中学受験

芝国際中学の応募倍率が80倍超!?「共学+国際化」の新興校ブームから中学受験生を守るには…

校名に「共学化」「国際化」の冠をつけた新興校や大学附属校を中心に、中学受験の難化、激化が続いています。近年の中学受験戦争から受験生を守るために、志望校について保護者はどう考えればよいでしょうか。

宮本 毅

執筆者:宮本 毅

学習・受験ガイド

2023年中学入試も激化、特に中堅校の「ボリュゾ」で顕著に

今年の中学受験もほとんどの方が終了している時期ですね。ここ数年の難化、激化の傾向は今年も顕著で、中学受験者数も昨年を超える勢いとなっています。

2000年頃は少子化とともに「受験産業は今後斜陽となる」と見積もられていました。しかしむしろここ最近は、受験者数、受験率、一人あたりの受験校数の全てで増加傾向が続いています。
「共学化」「国際化」で新興校の人気が爆上がりに……

「共学化」「国際化」で新興校の人気が爆上がりに

特に、近年は「ボリュゾ(ボリュームゾーン)」という新たな造語に象徴されるように、いわゆる「中堅校」と呼ばれる学校の難化が目立ちます。

また、大学受験制度の改革や、2016年入試より始まった定員厳格化で多くの私立大学が合格者数をしぼるようになったことによる大学入試への不安感増大が、中学受験の附属校人気に拍車をかけました。

さらに、女子校や男子校の「共学化」に代表されるような学校改革により、多くの「新興校」が生み出されました。例えば、2006年には嘉悦女子がかえつ有明へ、2007年には順心女子が広尾学園へ、2015年には戸板女子が三田国際学園へ、日本橋女学館が開智日本橋学園へ、2021年には村田女子が広尾学園小石川へ改称、2023年4月には東京女子学園が芝国際となります。

これと教育のグローバル化が結びついた結果、新興校の人気が爆上がりし、その結果それらの学校入試が「超難化」「超高倍率化」するという現象が起こっているのです。

今年の芝国際中学の入試がSNSで炎上したのは、その一端が顕在化したものといえるでしょう。
 

芝国際中学が「超高倍率化」、2月5日の応募倍率は80倍超にも

芝国際中学の今年の入試に対する批判的なコメントの主な理由は、1. 募集定員が少ない、2. 合格者数が少ない、3. 2月1日の合格発表が予定時間よりもかなり遅れた、4. 算数で出題ミスがあったの4点となります。

確かに、学校説明会では定員について「教室は空いていますのでご安心ください」などと聞いていたのに、といった保護者のお気持ちもよくわかります。合格発表がここまで大幅に遅れてしまったというのは受験生のご家庭に混乱をもたらしますし、算数の出題ミスに気付いて時間をとられてしまった受験生はとてもかわいそうです。しかしこの件について、筆者は中学受験の専門家としてひとこと言いたい思いがあります。

1、2については、確かに芝国際中学の今年度入試には人気が集まり、2月3日の午後入試では募集15名に対し応募が1015名と応募倍率67.7倍、2月5日午後入試では募集10名に対して835名が集まり応募倍率は83.5倍となりました。

しかしながら、この傾向は他の新興校にも見られるものです。例えば、広尾小石川の2月4日午後入試は募集定員10名に対して応募した受験生は610人で応募倍率61.0倍、三田国際の2月4日午後入試は募集定員5名に対し応募した受験生は643人で応募倍率は驚異の128.6倍、目黒日大の2月4日午後入試は募集5名に対し応募した受験生は509人で応募倍率は101.8倍です。

つまり「超高倍率」という批判は、芝国際のみが受けるべきものではないと考えます。

3については、0時を回ってしまったのは確かに問題かなとは思いますが、他校においてもホームページの合格発表で、発表時間が19時から20時へとしれっと変わっていたりと、後ろにずれ込むことはよくあるものです。

そもそも受験校はあらかじめ決めておくべきであり、合否の結果によって変わる予定があるのであれば「ダブル出願」をしておくことは中学受験の世界では常識です。

4の出題ミスについては、実はどの学校でもある問題です。塾の先生たちもおかしいと気付いていたり、過去問の出版社もわかっているのに、学校側が絶対に認めないケースもあるほどです。このような場合には、苦肉の策として過去問の解説に「学校側の解釈によると」などの説明が入っていたりします。もちろんミスはよくないですが、どの学校でも起きている問題でもあるのです。
 

