大学生の就職活動

企業はいかに「入社動機」を形成し志望度を高めるべきか? 学生向け「入りたい企業の見つけ方」も

学生の志望動機の高さは企業の採用活動にとってはその後の内定承諾率に大きく影響する。志望動機は学生自身が作り上げるものであるが、本来は企業の採用活動の中で醸成されていくべきものである。今回は志望動機形成のメカニズムを解説する。

小寺 良二

執筆者:小寺 良二

ライフキャリアガイド

「内定辞退」を受けないために企業が取り組むべき対策と、学生向け「入りたい企業の見つけ方」

「内定辞退」を受けないために企業が取り組むべき対策と、学生向け「入りたい企業の見つけ方」

企業の採用担当者にとって最もショックを受ける瞬間といえば、内定を出した学生から内定辞退の連絡を受けたときであろう。

「最終面接であれほど熱く志望動機を語ってくれていたのに」

と志望度が高いと思っていた学生ほど、内定を辞退されるとショックは大きい。学生も悪気はなく、面接で結果を出すことに必死なだけであって、企業をだまそうとしているわけでは決してない。最終的に入社できるのは1社なので、数社内定を得ればどれもとても志望度が高かったとしても1社以外には辞退の連絡を入れなくてはいけない。

採用活動をしている企業が、学生が最後に入社したいと思える1社に残るためには、学生自身に志望動機の形成を任せていてはいけない。本来志望動機とは採用活動の中で、得られる情報や社員との接点を通じて醸成されていくべきものであり、その質によって内定承諾だけでなく、入社後の仕事への取り組み姿勢にも影響するからである。

では企業側はどのように学生の志望動機を形成していけばいいのだろうか?

今回は志望動機をWHERE(どこで)、WHO(だれと)、WHAT(なにを)という3つのWに分解して解説する。
 

(1)WHERE:どんな業界・会社で働きたいのか?

志望動機の1つ目のWは「WHERE(どこで働きたいのか?)」という要素である。

就職活動において「どこで」と聞かれると真っ先に「会社」が思い浮かぶかもしれないが、その会社が小分類であるとすれば、大分類には「業界」が存在する。まずはどんな業界に興味があり、その業界の中にはどんな会社があるのかを知ることから始まる。

学生の立場であれば、まずは自分が知っている(興味のある)会社からスタートするといいだろう。その会社に惹かれるだけではなく、その会社がどんな業界に属しており、他にどんな会社があるのかを見てみる。そうすることで他業界、他社との違いを比較しながら、自分が働きたい業界と会社の特徴を見出していき、それが志望動機となる。

企業側であれば、当然学生以上にその業界や自社について詳しいので、その業界や企業の魅力や将来性も含めて学生に情報提供していく。

よくやってしまうのは自社をアピールしたいがあまり、他社と比較して自社の強みや優位性のみを伝えようとしてしまうことである。そこは逆にあえて他社の強みや優位性、自社の弱みや劣っている点も伝えてほしい。それが他社との違いとなって、逆に学生の判断軸が磨かれるからだ。例えば他社は海外展開に積極的、自社は国内マーケットが中心の場合は「海外展開が課題」であるとはっきり言った方がいい。

海外志向が強い学生は他社に行くかもしれないが「国内マーケットを中心にシェアを伸ばしている会社」として学生に認知され、その環境を望む学生が志望してくれる。学生にとって一番困るのは結局他の会社とどこが違うのかよく分からず、どの部分が自分と合うのか分からなくなってしまうことである。

そういう意味では企業は、業界・会社という「働く環境(WHERE)」の特徴を良い面も課題面も含めてフラットに伝えてほしい。
 

(2)WHO:どんな人たちと(誰と)働きたいのか?

志望動機の2つ目のWは「WHO(どんな人と働きたいのか?)」という要素である。

学生の内定承諾の決め手で最も多いのが良くも悪くも「社員の人たちが一緒に働きたいと思える人たちだった」という「働く人」に惹かれるケースである。

人がイキイキと働く上で職場での人間関係はとても大事な要素だからである。そういう意味では入社前にできるだけ現場社員と会い、どんなタイプの社員が働いているのか、職場の雰囲気はどんな様子かを把握しておくことは大切である。

気をつけなければいけないのは、採用活動で関わる社員の人たちはごく一部であり、入社後に一緒に働く人たちではない場合がほとんどであることだ。また学生と会う採用担当者やリクルーターは学生との関係構築が仕事であり、それが得意な社員が多い。実際に配属後に現場で共に働く先輩や上司は、人事とはまた違う職務であるので、就職活動中に会った社員とのギャップは多少あるかもしれない。

そのような側面があることは理解しつつも、学生であれば入社前に現場社員との接点は可能な限り持つこと、企業側であれば学生と社員の交流機会を提供することは強く推奨したい。

その際には「点の接点」と「面の接点」の両方があるといい。

「点の接点」というのは学生と社員の1対1の場である。点の接点にはその学生が社員の学生時代の経験から入社後の仕事までじっくりと聞ける良さがある。ただ点の接点だけだと職場の雰囲気が分からないので、「面の接点」を設けて複数の社員がいる場に学生を同席させるといい。その際は働いている場である「オン」と、仕事以外に飲み会などの「オフ」の両方があるとベストである。それぞれの側面から社員や社風にバランスよく触れることでどんな人たちか、どんな職場かを学生は知ることができる。
 

(3)WHAT:何を(どんな仕事)をしたいのか?

志望動機3つ目のWは「WHAT(どんな仕事をしたいのか?)」という要素である。

実は、実際に多くの就活生が志望動機を作る際に注目しがちなのは、会社と人の魅力になりがちだ。「御社の事業に、理念に、社風に……惹かれて志望しました」が非常に多い。

ただ実際にその会社に入って、そこにいる社員たちと何をするかといえば、仕事である。どんな良い会社であっても、どんな素敵な社員たちであっても、自分がする仕事にやりがいや面白みを感じないと長くは続かない。

これには日本企業における雇用制度も影響している。ほとんどの日本企業はこれまで新卒採用を「総合職」という職種を限定しない「何でも屋」として採用してきた。どの職種や部署に配属されるかは、入社してから決まるので、企業によってはあまり職種への動機形成を行わない(配属前に自己決定されても困る)ところもあった。

最近では「ジョブ型採用」で職種ごとに採用するケースも増えてきたが、未だに総合職としての採用は一般的である。

しかし、たとえ総合職でさまざまな職種を経験する可能性があったとしても「どんな仕事をしたいのか」という大枠は持っていたい。例えば「広告を作る仕事をしたい」という大枠があるだけでも、それが営業という職種になるか、もしくは制作やクリエイターとしてになるかは入社後の配属にも影響するが、どの職種であれ役割が違うだけでその仕事に携わることは可能である。

学生は企業で働いた経験もなく、就職活動という情報や機会が限られた中で、必死に志望動機を作る。学生視点での志望動機なので偏りが出るのは当然だ。そこは企業側も志望動機に必要な要素を分かった上で、それらを醸成できる情報や機会を採用活動の中で意図的に提供していくべきである。
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