「配属ガチャ」にハズレたらどうすべき? 人材コンサルタントの見解は……
それは自身のキャリアの危機なのか。配属ガチャの捉え方、“ハズレた”ことを理由にした転職の損得勘定、そして世代間の配属ガチャへの意識差について、人材コンサルタントが解説する。
就活生の55%「職種も勤務地も自分で決めたい」
新卒学生の配属希望は、バブル時代に大学生を経験した50代も、現代を生きる20代でもそれほど大きな変化はなさそうだ。たとえば、文系新卒学生の就職人気ランキングでは、今も毎年、総合商社が上位にランクインしている。福利厚生の充実や給料の高さで知られ、さらには事業形態の豊富さや国内外に渡る広い事業展開に魅力を感じる若者が多いのは理解できる。彼らの多くは、国際舞台での活躍、海外営業の仕事を希望、そしてできれば油田開発や電力プラント事業のような大規模な国家事業に関わる仕事ができるような配属を夢見て総合商社の扉をたたく。
しかし現実に、そのような配属が叶うのはほんの一部。会社には人事、総務、法務、広報、購買、物流、経理、財務、審査など、いわゆる管理部門がある。それぞれの分野で専門家であることを期待される、なかなか難易度の高い専門職である。油田開発や電力プラント事業のような大規模な国家事業とはかなりイメージの異なる仕事であるが、そのような専門職を育てる部門に配属される社員は多い。
さらに、国内市場向けのビジネスも多岐にわたるため、国内営業担当になる可能性も高い。つまり、国際的な仕事がしたいと思って総合商社に入社した新入社員の多くは、最初の配属ガチャで出鼻をくじかれたという思いを抱く人が少なくないということだ。 また、勤務地に関しても、年々、個々の希望意識が強まっている傾向もある。マイナビが、2023年卒業予定の全国の大学生・大学院生5166人を対象に実施した、「マイナビ 2023年卒大学生活動実態調査 (6月)」では、入社後の配属先の決定に関して、「勤務地・職種ともに自分で適性を判断して、選びたい」と回答した学生が最も多く、54.9%だった。
また、「行きたくない会社」に関しては、20年前の03年卒調査で、16.0%(5位)だった「転勤の多い会社」が、23年卒調査では26.6%で、「ノルマのきつそうな会社」「暗い雰囲気の会社」に続く3位に浮上している(※)。
中高年「理不尽に耐えるのも仕事」 、若手「我慢で得られるメリットない」
配属はどのように決まるのか。新入社員の配属の場合、本人の希望をある程度配慮するとしても、まだ働いた実績がないがゆえに本人の適性を総合的に判断するしかなく、選別の精度はそれほど高くはないだろう。そもそも、その部署がいろいろな社内事情で今年は新人を採用しないと決めている場合、特定の部署への配属を本人がいくら希望しても、その席は最初から存在していない。極端な言い方をすれば、配属を決める管理職が2択を迫られたら、多少でも英語がよりできるほうを海外担当にし、元気で年上の受けがよさそうな性格の人物を接待の多い国内事業担当にするかもしれない。新入社員の配属には、それほど判断材料があるわけではないから、まさに「配属ガチャ」、運次第ともいえる。
最近の新入社員世代では、この「配属ガチャ」に「ハズレた」から、会社を辞めるという考え方が割とカジュアルにあるようだ。
仕事で発生する理不尽には耐えることが必要だ、と考えてきた中高年世代も多いだろう。企業文化として根づいている会社や、時代の違いもあるかもしれない。しかし、企業の業績にゆとりがあった時代ほど社内研修の機会もなくなり、若手人材にとってはいろいろ我慢してでも1つの職場に留まって得られるメリットは薄れているようだ。
望んでいるのが雇用の安定や、1つの会社で長く働くことであると、配属ガチャで早まった行動をすることは望ましくないが、転職を繰り返してでも自分のやりたい仕事をしたい、いずれは独立やフリーランスとしての働き方も考えている、自分の専門性を発揮しながら働きたいというなら、人生の方向性を運に任せてしまうことはそもそもナンセンスでもある。
中高年世代は「配属ガチャ」をどう見ているか
すでに業務経験のある社員の配属の場合は、本人の希望以外にも当該社員の仕事ぶり、そして所属部署の意向などを考慮して異動を実施するものだ。上司の立場では、どうしても失いたくない部下(優秀で失いたくない場合もあるし、その他の理由もある)については、あらゆる理屈をこねて、異動を先延ばしさせようとする。その逆の場合は、あっさりと異動させることもある。つまり、配属とは組織の都合が強く優先されるものであり、その異動が実現する合理性が問われるのである。それがゆえに、中高年世代ともなれば、過去に希望が通った配属もあれば、そうではないものもあったと、自らのキャリアを振り返ることだろう。望んだ配属が期待外れだったこともあれば、仕事の内容は魅力的だったが、上司や同僚に恵まれず、業績悪化で全く前向きな仕事ができないようなこともある。このため、中高年世代から見れば、あまり目先の配属で一喜一憂しても、それが総合的な満足度、そして自らの成長とは関連性が薄いという思いがあるのである。
これから仕事の経験を積んでいく若い世代が、配属ガチャで人生が変わると思うのも無理はないが、WHAT IF(いわゆる「たられば」)という発想は、人生を重ねていくと、あまり意味がなく、人生はもっと複雑な要素で好転し、暗転もするという思いを持つものだ。
ゆえに、若い世代が配属ガチャで自分の運命が決まったと、やる気を失ったり、場合によっては転職を考え出したりする姿を見て、気持ちは多少分かるが、共感や応援はできないという人が多いのではないだろうか。
“ガチャ”を回し直す前に。「キャリア人生の長さ」を思案してみては
仕事は自分のため以上に「顧客のため」に存在している。仕事の期限を守り、正確な仕事をやり遂げることは、自己満足のためだけではなく、仕事を任された人にとって最低限の責任でもある。配属ガチャによって今やりたい仕事ができないこと、勤務地が変わることなどが耐えられないほどの理不尽な状況かどうか、その感じ方、いわゆる損得勘定には個人差があるが、配属ガチャを正そう、ガチャを回し直そうとする行動にも失うものがあるということに注意したい。
まず希望する配属でないから会社を辞めるという場合、それは長いキャリア人生の経歴として残る。転職活動をする際、入社した後の配属に不満があるから前の会社を短期間で辞めたという理由を言うことになるが、それは新しく入社を希望する会社で受け入れられやすい転職理由ではないかもしれない。
転職理由は隠せばいいという見方もあるが、短期間で辞める人の代表的な理由として、配属ガチャも容易に想像できる今、相手からはうがった見方をされることは避けられない。今後も異動があるたびに転職するのか、もしくはそのたびに大きくモチベーションを下げかねない社員なのではないか、そのように警戒される可能性はある。
配属は自身のキャリアに大きな影響があるが、どんな仕事でもその道のプロフェッショナルになるのには時間がかかること、そして実際にその仕事の魅力は、やってみないことには本当には分からないこと、そして配属が決まる要因のひとつとして、他者視線で見た本人の適性という要素もあるため、客観的な評価に対して少し目を向けてみて、まずは配属された仕事を精一杯頑張ってみるという考え方もあってよい。
人生は新しい発見の連続である。配属ガチャで絶望している人には、そのことを念頭において、どんな選択を取るにしても、まずは前向きな一歩を踏み出してほしいものだ。
【参考リンク】
※:マイナビ 2023年卒大学生活動実態調査 (6月)