市販薬のオーバードーズ・過量服薬問題と6つの成分

薬局での市販薬・OTC購入

手軽に買って服用できる薬局の市販薬。しかし服用法は個人の自由ではありません。実は法律で適切な使用が定められています

いわゆる「市販薬」は、正式には「一般用医薬品」と言います。医師が診断を通して必要と判断して発行した処方箋がなくても、患者自身が薬局やドラッグストアなどで直接購入して使える医薬品です。急いでいるときなどは便利ですし、自分自身で健康を管理し、病気の予防や治療に取り組もうとする「セルフメディケーション」にも役立ちます。

しかし、近年、市販薬の「オーバードーズ(overdose、過量服薬)」が問題となっています。やりたいことがうまくいかない、願いが叶わない、どうしても解決できない、そんな不満やプレッシャーからくる閉塞感や絶望感に苦しんだ末に、現実から逃げようとして、薬物乱用へ走ってしまう人たちがいます。覚醒剤や麻薬、大麻などの規制薬物に関わるのは犯罪だが、市販薬なら簡単に入手できるし平気だろうという安易な発想で、定められた用法・用量を守らず、自己判断で一度に大量の市販薬を服用してしまうのです。しかしこれは実際には法律に違反する行為なのです。

また、こうした考えが、SNSなどを通して10代にまで広がっていることは大問題です。中には、自分がオーバードーズをしていることを公表し、一部のネットユーザーから「いいね」の評価がもらえたことを「社会に認められた」と勘違いし、深みにはまってしまっている人もいるようです。
 
一般用医薬品成分のうち、特に「乱用等の恐れがある」として厚生労働大臣による指定を受けているものは、コデイン、ジヒドロコデイン、エフェドリン、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリン、ブロムワレリル尿素の6つです。薬局で自分が購入した薬にどんな成分が含まれているかを確認し、注意しながら適切に使えるようになるためにも、こうした薬の知識は役立ちます。今回はこの6つの薬の正しい役割と注意点について詳しく解説します。
 

コデイン、ジヒドロコデインの咳止め効果・依存性と注意点

コデインは、麻薬性鎮痛薬として最も有名な「モルヒネ」の兄弟のような化合物です。

私たち人間はその昔、ケシの未熟な果実に傷をつけて得られる乳液を乾燥させた「アヘン」に不思議な力があることに気づき、眠り薬として利用し始めました。その後、アヘンの有効成分としてモルヒネが発見されたのは、19世紀初めのことでした。モルヒネは、強力な鎮痛作用を示し、特にがん性疼痛の緩和には欠かせない医薬品として、今も広く用いられています。しかし、みなさんもよくご存じのように、強い依存性(とくに身体的依存性)を生じることから、「麻薬」と位置付けられ使用が制限されています。

1832年にフランスのある化学者が、アヘンからモルヒネ製造を行ったときの不純物としてコデインを発見しました。つまり、コデインは、ケシが作り出す天然物です。モルヒネと少しだけ化学構造が違うだけで、作用は弱いものの鎮痛作用を発揮します。日本で原末が発売されたのは1913年で、その後、鎮痛薬、鎮咳薬、下痢止めなどとしての使用が認められています。

1911年にドイツの化学者が、コデインを改良する目的で、コデインを還元することによって初めて合成したのが、ジヒドロコデインです。日本では1956年から販売・使用され続けています。咳を鎮める効果(鎮咳効果)が高いのが特徴です。

咳は、気道に付着した異物や痰を体外へ吐き出すために起こる呼吸運動で、体を守るための防御反応です。しかし、激しい咳が続くと、体力を消耗したり眠れなくなり、治る風邪も治らなくなることがあります。そんなときには鎮咳薬が役に立ちます。咳は、脳の延髄にある「咳中枢」が刺激されたときに起こりますが、コデインやジヒドロコデインは、この咳中枢を抑制することで咳を起こりにくくすることができます。そのため、一般用医薬品の風邪薬(総合感冒薬)の「鎮咳成分」として配合・使用されています。

ただし、モルヒネと同じく、コデインとジヒドロコデインは、依存性があり乱用の危険性が高いため、「麻薬及び向精神薬取締法」で「麻薬」に指定されています。無許可で所持しているだけでも処罰の対象となります。ということは、コデインやジヒドロコデインを含有した風邪薬を買ったら犯罪になるのかと気になるかもしれませんが、心配はご無用。「麻薬及び向精神薬取締法」には、1%以下のコデインまたはジヒドロコデインは「家庭麻薬」と位置づけ、「麻薬」から除外するという特別な定めがあるからです。一般用医薬品の風邪薬に配合されているコデインまたはジヒドロコデインの含有量は1%以下なので、麻薬としての制限は受けず、安心して購入・使用してかまわないようになっています。とは言っても、コデインとジヒドロコデインそのものが麻薬であることに変わりはありませんから、必要以上に過剰摂取することは、麻薬を使っていることに他ならないと意識して、用法・用量を守ることが大切です。

