中学受験

“超少子化”なのに超過熱状態の「中学受験」、入試倍率ってどうなる?入りやすさは“二極化”か…

超少子化の中、いまや中学受験は「超過熱状態」にあるといえるでしょう。こうした時代においてはやはり、受験自体厳しくなっているのでしょうか。学校によっては入りやすいところもあるのでしょうか?

宮本 毅

執筆者:宮本 毅

学習・受験ガイド

少子化の中、大盛り上がりの「中学受験」

中学受験業界は空前の活況状態

少子化にもかかわらず、中学受験業界は空前の活況状態

最近、保護者の皆様から「学校説明会の予約が取れない」という話をよくお聞きします。午前0時になったらご主人や上の子などと家族総動員になって、学校のホームページから説明会の申し込みボタンを連打するのだそうです。人気校ではものの3分で満席となってしまい、取れなかったときの落胆は半端ないそう。

特に首都圏を中心とした中学受験に対する過熱ぶりは、少々異常な様相を呈しつつあるといえるでしょう。
 
一方で、小学生の数は1982年以降減少の一途をたどり、2021年現在過去最少の622万人に。出生数も長引くコロナ禍の影響で過去最少値を更新し続けています。

少子化が加速し始めた1997年頃、受験産業は「斜陽産業」と呼ばれ、新たな顧客開拓が急務な課題として議論されていました。しかし現在、その当時と比べて小学生の数が150万人以上減っているにもかかわらず、中学受験業界は空前の活況状態となっています。ある大手塾のある校舎の小6生のクラス数は20以上だとか。まさに大盛り上がりの状態です。
 

私立中学の特性を「9つに分類化」するマトリクス

こうした時代においては、やはり受験自体厳しくなっているのでしょうか。学校によっては、入りやすいところもあるのでしょうか。このことについて考える前に、私立中学をその特性からざっくりと9つに分類する方法をご紹介します。

もちろん各校さまざまな特徴をもっているため、各分類の中でもその傾向が強い学校もあれば弱い学校もあって、あくまでも私立中学をざっくりと理解するものになります。ただ、これを無視して志望校を偏差値だけで並べている方も多いので、この機会に知っておくといいでしょう。
 
まず縦横3つずつのマトリクスをつくります。横軸には「男子校」「共学校」「女子校」を並べ、縦軸には「進学校」「バランス校」「附属校」と並べます。すると9つの分類表ができあがります。

これにより「男子進学校」「共学附属校」などと大まかに分類できるのです。ちなみに「バランス校」とは、大学附属校で内部推薦を利用する生徒もいるが、大学受験をする生徒も多いという学校を指します。成蹊中学や昭和女子大学附属中学などがこれに当たります。
 

 中学受験の志願者数が増加した背景とは

最近の併願パターンの傾向は「大学附属志向」「安全志向」の2つに集約されるといっても過言ではありません。

「大学附属志向」が強まったのは2018年頃からで、ちょうど大学入試センター試験の代わりに2021年から導入された「大学入学共通テスト」で「記述問題を出題するしない」という話が世間を賑わせていた頃に当たります。

世の保護者の皆さんがわが子を振り返って、「うちの子には記述で勝負するのは無理」と不安に駆られ、大学までのエスカレーターを期待して附属校に対する希望が高騰しました。そしてそれに呼応するかのように中学受験熱が盛り上がりを見せ、それまでいわゆる中堅上位に位置していた大学附属校が軒並み難度を上げたのです。
 
<日本大学豊山中学>
2/1第1回入試:3.8倍(2020)→ 4.8倍(2022)
2/2午後第2回入試:13.5倍(2020)→16.1倍(2022)
2/3第3回入試:12.2倍(2020)→15.7倍(2022)
2/3午後第4回入試 22.3倍(2020)→24.5倍(2022)
 
またそれに前後して、都内で伸び悩み傾向にあった私立の女子中の何校かが、「共学化」とともに校名を変更し、「グローバル化」などと新たな教育方針を掲げてリスタートを切りました。先行していた広尾学園などをモデルケースとして、「まだ難易度が低いうちに」とばかりに受験生が殺到したところ、倍率が一気に上がって次々と難関中の仲間入りをしていきました。

この2つの現象がちょうど重なり、そこへもってきてコロナ禍によって私立中学の迅速なIT対応も話題となり、さらには『二月の勝者』のドラマ化という後押しもあって、現在中学受験は空前の大ブームを迎えているのです。
 
<開智日本橋学園中学> 
2/1第1回入試:13.5倍(2020)→ 17.8倍(2022)
2/2午後第2回入試:22.3倍(2020)→ 27.5倍(2022)
2/3午後第3回入試:29.7倍(2020)→ 37.2倍(2022)
2/4第4回入試:25.8倍(2020)→ 36.3倍(2022)
 

