話し方・伝え方

トーンポリシング(話し方警察)とは? 具体例や問題点、巧みな論点ずらしに気づいたらどう対応すべき?

性加害問題で開かれたジャニーズ事務所の会見で、報道陣の強い口調での質問をいさめた井ノ原快彦さんの発言が話題に。賛同する人もいる一方で、「トーンポリシングではないか」と問題視する声も上がっています。トーンポリシングとはどういうことなのか。問題点や対処法、トーンポリシングを批判することの問題点も解説します。

藤田 尚弓

執筆者:藤田 尚弓

話し方・伝え方ガイド

報道陣の強い口調での質問をいさめた井ノ原快彦さん

ジャニーズ事務所の記者会見で、報道陣の強い口調での質問をいさめた井ノ原快彦さん(撮影:All About ニュース編集部)

性加害問題で開かれたジャニーズ事務所の会見で、報道陣の強い口調での質問をいさめた井ノ原快彦さんの発言が話題になっています。会場からも拍手が起きるなど賛同する人もいる一方で、「トーンポリシング(Tone Policing)ではないか」と問題視する声も上がっています。

いきなり「トーンポリシング」と言われても聞きなれない言葉で、意味が分からない方も多いと思います。トーンポリシングとは、どういうことなのか。トーンポリシングの問題点や対処法の他、トーンポリシングを批判することの問題点も紹介します。
 

トーンポリシングとは? 「話し方警察」とも

トーンポリシングをできるだけ学術的な言葉を使わずに説明するなら「相手の話し方について指摘することで、論点をずらすこと」と言えるでしょうか。本来であれば相手の主張や質問に真摯に対応するべき場面で、「その言い方はおかしい」など話し方批判をするといったことを指します。そのため、一部では「話し方警察」と呼ぶ人もいるようです。

例をいくつか挙げてみましょう。

ケース(1)
モラハラをされて我慢が限界になった妻が涙ながらに反論すると「そんな感情的では話し合いができないじゃないか」と批判

ケース(2)
自分が間違っていたことを部下に指摘された人が「上司に対する言い方があるだろう」と大声を出す

ケース(3)
女性蔑視に改善を要望すると「女性はすぐにヒステリックになるから困りますね」と周りに賛同を求める

上記を見て、トーンポリシングをされたことがあると気づいた人もいるでしょうし、自分もしたことがあると気づいた人もいるかもしれません。

話し方はどんな場面でも大事にしたいですし、話し合いの途中で相手の声の大きさなどを注意しなければならない場面もあります。しかしながら上記の3つの例は「話し方の改善を求められた」というだけではない、なにかモヤモヤした感じがすると思います。なぜトーンポリシングが問題視されているのか解説します。
 

トーンポリシングの問題点とは

先ほど挙げた3つの例に共通点することとして、相手の主張には直接回答せずに、「問題になっている事柄」から「話し方」に論点を替えていることが挙げられます。具体的に見てみましょう。

ケース(1)
モラハラをされて我慢が限界になった妻が涙ながらに反論すると「冷静にならないと話し合いができないじゃないか」と批判
→反論にはコメントせず、夫婦間の問題点から感情的な話し方に論点をずらしている

※何が問題か
勇気を出して反論できた妻に対しての話し方批判は、妻を委縮させてしまったり、反論すること自体を諦めさせてしまったりという悪影響も

ケース(2)
自分が間違っていたことを部下に指摘された人が「上司に対して言い方があるだろう」と大声を出す
→間違ったことには謝罪や説明をせず、部下の言い方に論点をズラしている

※何が問題か
指摘への回答をしないだけでなく、言い方の批判をすることで部下に心理的なダメージを与える。また職場で上司には意見を言えないという空気感を醸成してしまう

ケース(3)
女性を蔑視する人に改善を要望すると「すぐにヒステリックになるから困る」と周りに賛同を求める
→自分が被害を与えていることを認めず、訴えてきた人をヒステリックだと周囲に思わせることで、あたかも被害者は自分かのように周りに誤認させる

※何が問題か
ヒステリックというレッテルを貼ることで、改善を求めるなど正当な主張もしにくくなる。いつの間にか改善を求める側が悪者になってしまう

会話の途中に話し方を注意するという、時には必要となる行為でも、論点ずらしや主張の抑制、時には被害者と加害者が逆転するといった事態につながってしまうことがあります。サイコパスと呼ばれる人や、ハラスメントを日常的にする人の中にはトーンポリシングが巧みな人もいるので、被害に遭わないよう気をつけたいものです。具体的にはどのような対処をすればよいでしょうか。
 

論点をずらされたときの対応策

話し合いの焦点を「言い方」や「話し方」にずらされてしまうと、そもそも対応してほしいことに対して話題が戻りにくくなることを心配するかもしれません。しかし、もっと深刻なのは批判による心のダメージや諦めです。「トーンポリシングかな」と思ったときには、批判や攻撃に聞こえる相手の言い分はできるだけ気にしないようにするのが大切です。気持ちを落ち着けて同じ主張を繰り返し、真摯に対応してくれるよう伝えましょう。

例)
「もう1度質問させていただきます。先日の指示は間違っていたかどうか、回答いただけますか」

意図的に論点をずらしているわけではない場合には、主張に対して何らかのアクションをしてくれるはずです。

このとき気をつけたいポイントは、相手に対して「論点ずらしだ」と批判しないことです。責められているような気持ちになってしまうとき、無意識のうちに論点をずらしてしまうタイプの人がいます。このタイプの人は、自分がしたことへの自覚がないこともあり、責められたように感じると対立がより深刻になりがちです。「論点ずらしだ」と責めないように気をつけ、できるだけ穏やかな声のトーンで回答を依頼しましょう。

意図的に論点をずらしていた人の場合、主張を繰り返して真摯に対応するように伝えても、自分に都合のいい「話し方」という論点から元に戻ろうとしません。より強く主張してくる傾向にあるので、話し方で不快にさせたことは認めて、丁寧な話し方で再度伝えてみてください。

例)
「私の言い方で不快にしてしまったことに対しては謝罪します。申し訳ありませんでした。丁寧な言い方でもう1度質問させていただきます。先日の指示は間違っていたかどうか、回答いただけますか」
 

トーンポリシングの批判にも注意が必要

この記事を読んだ方の中には、話し方を注意されたときには「それはトーンポリシングですよね」と指摘しようと考える方もいるかもしれません。でも安易にトーンポリシングだと批判するのは要注意です。

たしかに悪意を持った論点ずらしや、弱者が意見を言えなくなるような状況を作ること、被害者と加害者が入れ替わるようなことはあってはならないことです。しかし、大声でまくしたてるような話し方が容認できないケースもあるはずです。そんなときに、冷静に話すように依頼するというのは必要なことではないでしょうか。

また意図せずに論点がずらしてしまった対応について批判されると、感情的になりやすく、話し合いが上手くいかなくなるリスクがあります。意図的に何度も論点をずらしてくるような人には毅然とした対応が必要ですが、そうでないケースも多いことを忘れずに、自分が信じる正義をふりかざさないよう対話を進めたいものです。

悪いことは徹底的に追及すべきだといった考えもあるかもしれませんが、個人的には、話し方についてのお願いをなんでも「トーンポリシングだ」と叩くのは怖いと感じます。ケースによって正解は違うと思いますが、そもそも私たちは感情的になったり、自分の正義を振りかざしたりしがちです。穏やかな話し方で解決することを目指す中でも、怒りをぶつけるといった感情表出は十分できるのではないかと思います。
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