子どもたちが食パンをかじって……
つい先日、マリナさんは高校時代の友人たちと会うため、夫に早く帰ってきてくれるよう頼んだ。以前から決まっていた予定なのだ。「明日だからね、と前日念を押しました。携帯でスケジュール共有はしているんですが、口頭でも言っておかないとと思って。そうしたら夫は『わかった』と。私は一次会だけで引き上げて、夜9時頃家に着いたんですが、長女がまだ起きているんですよ。『パパは?』と聞いたら、さっき帰ってきて寝てると。具合でも悪いのかと思ったんですが、ふと見ると、次女はソファで寝ていて、長女は何もつけてない、焼いてもいない食パンをかじっていました。どうしたのと聞いたら、お腹がすいたと」
マリナさんはすぐに冷凍してあったご飯を使って、長女に簡単ながら夕飯を食べさせた。次女も起きてきて、むしゃぶりつくように食べている。お腹がすいていたのだろう。不憫で涙が出そうだった。
子どもの夕食そっちのけで夫は……
「頭に来て、寝室に行ったら夫は高いびき。叩き起こしましたよ。具合が悪いのかと聞いたら、『いやー、ちょっと飲み過ぎた』って。私が今日はいないのわかってたでしょと言ったら、『そうだよ、だから次女を保育園に迎えに行ったんだよ』と言うんです。その後、夕飯を作ろうと思ったら、食材を買い足さないといけないと気づき、長女に少しだけ留守番をしててと言って家を出た。出先で近所の仲良くしているパパ友に会って、うっかり駅前の立ち飲み屋に行ってしまった。そこでまた知り合いに会って、すっかり気分よく飲んでしまったんですって。帰ってきたのは8時過ぎ。長女も次女もソファで寝ていた。夫はハイペースで飲んだので頭が痛くなって、寝室で横になったら寝入ってしまった、と」長女が食パンを食べてたわよと言ったら、「ごめん」と夫は言った。だがマリナさんの怒りはおさまらない。子どもたちだけ家に置いて、万が一、火事でも出したらどうするのか。外から鍵をかけたのだから、子どもたちが逃げられないかもしれない。そうでなくても、子どもたちの食事をどう考えているのか。ふだん、マリナさんは子どもたちには栄養を考えて、できるだけのことはしているつもりだった。それを知っていながら、子どもに食事もさせずに自分だけ飲んだくれていた夫が許せなかった。
「夫は『本当にうっかりしていたし、悪気はない』と言うんです。もちろんそうでしょう。悪気があったら速攻で離婚です。でも私と約束したことを反故にしたわけだよね、自分でいいよ、わかったと言ったことにどうして責任が持てないのかなと嫌味を言ってやりました。家庭や子どものことなんて、どうでもいいと思ってるんじゃないのと言うと、『それは言い過ぎだ』と逆ギレしてましたけど」
翌朝、夫は娘たちに謝っていたが、マリナさんは自分でもわかるほど冷たい目でそれを見ていたという。それ以来、夫とはどこかギクシャクしたままだ。あのとき食パンをかじっていた長女の顔が忘れられない。
「仕事と同じように、家庭のことにも責任をもってほしい。タイミングを見て、それだけはきちんと伝えるつもりです」
言いながら、マリナさんは思い出したのか、厳しい表情になっていた。