Q. 「よく眠るだけで認知症予防になる」というのは本当ですか?
ぐっすり眠るだけで、認知症リスクが下げられる? その理由とは
A. 本当です。逆に、睡眠不足は認知症リスクを高めると心得ましょう
睡眠が健康のためにも大切だということは、多くの方が認識されていることでしょう。睡眠不足はさまざまな弊害を招きます。加えて、良質の睡眠をとることは、認知症予防の点からも重要であることが近年の研究から明らかになっています。その3つの理由を、わかりやすく解説します。第一に、眠ることで、しっかり記憶することができるからです。実は記憶を作るためには、睡眠が必要なのです。睡眠は「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」の2種類に分けられ、入眠時には大脳の活動がだんだん低下して、体も脳もぐっすりと休んだ状態の「ノンレム睡眠」になっていきます。ノンレム睡眠が1時間ほど続くと、体は休んだままの状態で大脳が活動を再開します。このとき私たちは夢を見ていることが多く、眼球がぐらぐらと素早く動くのが認められる「レム睡眠」の状態になります。実は、このレム睡眠中に、日中に体験した出来事の振り返りが行われ、記憶がしっかりと作られると考えられています。したがって、十分な睡眠をとることによって、体験した出来事が記憶されて、しっかり覚えておけるようになると考えられています。
第二に、眠ることは、認知症の増悪因子である「ストレス」の軽減に役立つからです。私たちが日中活動しているときは、さまざまな出来事に素早く応じることができるように準備しておく必要があるため、自律神経系が交感神経優位になり、副腎皮質からコルチゾールというホルモンの分泌が起こり、緊張状態が続きます。そして、脳の中で記憶形成に関わる「海馬」という領域がコルチゾールの作用を受け続けると、海馬がダメージを受けて記憶障害の原因となることがあります。しっかり睡眠をとれば、その間は交感神経の活動と副腎皮質ホルモンの分泌が減るので、ストレスによる海馬へのダメージを回避することができて、認知症のリスクも減ります。
そして第三に、日中起きている間に脳の活動に伴って生じる老廃物は、睡眠中に脳から排出されるからです。2009年にアメリカ・ワシントン大学の研究グループは、ネズミの脳内に脳波測定用の電極と脳内間質液を回収するための微小プローブを埋め込み、ネズミが測定ケージの中で自由に過ごし覚醒と睡眠を繰り返している状態で、脳波と脳内間質液の採集と解析を定時的に行い続けるというすごい実験を行いました(原著論文:Science, 326(5955), 1005-1007, 2009)。また、認知症の主な原因疾患として知られるアルツハイマー病と睡眠の関係に着目し、家族性アルツハイマー病の変異遺伝子を人工的に組み込んで作成されたネズミを使用しました。その結果、アルツハイマー病の発症に関わると考えられている「アミロイドβ(Aβ)」というタンパク質の脳内レベルが、覚醒中に増え、睡眠中に減ることを発見しました。さらに、薬を投与するなどして睡眠を妨げると、Aβが減らなくなり、増え続けることも分かりました。
同じことが人間でも起こるのかを確認するため、ボランティアの人に協力してもらう実験も行われました。測定室で1日を自由に過ごし、昼間覚醒して夜間睡眠をとってもらう間に、脳髄液を経時的に採取して、そのサンプルに含まれるAβ量を測定したのです。その結果、髄液中Aβレベルは、就寝後に減少しはじめ、起床後に増加に転じることがわかりました。
私たちの脳には、脳内にたまった老廃物を排出するしくみがありますが、これは主に睡眠中に働きます。睡眠をとらないと、このしくみが働かなくなるので老廃物がたまってしまいます。Aβの蓄積はアルツハイマー病を引き起こすと考えられていますので、睡眠不足は認知症のリスクを高める可能性があるともいえるのです。
自分の脳をいたわり、認知症を予防するためにも、睡眠は大切だと心得ましょう。
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