定年準備、55歳からの生き方とは?
55歳には始めたい「定年準備」を人材コンサルが解説
会社によるが、定年年齢を迎えた後も、雇用延長であと数年間同じ組織で働き続けることが既定路線になっている職場もあるだろう。実際、多くの人がそれを見越しているはずだ。
健康寿命は高齢化し、まして昨今の物価高などを見る限り、長生きするリスク(嫌な言葉だが)が注目を集めるようにもなってきていることを考えれば、どの世代であっても定年準備はしっかりと考えておく必要がある。特に、自分の年齢を55歳から差し引いてみたとき、その年数がプラスマイナス1桁になった人は定年準備を始める適齢期にあるといえよう。定年後の働き方準備について、人材コンサルタントが解説する。
<目次>
仕事を辞めるための定年準備と仕事を続けるための定年準備がある
まず定年準備は、定年年齢を迎えたときに仕事を辞めることを決めている場合と、定年年齢を迎えた後も仕事を続ける場合の大きく2つに分類できる。最初に「仕事を辞めるための定年準備」について注目しよう。長い年月にわたって働き詰めであったことから、定年後は悠々自適な生活をしたいという人は一定数いる。これまで、時間に余裕のある旅行をしたことがない、好きな趣味に十分な時間をかけられなかった、スローライフを送ってみたい、家族と過ごす時間を増やしたいなど、人それぞれ理由はある。
実際、肉体的にも精神的にも若さをまだ実感できるのが60代。この選択を求める人の場合、それなりに貯蓄があり、まさに「やりたいことリスト」を準備できている人もいる。ただ、この場合でも注意は必要だ。
たとえば、「定年後にやりたいことリスト」の上位に位置する海外旅行は、定年してから始める人には、体力・気力的な面で意外にハードルが高く、あまり長くは続かないことが多い。最初の頃に予定以上に散財しすぎて、途中から資金不足になる人もいる。たとえばちょっと贅沢してビジネスクラスで旅をしてみた、一流ホテルに泊まってみた、というのは楽しい経験だが、一度それを経験すると、その後も同様なサービスを求めるようになる。よほど資金的に余裕がない場合、資金が枯渇してしまって当初の旅行計画を変えざる得ないことになる場合もある。
趣味も同じで、こちらは体力的な問題はあまりないが、それまでの長い人生で趣味だけに多くの時間を没頭したという経験がない場合、突然趣味だけに毎日長時間没頭することができないという人も多い。
つまり、「仕事を辞めるための定年準備」にとって一番大切なことは、定年までの残された期間(理想は直前の10年間、足りなくても長ければ長いほどいい)、定年後の生活を具体的にイメージして、少しずつ生活スタイルを調整していくことである。
まだ定年はしていないが、以前よりも海外旅行に行く回数を増やすこと、そして趣味に充てる時間も意識して伸ばしてみるのである。定年まで我慢に我慢を重ねて、定年したら一気にはじけて好きなことをするという計画ではなく、少しずつ感覚を慣らしていくことが大切なのだ。実際に経験してみれば、気づくことは多いものだ。そうすれば定年後の計画案を正しく修正もできる。海外旅行や趣味に没頭する生活が本当に自分にはできるのかどうか、これは定年前に長い時間をかけて自ら検証してみる価値がある。
そうでなければ、テレビを惰性で1日中つけたままにして、家にじっと閉じこもるような日々が定年直後から始まってしまうかもしれず、そうなってしまってからもとの生活リズムを変えていくことの難易度は高い。定年後の生活を充実させたい人は、十分に「仕事を辞めるための定年準備期間」を設けて、定年を迎えた時に劇的な変化が起きないようにするといい。
「仕事を続けるための定年準備」に必要な3つの新しい発想
いずれ定年を迎えた後も仕事を続けたい、そう考える人は日に日に増えているのではないか。健康であることが前提になるだろうが、今の60代や70代を見ていると、明らかに元気で活発な人が多いことに気づかされる。では定年後も仕事を続けることは本当に可能なのか。これはうまくいく人とそうでない人、明暗がはっきりと分かれるようだ。IT化やAIの活用などで、多くの業種で働き方に変化が生まれ、それに必要とされる経験やスキルも変化している。何が明暗を分けているのか。「仕事を続けるための定年準備」に必要な発想は主に3つある。
(1)ホワイトカラーからブルーカラーの仕事へ転向できるか
65歳までの経歴が、直接活かせる仕事も一部にはある。専門知識や特別な人脈などがあれば、過去培ったそれらを使って定年後の仕事を確保する人(いわゆる天下りも)もいる。ただ、そのような人は一部であって、多くの場合、新たに職を求めることになる。その際に必要な発想の1つ目は、「ホワイトカラーからブルーカラーの仕事へ転向できるかどうか」である。多くのホワイトカラー経験者は、自然と定年後も同じようなホワイトカラーの仕事を求めることが多い。
