秋篠宮皇嗣同妃両殿下も訪れたウォヴィチの町
ウォヴィチは首都ワルシャワから90キロほどの場所にある小さな町。今は静かな雰囲気ですが、17世紀ごろまでは経済的にも栄え、にぎわっていたそう。1960年代まで日常的に着用されていた民族衣装は、現在でも町の行事や特別な催しの際に着られています。2019年には秋篠宮皇嗣同妃両殿下もポーランド訪問の際、この町を訪れました。 農民用の女性の衣装はフリーサイズのワンピースにエプロンを組み合わせ、上にブラウスとベストを重ねて着用します。ウォヴィチの民族衣装の特徴は、なんといっても鮮やかで繊細な刺しゅう。スカートのすそまで美しい刺しゅうが施され、一切の妥協がありません。
今回、お話をうかがったのは、20年ほど前からウォヴィチの伝統文化の継承や紹介に専念しているアンナさん。ポーランドを代表する国立マゾフシェ舞踊団にも衣装としてウォヴィチの民族衣装を提供しており、舞踊団はローマ教皇の前で舞踏を披露したこともあります。
ためいきもの! センス抜群の色使い
ウォヴィチの衣装で1番大切なのは色のマッチング。色のバランスを熟考してから刺しゅうにとりかかるそう。刺しゅうの絵柄には必ずバラが入り、あとは野の花が数種類入ります。 女性は最低5セットを所有し、家着やおでかけ、特別な行事などシーンごとに異なる衣装を身に着けていたそうです。ちなみに男性は1セットでOKだったのですが、男性の場合は妻や娘を見れば、その家庭がどれくらい裕福か一目瞭然だったからとか。衣装は教会の教区ごとに違い、家々で手作りされるため、基本の形はありつつも個性豊かです。昔は、教会などで会ったとき「いい柄ね」「どう作ったの?」なんて教え合うこともあったといいます。
手入れにも気を使います。自然の色素で染めた色なので水洗いはせず、汚れたときは蒸気で汚れを落とします。ウールなので虫食い予防も欠かせず、寒い冬に屋外で干すことで虫も凍らせてしまうそう。ただ、太陽の光に当てすぎると色が変わるので注意が必要です。
かつてポーランド国王の次に高い地位を持つ人がウォヴィチの領主だった時代もあったそうで、アンナさんは「その末裔であることを誇りに思っている」とのこと。真っすぐな姿勢で伝統を伝えています。
ポーランドのお土産でもおなじみの切り絵
ウォヴィチは民族衣装のほかにも音楽や言葉(方言)など独自の文化を育んできました。特に有名なのが、ヴィチナンキと呼ばれる切り絵です。現在、ヴィチナンキはポーランドを代表するお土産物として広く知られていますが、ウォヴィチが発祥とされています。手作業による繊細な切り絵はまるでアートのよう。もともと農家の人たちが裕福な家に飾られた絵画を見て、「自分たちの家も美しく飾りたい!」と思ってつくったのが始まりでした。
切り絵は、まず黒い紙で下地をつくり、色紙を重ねて作っていきます。 紙を切るのに使用されるのは、羊の毛を刈る伝統的なはさみです。試しに触らせてもらうと、サクッと気持ちのいい切れ味でしたが、細かい模様を切り取るのはかなり大変そう。冬の農閑期に制作し、春になると新しいものと入れ替えていたそうです。
民族衣装がずらり! ウォヴィチ博物館
普段、町を歩いていて民族衣装を着た人を見かけることはありませんが、聖体節(2024年は5月30日)にはパレードがあり、町中を民族衣装の人たちが練り歩きます。また、旅行者にとっては数々の民族衣装の展示を見られるウォヴィチ博物館も楽しい場所。町には雑貨店(folkstar)もあり、切り絵や刺しゅう小物はお土産にもおすすめです。 また、ウォヴィチから約7キロの場所にあるマウジツェ野外博物館には、昔の町のイメージが再現されています。夏には切り絵のワークショップなどもおこなわれます。 ワルシャワからウォヴィチは電車で1時間ほど。素朴で美しい文化が魅力のウォヴィチを訪ねてみませんか。取材協力:ポーランド政府観光局