幼少期からパフォーマー、表現することが私の人生！『炎上する君』のファーストサマーウイカが熱く語る

映画『炎上する君』は作家・西加奈子さんの原作をふくだももこ監督が映画化した作品。東京・高円寺を舞台に、女性ふたり、梨田（うらじぬの）と浜中（ファーストサマーウイカ）が、無神経な発言や差別で傷つく人に出会い、その人の心に寄り添っていく……という物語。一見、風変わりな女性たちに見えますが、実は優しく温かい。とてもいい映画です。

ファーストサマーウイカさんは、バラエティーなどで見せる華やかさを封印して、ルッキズムに悩む女性を好演しています。そんな彼女に本作の裏側と芸能界での生き方についてインタビューしました。
 

『炎上する君』に出演、ファーストサマーウイカさんにインタビュー

――まず『炎上する君』の出演依頼が来たときのことから教えてください。
 
ファーストサマーウイカさん（以下、ウイカ）：ふくだ監督、うらじぬのさん共にわずかですが以前から関わりがあって。うらじさんが所属していた劇団「子供鉅人」にゲストで出していただいたり、ABEMAの生放送でふくだ監督が撮影するのをスタジオのリアクションで入っていたり。なのでこのおふたりと作品でご一緒できるなら、ぜひやりたい！絶対面白い！とワクワクした記憶があります。
 
――撮影期間が短かったそうですね。
 
ウイカ：撮影は3日間でした。監督とうらじさんと私で事前に読み合わせがあって、キャラクターや背景などについて認識を共有していたので、撮影に入ってから深く考えることはなかったですね。原作をベースに監督が練られた脚本を、さらに3人でディスカッションしながらブラッシュアップしていった感じです。
 

ダンスシーンは撮影初日にぶっつけ本番！

――浜中役はパワフルさと繊細さが同居している女性でした。
 
ウイカ：梨田がパワーのあるキャラクターなので、そのパワーに負けない浜中が必要だったと思うんです。監督は私にパワーがあると思い、この役を与えてくださったのかなと思いました。
 
この映画に登場するキャラクターは、人との関係や世間の風潮に対して、モヤモヤしたり、傷ついたりするのですが、映画を見てくださる方も梨田や浜中を見て「私の抱いていた違和感はこれだったのか」と気付いたりするかもしれません。とはいえ、メッセージ性を強く押し出す映画ではないので、浜中役は、浅すぎても深すぎてもダメ、語りすぎてもダメという絶妙な立ち位置が必要でした。 ――難しいですね。
 
ウイカ：普通なら撮影のときに悩んでしまいそうなのですが、ふくだ監督はうらじさんと私を信頼してくださって、撮影の間ずっと私たちのことを、梨田と浜中として見ているんですよ。「今の感動した、泣けたよ、浜中～」とか言って、本当に泣いたりして（笑）。

もう梨田と浜中のドキュメンタリーを撮影しているような感じでした。高円寺の街中で急に踊り出すシーンも、撮影初日にぶっつけ本番で撮影したんです。振り付けもアドリブで。でも、うらじさんと「このシーンが初日で良かったね」と話しました。あのダンスシーンのおかげで、ふたり芝居の方向性が自然と見出された気がしました。
 
――完成した映画を見た感想は？
 
ウイカ：いつもはでき上がった作品を見ると「もっとこうすればよかった」とか反省するんですが、今回は悔いがなかったです。あの3日間の撮影でしかできなかったこと、あの瞬間だからこそ生まれたものが映し出されていたと思います。
 

幼稚園の頃から生粋のパフォーマー

――ウイカさんのキャリアについてお伺いしたいのですが、バラエティータレント、女優、歌手と活躍の場を広げていますが、もともとバンドでドラムをやっていたけど、ドラムは目立たないから女優を目指したという話は本当ですか？
 
ウイカ：私のキャリアステージは幼稚園までさかのぼるのですが、幼少時代から人前で歌ったり踊ったりすることに抵抗のない子どもでした。小学生の時は、学芸会で監督、脚本、主演で舞台に立つという、とても厚かましいことをやっていました（笑）。

中学校ではブラスバンドで打楽器を担当したのですが、もっとポップなことをやりたいと、高校では軽音楽部でドラマーになりました。でも、ドラムだとステージ上で動けないので、俳優を目指すように……と、ここまでの話でお分かりのように、常にステージの上で表現をしたいタイプなんです。 ――パフォーマンスを人に見てもらいたいということですね。
 
