「円満退社」はした方がいい? 人材コンサルが考える理由と手順
滝沢さんのケースで言えば、円満に退職するために弁護士の力を借りたということであり、円満に話が進まないと最初から分かっていたのかもしれない。本来弁護士など立てる必要がない別れの場に、法律の専門家を立ち合わせて自分の権利を守ってもらおうというわけだから、その交渉の場が円満な雰囲気とは言い難く、複雑な問題が存在していたのだろうと想像する人も多いであろう。
一般の社会人にとっても、会社を去る際にできるだけ「円満退社」を望む人が大半であろう。できる限りストレスなく別れて、後を引くような悪い人間関係をつくってしまうことは避けたいものだ。円満退社のあり方とその手順について、人材コンサルタントが解説する。
「本当の退職理由」トップ2とは? 「円満退社」はなぜ必要か
転職サイト・エン転職を運営するエン・ジャパンが、1万432人を対象に実施した「本当の退職理由」実態調査(2022年10月)によれば、退職経験者の4割以上が「退職時に本当の退職理由を伝えなかった」という。言えなかった本当の退職理由は、「人間関係が悪い」(35%)、「給与が低い」(34%)がトップ2で、本当の退職理由を言わなかった理由のトップは、「円満退社したかったから」(43%)であった(※1)。なぜ人は円満退社を望むのだろうか。表向きは円満退社になるように体裁をつくろったところで、結局会社に残る社員たちからは一定期間、あることないこと憶測で陰口を言われることも多い。どの道辞める会社であるので、気にしなければいいだけだという考え方もあるだろう。
円満退社を求めるのは、特に日本人に顕著に見られる独特な特徴かもしれない。性格として、人目を気にする、争いを嫌う傾向にあるからである。
人間関係や待遇に不満を持っているのは、自分だけではない可能性が高い。例えば、業績不振で人材不足、その結果社員1人当たりの負担が増えて長時間労働になり、昇給も長いこと据え置きになっていたとしたら、それは職場に共通した問題である。それらのことに不満を唱えて自分だけが会社を辞め、より待遇のいい競合他社で人間関係を一新して再スタートを切れるとしたら、同僚の嫉妬や妬みの対象ともなりかねない。それなら円満退社を実現するために、一芝居打つこともいとわないという人も多いのであろう。
転職において大事なことは、本来は退職することよりも、新しい会社で良好な形で気持ちの良い再スタートを切ることである。新天地では早く仕事に慣れることに加えて、新しい同僚との信頼関係を構築することにも注力しなければならない。そのような意味でも、前職からの退職で神経をすり減らしているわけにはいかないのだ。
円満退社を演じるための、気の利いた退職理由とは
では転職理由の上位の中で、同僚の嫉妬や妬みを買いにくい退職理由とは何だろうか。まず一般的な転職理由のトップ3は以下である。- 諸待遇の内容や働く時の基本条件(働く場所、時間、施設・設備など)
- 上司や部下、同僚などとの人間関係
- 現状の仕事内容と今後の展望
この3つのうち、多くの人が辞める会社の上司や同僚に対して隠しがちな退職理由が、前述した通り「待遇への不満」と「職場の人間関係」である。一方、残された「仕事内容や今後の展望」は、話の持っていき方次第では、現職の同僚の嫉妬や妬みをうまく避けられる可能性が高い。
「今とは違う新しい分野の仕事に挑戦してみたい」「もう少し小さな組織に移って、リーダーの仕事に挑戦してみたい」「異なる業界も見てみたい(実現可能性のある異業種転職の場合)」
これらの理由のいいところは、現状の職場との直接的な比較がしにくいところである。ゆえに、現職の同僚たちからの嫉妬や妬みの対象となりにくく、むしろ「そういう選択肢もあるのか」「今後どうなるか、少し注目したい」というように、辞める相手の今後について関心を持ち、本人との関係継続にも関心を持つ可能性もある。
円満退社を実現することで余計な気を遣うことが減り、適度に過去との関係を断ち切り、うまく一定の関係を残すこともできるかもしれないということだ。
ストレスが少ない円満退社の実現には、一定の準備期間が必要である。ただ、新天地での気持ちの良い再スタートのためにも、時間と労力をかけ、さまざまな工夫を試みるだけの価値はある。周囲で辞める人たちが、どのように円満退社の雰囲気を作り上げているか、成功例や失敗例を観察・分析しておき、いつか来る自分の時のために引き出しを多くしておくことをおすすめする。
<参考>
※1:『エン転職』1万人アンケート(2022年10月)「本当の退職理由」実態調査