大学生の就職活動

リクルートはなぜ「サクラ行為」をしてしまったのか。苦しい内部事情と、真にやるべきだった対応

リクルートが学生向けオンラインセミナーの質疑応答コーナーで、学生を装って質問する「サクラ」行為をしていたことが発覚し、問題になっている。なぜそのようなことが起きたのか? 就職情報会社の実情から、問題の原因について解説する。

小寺 良二

執筆者:小寺 良二

ライフキャリアガイド

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リクルートの就活セミナーでの「サクラ行為」、他の対応方法はなかったのか(出典元: monticello / Shutterstock.com)

リクルートが、大学生対象のオンライン就活セミナーで、社員が学生を装って質問していたことが発覚し謝罪した。リクルートと同じく就職サイトを運営するマイナビも同様の「サクラ」行為が過去にあったことを認めた。

今回の問題は、大学支援推進部(現・学生キャリア支援推進部)という、大学からの依頼で就職ガイダンスやエントリーシートの書き方など、就職活動に必要なキャリア支援を学生に無償で行う部署で起きた。

なぜ大学生の就職・キャリア支援のプロとも言うべき会社が、このような問題を起こしてしまったのか。
 

経験と実力が追いついていない「キャリア支援のプロ集団」

実は筆者自身、以前リクルートから依頼を受け、学生向けキャリア支援コンテンツの開発と当時の大学支援推進部社員の育成に携わったことがある。

この部署の大変なところは、担当の大学から就職ガイダンスの依頼を受けると、依頼内容に合ったコンテンツを自ら作成し、当日は何百人もの前でで「キャリア支援のプロ」として講演をしなければいけないことだ。当然就職ガイダンスなので学生に強制参加をさせている大学も多く、参加者の中には寝たり私語をしたりする学生もいて、わざわざ大勢の前で手を挙げて質問してくれる学生はほとんどいない。

本来はプロの講師でも難しい仕事なのだが、これを入社して間もない、学生と年齢がほとんど変わらない社員がやることになる。筆者が携わっていた当時の組織は若い契約社員が中心で、キャリア支援のプロとして登壇する上で必要なトレーニングも受ける機会は少なかった。

しかしそんな経験と実力が乏しい若手社員でも、大学や学生からは「リクルートから来た就職活動の専門家」として見られるため妥協は許されない。講演後に質問が出ない場面でも、学生が少しでも質問しやすいように工夫していた。例え経験や実力が伴っていなくても、少しでも学生のためになる機会にしようと努力している社員がほとんどだった。

今回の問題もきっとそんな若手社員とその社員をサポートする上司が、学生からの質問が出ないことを事前に考慮した上で行ったことだったのだろう。しかしオンラインセミナーという環境に甘えて、社員自身が学生を装って質問するという「サクラ行為」に及んでしまった

その行為によって他の学生も背中を押されて、質問が出るようになったのであれば「質問しやすい雰囲気にするためのきっかけづくり」という同社が発表した行為の目的は果たせていたのかもしれない。

しかしもう1つの大きな問題は社内コミュニケーションツールで、「質問はまずサクラしこんでね」というメッセージが上司から送られていたことだ。

これについては完全に「プロ意識の欠如」と言える。人生を左右するかもしれない就職活動のセミナーに緊張して参加する学生やその場に対しての尊重を感じないし、何よりも「質問が出ないときはサクラで対応する」という低い基準の仕事のやり方を若手社員に植え付けてしまっている。

日本の就職活動を支えてきたリーディングカンパニーという大きな期待を裏切られた大学関係者や学生も多かったであろう。
 

「サクラ」をしてまで学生に質問してもらうべきだったのか?

経験者の立場からはっきり言わせてもらえば、就職ガイダンスや講演会でわざわざ学生に手を挙げて質問などさせる必要はないのだ。社会人であっても何百人もいるセミナーで「質問ありますか?」という促しに対して挙手できる人などほぼいないのだから。

そこで「参加者から質問してほしい」というのは講師や主催側のエゴである。それを学生に強いてはいけない。逆にプロとしてやるべきだったのは「質問のハードルを下げること」である。

例えば「過去のセミナーではこんな質問が出ていました」とよくある質問をいくつか画面に出して先に回答してしまうのだ。実際に同じことを聞きたくても、何百人もの前で発言してまで聞こうとする学生は少ないが、画面に先に出してもらえば自分が質問をして答えてもらえたという疑似体験ができる。その疑似体験が次のステップで「自分でも質問してみようかな?」と行動につながる。

またセミナー中は講師が話し続け、最後の最後にだけ「質問ありますか?」と受講者に話を振っても大抵手は挙がらない。質問というのは大変ハードルの高い行為なのだ。まずはセミナー中に「アルバイトやっている方どれくらいいますか?」など学生が応えやすい質問で手を挙げる体験をしてもらい、その中の1人に「何のアルバイトしているか教えてもらってもいいですか?」と発言機会をつくる。その発言を「ありがとうございました!(拍手)」と受け止めることで質問しても場や講師に受け入れられるという成功体験を受講者にしてもらう。それがあれば最後の質問コーナーの挙手の可能性はグンと上がる。

オンラインセミナーの環境を活用するのであれば、他の参加者が出した質問コメントに「いいねマーク」をつけてもらうなどして、自分が聞きたい質問を他者にしてもらう後押しなども出来る。

「学生から質問が出づらい」と想定できた際に講師側で出来ることは、実はいくらでもある。今回もしセミナーを担当する若手社員がそのことで悩んでいたのだとしたら、上司が差し伸べるべき助け舟は「サクラ行為」とは別のものであるべきだった。
 

学生自身の可能性を誰よりも信じること

就職ガイダンスの講師やキャリアカウンセラーが最も大切にしなければいけない姿勢であり役割は、「学生自身の可能性を誰よりも信じること」である。今回の行為は学生自身の「質問する力」を信じていなかった結果だ。

就職活動を迎えるほとんどの学生は不安である。自分の今までの経験が評価に値するのか? 自分に合った会社が見つかるのか? 先が見えない道を進むのは誰でも不安なのは当然だ。

そんなときに背中を押したり、安心させてあげられる存在がキャリア支援のプロである。リクルートやマイナビのような就職情報会社には、学生にとってそのような存在になりたい、学生1人ひとりのキャリアが開かれる情報を提供したいと思って働いている社員がたくさんいる。

きっと今回問題を起こしてしまった社員の方々もその中の1人であると筆者は信じている。学生の可能性を信じて、今後も学生たちにとって価値ある機会や情報を提供し続けていただきたい。

>次ページ:リクルートの「サクラ行為」に関しての謝罪文
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