軽に訪れることができないのだ。
なお、三県境から土手(土手上を県道が走っている)を挟んで北側に広がる渡良瀬遊水池(遊水池=平地にあるダム)は、上空から見るとハート型をしている。これにちなんで、先ほどの「道の駅かぞわたらせ」屋上の展望台にはハート型のモニュメントが設置され、恋人の聖地になっている。 また、1階の「三県境ショップさいぐんと」では、渡良瀬遊水池のダムカードがもらえるので、ダムカードを集めている人は、忘れずにゲットしよう。
※鉄道利用の場合、東武日光線の柳生駅から三県境まで徒歩8分。
歩いて隣の島へ渡れる海底トンネルがある?
次は、神奈川県の川崎市へ。川崎市の港湾エリアに、その存在がほとんど知られていない珍スポット、歩いて隣の島へ渡れる「川崎港海底トンネル人道」(人道=歩行者用通路)があるという。早速、出かけてみよう。海底トンネルの入口へは、川崎駅東口の12番バス乗り場から「川05系統 東扇島循環」もしくは「川07系統 東扇島西公園前」行きのバスに乗り、25分ほどの「JERA川崎火力発電所前」バス停で降車する。
この辺り一帯は、千鳥町という埋立地(人口島)に造成された工業地帯で、周囲を見渡すと、あたかも別の星かSFの世界にでも迷い込んだかのような風景が広がっている。 バス停の少し先の道路中央に「川崎港海底トンネル」と書かれた大きな看板が立っていて、国道は、この先で海底へと潜り込んでいく。だが、ここから先は自動車専用で、徒歩では進むことができない。
「川崎港海底トンネル人道」の入口は、どうやら付近の「ちどり公園」の中にあるらしい。道案内の標識に従って、公園内を進んでいくと、海底トンネルの換気所の建物1階に「海底トンネル歩道入口」と書いてあるのを見つけることができた。 入口から短い階段を下りると自動ドアがあり、さらに少し長い階段を下りると、その先に真っすぐな人道が延々と続いている。海底だけに湿気が多く、コンクリートの床面が滑りやすいので注意が必要だ。 歩き始めると、向こうから自転車に乗った人たちがやってきた。「自転車は降りてください」と注意書きがあるし、音声アナウンスも流れているのに、気にするそぶりもない。彼・彼女たちの話し声を聞くと、聞き慣れない外国語だった。おそらく、この海底トンネルの向こう側の東扇島の工場・倉庫で働く外国人労働者たちなのだろう。
人がいなくなり静かになると、今度は自動車の走行音が聞こえてきた。反響して、最初はどこから聞こえてくるのか分からなかったが、実は、この人道は自動車用トンネルの上り線と下り線の間につくられているらしい。 人道は全長1965メートル(自動車用トンネルは全長2180メートル)もあり、終点は千鳥町の隣の島の「東扇島北公園」内にある。
帰りも海底トンネルを歩くのがしんどければ、付近の「東扇島北公園入口」バス停から川崎駅行きのバスに乗ることができる。
なお、千鳥町は、工場夜景の撮影におすすめのスポットも多数あり、島の西側には神奈川臨海鉄道千鳥線という貨物線も走っているので、シャッターチャンスを狙ってみるのもいいだろう。
日本一短い鉄道路線が千葉県にある?
最後は、鉄道や航空ファンにおすすめの場所を紹介する。ここでクイズだが、営業キロが日本一長い鉄道事業者は、どの会社だろうか。おそらく多くの人が「JR東日本」と答えそうだが、実は違う。正解は「JR貨物」である。JR貨物のサイトによると、2023年4月1日現在の営業キロ数は7829.1キロだという。ただし、JR貨物は原則として他の鉄道事業者から線路を借用して列車を運行する第二種鉄道事業者であり、線路を保有して列車を運行する第一種鉄道事業者としての区間は、わずか35.3キロにすぎない。
第一種鉄道事業者で営業キロが最長なのは、JR東日本の7401.2キロ(BRT=バス高速輸送システム区間を含む)である。 逆に最短の事業者は、鋼索線(ケーブルカー)や貨物専用線を除く第一種鉄道事業者に限れば、千葉県の芝山鉄道であり、京成電鉄の東成田駅(旧・成田空港駅)から芝山千代田駅までの2.2キロしかない。このような非常に短い鉄道ができた背景には、成田空港の建設によって東西の交通が寸断され、不便を被る空港東側の住民・企業への補償として国が鉄道の建設を約束したという事情がある。
さて、芝山鉄道に乗るために都内から成田空港方面に向かうには、JR線と京成電鉄が利用可能だが、今回は京成電鉄を使う。芝山鉄道は東成田駅で京成東成田線(京成成田駅-東成田駅間)と接続しているので、京成電鉄のほうが便利だからだ。
京成上野駅の列車時刻表を見ると、朝と夕方以降に芝山鉄道に直通する芝山千代田行きの直通列車が何本か設定されている。また、直通列車に乗らなくても、京成本線で京成成田駅まで行き、ここで東成田線に乗り換えれば、全列車が芝山鉄道に乗り入れて芝山千代田駅まで行くことができる。 このように京成電鉄との直通運転が行われており、車両も京成電鉄から借り受けているため、芝山鉄道は独自路線という印象が薄い。ところが、芝山千代田駅で下車したときに交通系ICカードが使えないため、220円の運賃(2024年3月に運賃改定)を窓口で精算しなければならず、そのときに独立した会社だったのだと思い出すことになる。
なお、芝山千代田駅から2.5キロほど離れているが、航空科学博物館は、ぜひ立ち寄りたいスポットだ(芝山千代田駅からバスと徒歩で約15分)。初の国産旅客機YS-11の試作1号機をはじめ、さまざまな航空機が屋外展示されるなどしている。
今後、2029年3月末までに成田空港は3本目のC滑走路(3500メートル)を稼働させ、機能強化を図る計画だ。すでにその準備工事が始まっており、周辺エリアも含めた活性化が期待される。