準備1. 中学受験がテーマの『二月の勝者』や『翼の翼』などを読む
『二月の勝者』(高瀬志帆/小学館)というのは、塾講師、保護者、子どもそれぞれの視点から描かれている、東京の中学受験をテーマにしたマンガです。令和の中学受験がどういうものか、特有の空気感を知ることができるだけでなく、塾で生徒がどう指導されて、保護者がどう講師から受験情報をレクチャーされているのかがわかります。もちろんフィクションですが、塾や受験指導をしている方、そして保護者にと、多岐に渡って深く取材されていますから、受験業界に30年近くいる筆者から見ても、実にリアルに描かれているマンガです。『二月の勝者』を読んで、もっと保護者としてどういう心構えが必要なのかと気になったら、『翼の翼』(朝比奈あすか/光文社)という小説や、『勇者たちの中学受験』(おおたとしまさ/大和書房)もおすすめします。
こちらを読むことにより「周りがみんな中学受験をするからうちの子も、なんて安易に受験を考えない方がいいのかもしれない……」と、気持ちが変わるかもしれません。
準備2. これを12歳で解くの!?と驚くはず……「過去問」を確認する
中学入試の問題は、東大生や京大生が取り組んでも、そうやすやすと解けるものではありません。まだ実際の問題を見たことがないという方は、ぜひ過去問を探してみましょう。過去問を入手したら、どの学校のどの科目でもいいのでとりあえず見てみてください。「これを12歳で解くの?」と驚くはずです。パソコンで「四谷大塚ドットコム」を検索し、トップページから「過去問データベース」というページに飛んで無料会員登録をすると、いろいろな学校の入試問題を見ることができます。また都立中であれば、各都立中のホームページに「適性検査」という名前で過去問がアップロードされています。書店で探す場合は、「声の教育社」からオレンジ色の表紙の過去問がいろいろと出ています。
子どもを中学受験の道に進ませると、やがて「塾にこんなにお金を払っているのに、うちの子はやる気を出さないし、成績も上がらないし……」とイライラが募って、わが子を叱りつけたくなるときが訪れます。そんなときには、この過去問を初めて見たときの衝撃を思い出してほしいのです。中学受験をするということは、学校の授業内容をはるかに超える勉強をして、毎週、点数が出て、塾生の中でランク付けされるということです。中学入試の過去問題を見ておくことで、わが子をあと数年でこういう問題を解けるようになる道に進ませるのだということを、実感しておきましょう。
準備3. 小6は年間200万円の覚悟を! かかる費用を計算しておく
お金をかければ中学受験で合格できるというものではありませんが、お金をかければそれだけ成績アップする環境を用意できる確率は高まるし、お金に余裕がなければ、そもそも中学受験の土俵に上がれません。一般的にどれくらいお金がかかるか、ざっくりとしたイメージをお伝えします。中学受験指導塾にかかる費用は、まず月謝が学年×1万円ほどです。学年が上がるほど、授業日数が増えます。さらに塾にはオプション講座があります。小6の1年間は、塾に200万円は払うことになる、と覚悟しておくといいでしょう。
それだけではありません。塾に通いながら、個別指導塾や家庭教師を併用することも少なくありません。その場合、さらにもう100万円は上乗せされると考えておきましょう。「いや、うちは本気で中学受験に挑む、できのいいお子さんとは違うし、親も共働きで子どもの勉強の面倒も十分に見られるわけじゃないから、行けるところに行ってもらえればいいから……」と思うかもしれません。でも、そういうご家庭のお子さんこそ、個別指導塾や家庭教師をプラスすることになるのです。
中学受験では授業以外の補習はまったくしない塾もありますし、昨今は難関校よりも、成績中間層の学校の人気が高まっています。「偏差値のわりにはなかなかよさそうな学校」が減っているのです。塾の授業についていくために、個別指導や家庭教師を追加することも想定して、お金の準備をしておきましょう。
準備4. YouTubeが情報収集に便利、夫婦で中学受験の考え方を話し合う
今はYouTubeから手軽に無料でたくさんの受験情報が手に入ります。中学受験専門塾伸学会の菊池洋匡氏による「【中学受験に向けた子育てch】」や、現役進学塾講師・家庭教師のユウシン氏とその同級生で東京大学工学部在籍中のヒロクマ氏が手掛ける「ホンネで中学受験」のYouTubeでは、中学受験における知識が広く頭に入るかと思いますので、ぜひ情報収集に役立ててください。そして、パートナーがいらっしゃれば、互いに同じ動画を見ていただけたらと思います。中学受験をするとなると、お金も精神力も時間も必要になってきます。ご家族がお互いに、中学受験というものをどう考えているのかを伝え合っておくことが大事です。そうでないと、ことあるごとに夫婦で衝突したり、母親と父親で子どもに言うことが異なったりして、子どもが受験勉強に集中しづらくなってしまいかねません。なかには、子どもの中学受験がきっかけで離婚に至ったご夫婦もいらっしゃいます。
とはいえ、ただ中学受験について話し合うといっても、何をどう話し合えばいいかわからないと思います。筆者もYouTubeチャンネルでこれまで100本以上の動画を配信していますので、それをネタに、感想を言い合ってみてください。お互いの考えがわかるきっかけになると思います。筆者の動画は一方的に考えを押し付けるものではなく、「こういう考え方がある」「こんな見方もある」というように、あくまで選択肢をお伝えするものです。中学受験に決まった正解はありませんからね。情報を集めつつ、いろいろな見方を知っていただき、ご自身やご家庭としての受験へのスタンスを決める参考にしていただければと思います。
準備5. 中学受験を始めると同時に「撤退基準」も決めておく
「こういう状態になったら中学受験をやめる」という、受験の撤退基準を家族で話し合って、決めておきましょう。中学受験は始めたら最後、成績が上がらなくても、下がり続けても、やめるにやめられない状態になっていくからです。これまでこんなにお金と時間を使ってきたのに、いろいろなことをガマンしてきたのに、ここでやめたら全部ムダになってしまう。塾で友だちもたくさんできたのに、ここでやめたら会えなくなってしまうし、「受験やめたんだって」なんて、思われたくない。そんなさまざまな思いから、中学受験をやめるという決断に踏み切れず、親子ともども心がすり減っていくことになります。あらかじめ、
・受験勉強を楽しめなくなったら
・確認テストの点数が半分以下の状態が1カ月続いたら
・3カ月以内に成績が全く上がらなかったら
・志望校合格の可能性が全くなくなったら
・体に異変が表れ始めたら
などの撤退基準を、中学受験の道に足を踏み入れる前に決めておきましょう。
ということで、中学受験について全く知識がない方向けに、まず何からすればよいかをお伝えしました。いろいろと不安になるような情報も正直に書きましたが、中学受験に取り組むことで得られるものはとても大きいです。
身の回りのことを、よりおもしろく感じられるようになりますし、たとえ途中で中学受験勉強をやめても、ムダになるどころか、今後の人生を楽しく過ごすことにつながっていきます。お子さんにとっての豊かな経験のひとつとなるよう、しっかりと情報収集をして、冷静に受験と向き合っていってくださいね。