ウイカ：上京したときも俳優を目指していたのですが、合格したオーディションがアイドルだったので、アイドルとしてステージに立つようになりました。選択するジョブやアビリティーはさまざまなんですが、一貫して、自分の表現を人に見てもらうことが好きで、これはずーっと変わっていないです。
 
――ステージに立つことをやめようと思ったことはないですか？
 
ウイカ：ないですね。他の選択肢がなかったです。逆にやめたあと何ができるか、何をしたいかと考えても思い浮かばない。もし芸能から離れるとしても、自己啓発セミナーとか「面接で受かるコツ」とか本を書いて全国を講演して回ったり、起業して社長になっても自分がCMに出たり、結局、人前で何かをやろうとすると思います（笑）。
 

1を1000にできるけど、0から1を生み出せない

――いまのお仕事は天職ですね。作品を作ることに興味はないですか？
 
ウイカ：私は1を1000にすることができても、0から1は生み出せないタイプです。クリエイターの方が作り出した世界があるからこそ、私は仕事ができるのだと思います。

よく“生みの苦しみ”っていいますが、作り出す作業は私にとって、苦しいよりもピンと来ない。喜びが感じられないんです。

子どもの頃、学校の授業でみんなの前で音読するのは大好きだったけど、自分の描いた絵を展示されるのはすごく恥ずかしくて苦痛でした。その喜びがわからないから、きっと自分の作品を生み出すクリエイターの仕事を選んでこなかったんだと思います。
 
――今後の活動はどう考えていらっしゃいますか？
 
ウイカ：さまざまなジャンルのお仕事をいただけているので、これからはひとつひとつのレベルを上げていく段階だなと考えています。RPG全部のジョブのレベルを100まで上げて賢者を目指したい（笑）。

芸能は来る仕事の内容とギャラ以外に目に見える評価材料が少ないですよね。タレントを名乗るのに免許や資格も必要ない。落ちるときはシンプルに仕事がこなくなるだけ。だから求めてもらえるエリアはできるだけ広げてクオリティーやレベルを上げ続けたい。
 
仕事を絞ることはせず、いただいた仕事に向き合い、自分のできる仕事を増やしたい。個人的には声優の仕事をもっと増やしたいと思っています。
 

映画といえば、歌って踊るミュージカル！

――映画について伺いたいのですが、お気に入りの映画、好きなハリウッドスターなどいたら教えてください。
 
ウイカ：子どもの頃から惹かれるのは、突然歌って踊り出すミュージカル系です。『ブルース・ブラザース』（1980）『天使にラブ・ソングを…』（1992）は好きです。歌と芝居と音楽が融合した世界はやはりいいですね。最近ではインド映画『RRR』（2022）もアクション、ダンス、歌があって最高でした！ 私はいろいろなエンターテインメントがギュッと詰まった映画が好きなのかもしれません。 映画『炎上する君』もダンスのシーンがあり、ポップに描かれているので、私の好きなシーンでもあります。実際に歌やダンスでしか表現できない世界があると思うし、あえてストレートに言葉にしない、できないものを表現するのが音楽や踊りではないかと。この映画では、そういう点も表現できているので共感できるし、いい映画だなと改めて思います。
 

ファーストサマーウイカさんのプロフィール

大阪府出身。2013年アイドルグループ「BiS」に加入してメジャーデビュー。解散後は「BILLIE IDLE」のメンバーとして活動し、2019年解散後、2021年ソロメジャーデビュー。俳優としても舞台、映画、ドラマなど出演作多数。主な映画作品は『地獄の花園』（2021）『私はいったい、何と闘っているのか』（2021）。最新作は『禁じられた遊び』（2023年9月8日公開）。ドラマの近作は『シッコウ!!～犬と私と執行官』（2023／テレビ朝日）『警視庁追跡捜査係－交錯－』（2023年8月7日放送／テレビ東京）。2024年は大河ドラマ『光る君へ』（NHK）で清少納言を演じる。
 

『炎上する君』（2023年8月4日より、全国順次ロードショー）

唯一無二の親友、梨田（うらじぬの）と浜中（ファーストサマーウイカ）は、高円寺がホームタウン。街中で踊ったり、銭湯に入ったり、お笑いライブを見に行ったり、いつも一緒だ。ふたりは日々、女性が抑圧されたり、被害にあったりする事件について語り、憤っている。そんなある日、高円寺に出没する「炎上する男」の存在を知った彼女たちはその男を探すことに。

監督・脚本：ふくだももこ
出演：うらじぬの、ファーストサマーウイカ、齊藤広大、中井友望、大下ヒロト、中山求一郎、當山美智子、南久松真奈ほか

撮影・取材・文：斎藤 香