一方、ブルーカラーの仕事も世の中には多く、人材不足で求人数が圧倒的に多いのはブルーカラーの仕事である。ブルーカラーの仕事に多いのは、物づくりにかかわる肉体労働である。代表的なものとしては工場作業員、建設現場作業員、土木作業員などである。その他にも清掃、運輸業、産業廃棄物処理、あるいは国の基幹産業である電気・ガス・水道業などのインフラサービスも含む。
実際エッセンシャルワーカー(人々の生活にとって必要不可欠な労働者)にはブルーカラーの仕事が多い。専門的な知識や経験が求められる仕事も多く、言うまでもなく社会にとって必要なやりがいのある仕事だが、重労働であるのが特徴だ。ホワイトカラーの仕事しか経験してこなかった人が、定年後にブルーカラーの仕事にシフトできるかどうか、そこが問われる。
(2)社会の足りない部分を埋めていく「若い人を支える」意識
定年後も仕事を続けるために必要な発想の2つ目は、社会の足りない部分を埋めていくという発想である。少子高齢社会の今、数の面で不十分な若い人を埋め合わせられるのは、年齢的には若くなくても精神的・体力的には若い人である。定年を迎えた世代にとって、定年後も仕事を続けたいのなら、若い世代と気持ちのいいコミュニケーションが取れることが1番大切であり、それには自分自身も若さを保つ努力が必要である。
見た目や健康状態も、努力する人としない人とでは大きな差がある。そして最も大切な感性の面であるが、これは日ごろの心がけが大事であり、謙虚さ、爽やかさ、フットワークの軽さなどを身につけなければならない。それには日々の生活習慣を変え、他人との関わり方、家族との関わり方など人間関係の全てにおいて、意識して若い世代と交流し、彼らを支えていくという思いを持つことが必要だ。
「若い人を支える」ことと、「若い人を育てる」のでは、一見同じようで少しニュアンスが違う。後者は少し上からの目線が含まれていて、実際若い世代の立場に立てば、そのような指導は不要だと断られるかもしれない。若い人を育てたい、というのは定年を迎える世代からよく聞くセリフであるが、実際にそのような希望の仕事につけている人はかなり限定される。若い世代にも選択肢がある。こんな先輩からは教わりたくないと拒否することもできるのだ。誰もが先生になれる資格はないのである。
定年世代が若い人を本当に支えたいと考えるなら、自分は目立たなくてもいい、自分の評価は後回しでいいというような、献身的な貢献意欲が求められるのではないか。これは決して楽なことではない。本当に支えたいのなら、むしろ若い人があまりやりたくない仕事を請け負うこと、それが若い世代を支えることにならないだろうか。
そのような意味で、前述したブルーカラーの仕事は条件を満たし、実際に多くの人が定年後にも続けている仕事の代表格となっているのである。エッセンシャルワーカーの多くは、「仕事は楽ではないが、社会を支えていることが誇りであり、それが仕事のやりがいである」と感じているに違いない。
(3)パートタイム、フリーランスなどの柔軟な働き方にも慣れていく
定年後にも仕事を続けるために必要な発想の3つ目は、これまでとは全く異なる柔軟な働き方に対応できるかどうかということだ。体を動かすことの多いブルーワーカーの仕事、若い世代との交流やコミュニケーションの多い仕事、そしてフルタイムでもなく、定年年齢があるような正社員の仕事でもない、たとえば有期雇用の契約社員や派遣社員、そしてスポットで1度だけの仕事かもしれない日雇いのような仕事もある。
1日の働く時間が短く、さらに働く曜日が不規則など、以前は経験したことのないような働き方のリズムは世の中にはたくさんある。1つの会社に雇用されるだけでなく、複数の雇用主から仕事をもらって、同時並行で仕事をしていくような働き方も、定年前まではしたことのない人もたくさんいることだろう。定年後には、このような柔軟な働き方が求められている。
定年準備は、定年後の生活をよく考えることから始まる
仕事を辞める場合も続ける場合も、定年前から自分の生活スタイルや意識を徐々に定年後のイメージに合わせていくことが大切だ。仕事を続ける場合は、新しい仕事を覚え、体を動かす仕事を嫌がらないこと。高齢だから楽な仕事を探したくなるが、おそらくそれでは仕事にはありつけない。若い世代を支えていく、それができれば仕事は必ずある。そこにある仕事がやれるか、やれないか、それだけである。若者世代も、自分が定年するのはずっと先でも、自分の両親が定年を予定しているという場合が多いだろう。両親が定年後の生活を安定させることができるかどうか、それは子どもの生活にも大きな影響をもたらすことになる。できれば両親の「定年準備期間」を子どもも直接的に支援することが望ましいであろう。
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