認知症

Q. 「アルツハイマー病は感染症が原因」って本当ですか?

【脳科学者が解説】認知症の原因疾患として最も多い「アルツハイマー病」。感染症が原因でアルツハイマー病になるという「感染仮説」は本当なのか、わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

Q. 「アルツハイマー病は感染症が原因」って本当ですか?

アルツハイマー病の感染仮説はあながち間違いではないかも

アルツハイマー病に関する仮説とは

「アルツハイマー病は感染が原因で起こる」という説があります。本当のことなのか、わかりやすく解説します。

Q. 「『アルツハイマー病は感染症が原因』と聞いたことがあるのですが、本当ですか? 人から認知症がうつることはありますか?」
 

A. 人に感染はしませんが、「感染症によって認知症が起こる」可能性はないとも言えません

認知症の原因疾患として最も多いのがアルツハイマー病です。

現在では、脳の中に「アミロイドβ」と呼ばれるタンパク質がたまることによって神経細胞がダメージを受けるために発症すると考える「アミロイド仮説」が有力視されています。この仮説にのっとって研究開発された「レカネマブ」という新薬が、新しいアルツハイマー病治療薬として使用可能になったことも、注目されています。

しかし、アルツハイマー病が提唱された20世紀初頭は、細菌などの感染によって起こるのではないかという考えも提唱されていました。当時は発症のしくみがまったく分かっていませんでしたし、多くの病気の原因が細菌などの微生物によってもたられることが明らかになり、微生物学が医科学の先端を走っていた時代ですから、そのような考えが出てくるのも当然だったでしょう。ただ、時代の流れとともに、この「感染仮説」は支持されなくなっていました。

ところが、近年さらに研究が進むと、アルツハイマー病は非常に多くの要因が絡み合って起こる脳の病気であり、「感染仮説」もあながち間違いではないと認識されるようになっています。その根拠となる知見を紹介しましょう。

1987年、カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究チームは、アルツハイマー病患者の死後脳を調べ、アルツハイマー病に特徴的な「老人斑」と呼ばれる病変の周囲に、たくさんの「活性化ミクログリア」と呼ばれる細胞が集まってきていることを発見しました。ミクログリア細胞は、脳に分布する単球系の細胞で、脳内にたまった老廃物などを食べて片づける「お掃除係」のような役割を果たしています。炎症が起こると活性化されて、活動が活発になります。活性化ミクログリアがたくさん集積しているということは、アルツハイマー病の脳内では慢性的な炎症が起きていると考えられます。

2016年には、イギリスのサウサンプトン大学の研究チームが、アルツハイマー病モデルマウスを用いた実験で、ミクログリアの増殖活性を抑える薬を投与することによって、脳内炎症ならびに記憶障害の進行を抑えることができたと報告しました。ミクログリアの活動を制御することが、アルツハイマー病治療のカギを握っているかもしれません。

また、2003年ごろから複数の研究チームが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を長期服用している関節リウマチ患者ではアルツハイマー病の発症リスクが明らかに低いという疫学調査の結果を発表しました。アルツハイマー病の脳では、慢性的な炎症が起きていることを裏付けるとともに、すでに多く使われている抗炎症薬をうまく活用すれば、アルツハイマー病が治療できるのではないかと注目を集めました。ただし、その後、多種類のNSAIDsで検討が進められたところ、必ずしもすべての抗炎症薬が有効なわけではないこと、当初期待されていたほどの効果が認められないことなどから、そう単純な話ではないと現在では考えられています。筆者自身も、アルツハイマー病と脳内炎症の関連性に注目し、大学の研究室で新しく開発した抗炎症薬の効果を検討中です。

その一方で、アルツハイマー病と歯周病の関連も、近年注目されるようになっています。歯周病とは、歯の周りの歯ぐき(歯肉)をきれいに磨いておかないことで、たくさんの細菌が感染し、歯肉の周囲が炎症を起こして赤く腫れる病気です。痛みがないからと気づかずに放置すると、進行して歯がぐらぐらしてきます。自覚症状が出てから歯科に行っても、もう抜歯しなければならない状態になっていたりすることもあるので要注意です。そんな歯周病が、単なる歯の不具合にとどまらず、脳の病気まで引き起こす可能性があるのです。30歳以上の成人の約80%がかかっているとも言われていますから、他人事ではありませんね。

歯周病がアルツハイマー病の発症リスクを高めることを示す数多くの知見があります。たとえば、歯周病をかかえているアルツハイマー病患者では、歯周病でない患者よりも、認知機能の低下が著しいことや、アルツハイマー病患者の死後脳を調査したところ、歯周病の原因菌が産生するリポ多糖類が脳内に存在していることなどが報告されています。

可能性として、
  1. 歯周病菌、あるいはそれが産生する病原因子が、脳内に入り込んで脳内炎症を悪化させる
  2. 歯周病が悪化すると全身的な炎症が進行し、それが脳に悪影響を及ぼす
という2つが考えられますが、動物実験において歯周病菌が産生するリポ多糖類を直接脳内に与えると、アルツハイマー病に似た病変が誘発されることが示されているので、前者の可能性が高いと思われます。

歯周病以外にも、注意した方がいい感染症はたくさんあります。新型コロナウイルス感染の後遺症で認知障害が生じたケースも報告されています。認知症予防のためには、感染症対策も重要だと心得ましょう。また、認知症は年をとったときに起こるものではなく、若いときからの生活習慣の積み重ねによって起こるものだという意識をもって日々暮らすことが大切です。

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