認知症

認知症疑いの家族が受診拒否…病院に連れていく方法は?

【認知症の専門家が解説】親や配偶者に認知症らしき言動が見られると、家族は不安になり、検査を受けさせなくてはと焦りを感じるものです。しかし本人が病院受診を拒否して、なかなか検査や診断を受けられないケースは珍しくありません。病院に連れていく方法として「健診と嘘をつく」「自分の受診の付き添いと言う」といった方法も聞きますが、リスクも伴う方法です。この難しい問題にどう対処すべきかを考えてみましょう。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

認知症かもしれない家族に病院を受診させる方法は?

親が認知症かも…いつ病院受診させるべきか

認知症が疑われる言動があっても本人が病院受診を拒む場合、家族にできることは?

「認知症かも」で様子見は危険?病院を早期受診すべき3つの理由」で詳しく説明しましたが、他の多くの病気と同様、認知症も早期発見が大切です。しかし、認知症が疑われる言動がある本人が病院に行くことを拒み、なかなか検査や診断を受けさせることができずに家族が悩むケースは珍しくありません。

筆者は大学の研究室で認知症治療薬の探索研究に取り組んでいますが、認知症に関して市民講座などでお話をすると、「認知症疑いの家族を病院に連れていくには、どうしたらいいのでしょうか」というご質問もよくいただきます。

今回は、このような切実で難しい問題に直面した場合、どのように対応するのがよいのかをお話ししたいと思います。
 

家族が病院受診を拒否するとき、してはいけない対処法

ご家族の言動に認知症が疑われ、早く病院に連れていきたくても、本人がかたくなに受診を拒むことは少なくありません。身近に接しているご家族は、不安な気持ちや焦りを感じるものです。

話は少しそれるかもしれませんが、近年は高齢者ドライバーによる事故の増加も問題になっており、いかに運転免許を返納してもらうかに苦慮されているご家庭も多いと聞きます。いくら家族が懸命に諭しても、ご本人が頑固にそれを拒む場合は、強制的に何かをすることもできず、行き詰まってしまうというケースです。認知症受診についても、現実問題としてこれと似たケースが見られます。ご本人が強く拒む場合、どう解決すればいいのか……難しい問題ですね。

こればかりは決定的な解決法がなく、もともとのご本人の性格や家族との関係性によるところも大きいと思いますが、まず言えることは、ご本人が拒否しているからと「とにかく行きなさい!」とむりやり連れて行くのは、やはり避けるべきだろうということです。

認知症の場合、ご本人は「大丈夫だ」と強気に言いながらも、実はうすうす自分の異変に気付いていることが多いです。そのようなときに、身近な人にずばりとそれを指摘されてしまうと、どうでしょう。素直になれず、かえって相手の意見を受け入れまいという心理が働きますね。もし無理やり連れていくことができたとしても、信頼関係が崩れてしまいます。
 

健康診断や付き添いと伝えて病院受診させるのはリスクも……

また、「健康診断だから行ってみようよ」とか「やさしいお医者さんがいるから行ってみようよ」などと、認知症の検査とは伝えず、ある意味では本人には噓を伝えて連れていくケースも実際には珍しくないようですが、これもやはり、誰もに勧められるようないい方法とは言えません。一見うまくいったように思えても、すぐにばれます。病院に行って、自分が認知症の検査を受けるのだとわかった時点で、ご本人が「だましたな! 馬鹿にするな!」と怒り、家族との関係が悪くなってしまうケースもあるのです。

なかには、「私の付き添いで来たことになっているので、話を合わせてください」と家族が医師に頼む場合もあるようです。これで問題なく進めばよいのですが、医師が話を合わせてくれた後で、嘘がばれてしまった場合、家族だけではなく、医師や看護師もグルだと思われ、やはり関係性が悪くなってしまうリスクはあります。わざと周囲を困らせたり、暴言をはいたりという問題につながるケースもあるでしょう。その場では何も言わなかったとしても、その後どんなに説得しても通院しなくなることもあります。

脳の構造からみても、高齢になると理性の脳の働きがどうしても衰えてしまいます。認知症ならばその傾向はさらに強くなりますが、本能的な心はしっかりしています。まだ理性が発達していない「幼い子ども」のような状態になることは、自然なことでもあるのです。
 

家族にできること……受診を拒む気持ちを理解し、寄り添うことから

ご本人が受診を拒むのは、自分の異常を認めたくないからです。その根底には「恥ずかしい」「迷惑をかけたくない」といった気持ちがあることもあります。自分を守りたいという心理とともに、家族への心遣いもあるのです。

だからこそ、ご家族が「認知症だったとしても決して恥ずかしくない」「私たちはとても心配している」「私たち家族のために病院で診てもらってほしい」と真剣に伝えると、自分が頼りにされていると感じ、ご本人も勇気がわいてくるはずです。

また、初期の段階では、ご本人もそれまでになかった症状を自覚できますから、生活の中で具体的にどんなことに困っているか、病院ではどう診てくれるかなどを丁寧に話して、お互いが納得することが大切です。認知症は早期受診が大切ではありますが、受診までの説得に少し時間がかかることはやむを得ません。この過程で築かれた信頼関係は、その後の診療や介護に良い結果をもたらすに違いありません。ぜひ、参考にしていただければと思います。
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