高まる安全志向と玉突き現象で「受験倍率」は爆上がり状態に

では、実際にこの盛り上がりによって“合格の難易度”はどのように変化しているのでしょうか。「入試倍率」の観点からお話ししていきたいと思います。

志願者数が増えて中学受験全体の難化が進んだ結果、2/5や2/6まで納得できる合格が取れずに試験に向かい続ける「入試の長期化」となる生徒が続出し、2/1の受験校の難易度を下げて合格を取りに行く「安全志向」が強まりました。そうして生じてきたのが玉突きによる「中堅層の難化」です。
 
<鷗友学園女子中学>
2/1第1回入試:2.8倍(2020)→ 3.4倍(2022)
2/2第2回入試:15.2倍(2020)→ 17.9倍(2022)
 
<富士見中学>    
2/1第1回入試:2.3倍(2020)→ 3.3倍(2022)
2/2第2回入試:4.9倍(2020)→ 6.1倍(2022)
2/3第3回入試:6.6倍(2020)→ 8.4倍(2022)
 
<三輪田学園中学>
2/1午前第1回入試:2.2倍(2020)→ 2.9倍(2022)
2/2午前第2回入試:5.2倍(2020)→ 6.7倍(2022)
2/3午前第3回入試:11.8倍(2020)→ 14.2倍(2022)
 
上記3校はいずれも入試日の設定が似ていて、かつ併願する生徒が多い学校ですが、軒並み倍率が上がっています。女子御三家→鷗友学園→富士見→三輪田といった感じで玉突きが起こり、「ボリュゾ(ボリュームゾーン)」と呼ばれる偏差値45~55の中堅層の生徒たちがあおりを受けて厳しい戦いを強いられるようになってきてしまったのです。
 
<獨協中学>
2/1午前第1回入試:2.6倍(2020)→ 4.6倍(2022)
2/2午前第3回入試:4.3倍(2020)→ 8.0倍(2022)
2/4午前第4回入試:12.1倍(2020)→ 17.9倍(2022)※2020年度は第3回入試
 
男子校でも同様のことが起こっています。一例をあげますと男子御三家→世田谷学園→成城→獨協のような玉突きによって、ボリュゾの入試が厳しくなってきています。

午後入試においてはさらに激戦となっています。今や併願パターンに午後入試を組み込むことは常識となっており、多くの受験生が2/1・2/2だけでなく2/3の午後も入試を受けるプランを組んでいます。当然のことながら受験生が集中したり、上位校を受験する生徒が午後に安全志向で受けてくるため、ここでもボリュゾにしわ寄せがいく格好となってしまっています。

ただし、前年の倍率が上がると次の年の志願者数が抑えられて揺り戻しが起こる「隔年現象」などの影響も起こり得ます。また学校によっても、進学校のように玉突きが起こりやすいカテゴリーと起こりにくい学校があるため、中学受験全体が一様に難化しているわけではないということも書き添えておきたいと思います。

それほど上位を目指さないのであれば、実質倍率が1倍以下という学校も多数存在します。そういった学校は2/5以降に「二次募集」を設けたりすることもあります。また、隔年現象によって前年急激に倍率が上がった学校は、エアポケット的に入りやすい年度があらわれたりします。御三家などのトップ校に関しても、例年ほぼ倍率が3倍程度で推移しているため、難度が大きく変動している傾向はみられません。
 

 厳しい時代の中学受験を“失敗に終わらせない”ために

激化する中学受験を失敗に終わらせないために大切なことは、この状況を「冷静に俯瞰してみる」ということではないでしょうか。

私の教え子の中にも、中学受験ではいわゆる「下位校」に進学したけれども、大学受験では国立大学や早慶大に進学した生徒はたくさんいます。一方で「課金上等」とばかりに中学受験にお金と時間と労力をつぎ込んで、いざ上位の学校に合格できたはいいけれど、そのあとも続く勉強の連鎖に嫌気がさして燃え尽き症候群となり、大学進学をあきらめたという人も少なからず存在します。

偏差値やネームバリューだけでなく、わが子が6年間楽しく通えるということを考えた上で、将来につながる教育をしてくれる学校を冷静に探してみるのが一番よいのはないかと私は思います。倍率の高い学校ばかりにチャレンジして、もし「全落ち」となってしまったときは、本人はもちろん家族全員大きな傷を負ってしまいます。

熱に浮かされている状態から一歩下がって大局観をもって中学受験を俯瞰してみてください。


【参考データ】
令和3年度学校基本調査(文部科学省)
我が国のこどもの数(総務省統計局)
令和3年人口動態統計(厚生労働省)
四谷大塚ドットコム 入試情報センター
日能研入試倍率情報

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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