亀山早苗の恋愛コラム

夫が突然「ごめんなさい」と涙をこぼした。知り合って60年目の「裏切り」に妻の本音(2ページ目)

3歳からの幼馴染みの夫が、母の面倒をみるために一時期家を空けたら浮気をしていた。その後不倫は解消されたが、なにかが変わってしまった……。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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ある日、「何かがおかしい」と思い始めて

何か変だなと思ったのは昨年9月だった。都内の自分の家に戻ってみると、いつも穏やかな夫の口数が少ない。具合が悪いのかと思ったが、そうでもなさそうだ。

「以前だったらお互いの携帯はそこらへんに置いてあったんです。互いに見ないという信頼感があったし、万が一、見られてもやましいことなどないから。なのにそのとき、夫は携帯をポケットに入れたまま。夜になって夫の携帯が鳴ったんですが、出ないんですよ。しかも『しまった』という顔をした。おそらく消音するのを忘れたんでしょう。どういうことなの、何があったのと聞いたら、夫が突然『ごめんなさい』と涙をこぼしたんです」

夫は子どもたちの卒業式などで涙ぐんだことはあっても、ボロボロ涙をこぼすことはなかったから、そんな夫の姿に彼女はショックを受けた。他に好きな女性ができたのだろうとすぐに推測はできたが、「まさか」という気持ちも抜けなかった。夫は「自分の気持ちをうまく説明できないけど、トモカへの気持ちは以前とまったく同じで、何かが変わったわけではない」と言い張った。

「今までだってそういうチャンスはあったはずだけど、一度も浮気はしたことがないと断言していました。それなのに今回はなぜと言ったらわからない、と。魔が差したのかもしれないと言っていましたが、夫は魔が差してもそれに乗るタイプではなかったはず。だからよけいにわからない。本人もわからないというんです」

相手は以前から夫の勤務先に来ていた派遣の女性だった。20歳も年下の女性で、バツイチだという。夫が恋をしているという状況を、トモカさんはどう受け止めたらいいかわからなかった。

「夫自身は自分が不倫している、恋愛していると言わないんですよ。ちょっとした間違いだみたいな感じ。でも月に何度も会ってるという。もう会わない、僕が生涯をともにするのはトモカなんだからと夫は言ったけど、私は『いや、私に別れろっていう権利はないから』と言ってしまいました。そんな言葉がさらりと口から出るほど、客観的だったのか、あるいは自分が夫と同化しているから否定したくなかったのか」

ショックではあったが取り乱すことはなかった。今までの夫との関係が否定されたような気にもならなかった。ただ、漠然と「これが裏切りなのかなあ」とは感じたという。

「夫は昨年末、もう彼女とは会わない。彼女は派遣もやめて実家に帰ったと報告してくれました。私のほうも母がケガを繰り返して歩行が困難になったので、いろいろ手続きをして東京の施設に入れることにしたので、また夫とふたりの生活が始まったんです」

夫は以前と変わらず、トモカさんに気を遣ってくれるし、彼女の母親にも頻繁に会いに行ってくれる。週末はふたりで出かけるし、会話も以前と変わらない。

「それなのに、やはり何かが違う。夫はときどき『許せないよね、僕のこと』と言うんですが、許せる、許せないというのとも違うんです。夫の中では終わったことが、私には終わってない感じ」

どこかぎくしゃくしながらも、結婚生活は続いている。一時期、拒絶していた夫との性的な関係も復活しているのに、それでもすっきりしない何かを抱えている感じが強いという。

「今はあえて思考停止にしています。私も今年からパートとして仕事を始めたし、娘夫婦が近所に越してきたので孫の面倒も見なくてはいけないし。忙しいからなんとなく自分をごまかしている気がします。ごまかしているうちに自分の気持ちが落ちついていけばいいのかなと」

どういう状態なら「落ち着いた」と言えるのかもわからないけどと彼女は言う。ただ、「今は目の前の生活を大事にしたい」ともつぶやいた。
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