「中堅校」「新興共学校」の激化から中学受験生を守るには……

では、こうした「中堅校」「大学附属校」「新興共学校」の激化から子どもを守るために、私たち大人は一体どうするべきなのでしょう。それは、やはり中学受験のことをきちんと知り、綿密な作戦を立てるということに尽きると思います。

実は多くの保護者の方が勘違いしている事実が、塾に通わせてていれば偏差値は段々と上がっていくものだということです。これは大きな誤解です。塾に通っていれば「学力」は確実に上がります。それまで知らなかった知識を学び、それまで解けなかった問題が解けるようになります。しかし学力が上がったからといって、偏差値が上がるとは限らないのです。

マラソンを例にして解説します。選手たちはスタートした後、確実に「前」に進んでいます。時間の経過とともに走行距離はどんどん長くなるはずです。これが「学力」にあたると考えてください。速い遅いはありますが、確実に前には進んでいる。しかし順位はどうでしょう。みなが前に進んでいるわけですから、順位は上がったり下がったりします。周りのスピードについていけなければ当然のことながら順位は下がっていきます。確実に前に進んではいるはずなのに、順位は下がってしまうこともあるわけです。これが「偏差値」です。

「一生懸命やっているのに偏差値がなかなか上がらない」と嘆く保護者の方が多くいますが、それは当然です。むしろ偏差値を維持できているのなら、周りと同じスピードで前に進んでいるわけですから、中学受験の速度についていけているという点で、よく頑張っているといえるわけです。

保護者のみなさんはこの「偏差値」の特性をよく理解し、「偏差値が届いていない学校は合格可能性が低いのだ」ということを改めてきちんと理解してください。その上で志望校や併願校をしっかりと吟味する必要があるでしょう。

偏差値的に届いていない学校を「何度もチャレンジしていればいつかは壁が破れる」と考えてずっと受けさせても、合格できる可能性は低いです。むしろ先ほど挙げた倍率の例でも明らかなように、2月3日とか2月4日のように日程的に後になればなるほど倍率は上がりますし、午後入試の倍率も上がりやすい傾向が強いです。

日本人は「下剋上」という言葉が大好きですが、中学受験において成績下位から上位へ這い上がることができるような子は、ほんのごくわずかだという現実を理解する必要があるのです。
 

近年の中学受験においての併願作戦はどう考えるべきか

筆者のおすすめは、受験機会が1回しかない学校をのぞいて、合格校を一校確保できてからチャレンジ校に臨むという併願作戦です。

具体的には、2月1日の午前中は「偏差値的に届いていて過去問のできもよい学校」を受験して、きちんと合格をとれるようにしておくこと。合格がとれてしまえば、あとはいかようにもチャレンジできます。もちろん受験を「連敗」で終えるのは後味が悪いですから、チャレンジするにもいつまでも追いかけずに、2月3日くらいで受験が完了するような併願パターンがいいと思います。

それから「第一志望校」とか「第二志望校」とか「滑り止め佼」といった呼称をやめてしまうことも強くおすすめします。なんか「第一志望は譲れない」ってキャッチコピー、昭和のにおいがプンプンしませんか? 令和は「価値観の多様化」の時代です。志望校を一校に絞るというのは、多様化の価値観と逆行するものですよね。

筆者は「第一志望校群」「次善校」「チャレンジ校」という言い方をご提案したいです。行きたい学校をいくつかピックアップしてそれらを総称して「第一志望校群」としてしまえば、第一志望に合格できるチャンスは広がるわけですし、「次善校」と呼ぶことでたとえその学校に進学することになったとしても、「あーあ、滑り止めになっちゃった」と後ろ向きな考え方ではなく、胸を張って進学できそうですよね。さらにこれまで「第一志望校」としていた学校を「チャレンジ校」とすることで、たとえ不合格になったとしても「チャレンジはできた」という満足感は残ると思うのです。

また「併願パターン」はいくつも分岐させて綿密に立てておきましょう。ここで受かったらこちら、ダメだったらあちら、というようにあらかじめ決めておいて、できれば最初にすべての受験校に出願しておくのがいいでしょう。もちろん受験料がかかることなので受けなければお金を捨てることになりますが、たとえ発表がうしろにずれ込んでも慌てずに済みますし、心の安心材料として考えればそれもまた投資のかたちなのではないでしょうか。


【参考情報】
入試倍率情報2023年 R4順一覧 【東京都/共学校】(日能研)

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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