なお、市販の風邪薬に含まれている鎮咳成分は、コデインやジヒドロコデイン以外にも、ノスカピン、デキストロメトルファン、チペピジンなどがあり、選択できます。妊婦さんが咳止めを希望する場合には、コデインやジヒドロコデインは避け、デキストロメトルファンを配合した製品をお勧めします。小さなお子さんの場合は、デキストロメトルファンの使用実績が少ないので、チペピジンがよく用いられています。ただし、総合感冒薬は、鎮咳成分以外にもいろいろな薬が入っているので、鎮咳成分だけで判断しないほうがいいです。心配なときは、薬剤師に相談してください。
 

エフェドリン、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリンの気管支拡張作用・依存性などの注意点・副作用

もともと、咳や喘息などに用いられていた漢方薬の「麻黄(まおう)」に含まれる有効成分として見出されたのが「エフェドリン」です。上述したコデインやジヒドロコデインのように、咳中枢に作用して咳を鎮めるのではなく、気管支を拡げて呼吸を楽にする作用があります。

名前の響きが似ていることから想像つくと思いますが、プソイドエフェドリンとメチルエフェドリンは、エフェドリンと同類薬で、同じように気管支を拡げて呼吸を楽にする作用があります。

プソイドエフェドリンの「プソイド(pseudo-)」には「偽りの」という意味があります。エフェドリンとともに麻黄に含まれる天然成分で、エフェドリンと分子式は全く同じですが立体構造が違う鏡像異性体なので、「本物のエフェドリンとは厳密には違うけれど……」という意味合いで、プソイドエフェドリンと名付けられました。

メチルエフェドリンは、エフェドリンよりも副作用の少ない化合物を作り出すことを目的として、エフェドリンを原料として半合成された化合物です。メチル基と呼ばれる化学構造がエフェドリンに付け加えられた形をしているので、メチルエフェドリンと名付けられたものです。

いずれも、一般用医薬品では風邪薬(総合感冒薬)に「気管支拡張成分」として配合することが認められています。

ただし、副作用として中枢興奮作用をもっているため、精神依存が生じる可能性があります。また、これらを原料して覚醒剤であるアンフェタミンやメタンフェタミンを化学合成できるため、「覚醒剤取締法」において「覚醒剤原料」に指定されています。2010年には、薬局で一般に売られている鼻炎用薬に含まれていたプソイドエフェドリンを原料として自宅で覚醒剤を密造しようとした人が摘発・逮捕されたと報道されました。

なお、エフェドリン、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリンの含有量が10%以下の場合は規制対象外(覚醒剤原料とはみなされない)とされるため、一般用医薬品として店頭で販売されているわけです。また、漢方では、葛根湯(かっこんとう)、麻黄湯(まおうとう)、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)、神秘湯(しんぴとう)、五積散(ごしゃくさん)などに麻黄が含まれています。

過量服薬を含めた乱用や、覚醒剤の製造に利用されないよう、風邪薬や漢方薬の扱いにも注意が必要です。
 

ブロムワレリル尿素の鎮静効果・解熱鎮痛効果と危険性

ブロムワレリル尿素(別名:ブロモバレリル尿素)は、1908年にドイツのクノール社で最初に発売された睡眠薬です。

日本には明治時代に輸入され、1915年から発売されました。しかし、医療目的とは別に、自殺を目的とした急性中毒が頻発し、大きな社会問題となりました。文豪の太宰治が何度も自殺を図って使ったとされる医薬品(販売名:カルモチン)の主成分としても知られています。世界的にも、危険な薬と見られるようになり、他のタイプの睡眠薬がたくさん開発されるようになるにつれ、だんだん使用されなくなりました。アメリカではすでに使用禁止とされています。しかし、日本では、1965年より総合感冒薬に含めることはできなくなったものの、一般用医薬品の「鎮静成分」としていまだに認められており、乱用の危険性が懸念されながらも、一部の鎮静剤(ウット)や解熱鎮痛剤(ナロン)に含有されて、販売が続けられています。
 

今後の対策

我が国において医薬品の有効性と安全性を確保するために定められた法律として、『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(略して「薬機法」、旧名「薬事法」』があります。2014年6月にこの法律が一部改正され、今回解説した6つの成分については、含有される一般用医薬品の販売が、12歳以上で1人1箱に制限されることとなりました。また、高校生や中学生等の若年者に対しては、販売時に、身分証明書により氏名及び年齢を確認することが義務づけられました。こうした行政上の対策は、今後もさらに検討していく必要がありますが、現実にはそれだけでは解決しないと思われます。

そもそもオーバードーズ(過量服薬)を故意に行う人は、心に大きな問題を抱えており、いろいろな制限があってもそれをかいくぐって薬物を手に入れようとします。またその過程で別の犯罪や事故に巻き込まれる可能性もありますから、単に制限を加えることはかえって良くないかもしれません。前記事「オーバードーズとは……社会問題化する市販薬の過剰摂取と問題点」で触れたように、家庭や学校での子どもたちに対する心のケアや、歪みを生み出しているインターネットの対策などが欠かせないことは言うまでもありません。

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