亀山早苗の恋愛コラム

50代半ばで絶望感。早期退職を決めた途端に「この先、あなたの世話はしたくない」と言った妻

「平凡だけど、それなりに幸せな日々」を送ってきたと思っていたのに……。自分が思い描いた人生の後半戦が妻の一言によってあっけなく白紙に戻った男性、残ったのは「絶望感」だった。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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「自分の人生は何だったのか」。50代半ばにして絶望感しかないと語る男性がいる。「平凡だけど、それなりに幸せな日々」を送ってきたはずなのに、人生の秋にさしかかったところで、いきなり妻から絶縁状をつきつけられた。
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早期退職、あとは細々と生きていこうと思っていた

タケルさん(57歳)が、会社の早期退職に応じたのは3年前。退職金の上乗せ分もかなり多かったため、妻と相談して決めた。その後はツテを頼って年俸制の会社に転職した。

「50代に入ったところで大病したんですよ。もしかしたら先はそう長くないかもしれない。それならこの先は私生活を優先させて生きていきたい。もっと妻とも旅行したり趣味を再開したり。そんな思いがあっての早期退職でした。転職先は今までとは違い、残業も出張もない。子どもたちも大きくなったし、最低限の生活費を稼げばあとは暮らしていけると計算していました」

彼が結婚したのは28歳。54歳で早期退職したとき、長女は25歳、長男は23歳。ふたりともすでに就職しており、目先の経済的な心配はなかった。

「退職、転職して3カ月ほどたったころ、妻が『新しい職場はどう?』と声をかけてきた。まあまあ、うまくやってるよと言ったら、『そう、よかった』といきなり出してきたのが離婚届。最初は意味がわかりませんでした」

誰のための離婚届なのかと尋ねた。妻はにっこり笑って「私たちの」と答えた。どういうことかとさらに聞くと、「離婚してちょうだい」と妻は言った。

「離婚してどうするのと言ったら、『どうするもなにも、離婚したいの。あなたと一緒にいたくないということ』と、だんだん口調が激しくなっていきました。オレ、離婚されるようなことをした? 脳がフル回転しましたね」

妻に一度でも手をあげたことはない。そもそも暴力は大嫌いだ。借金も家のローン以外はしたことがない。浮気? 何度か過ちはあるが、継続的な関係をもったことはない。そして妻にバレてもいないはず。

「何が原因なんだ、と頭を抱えていると妻が言ったんです。『あなたと同じ部屋の空気を吸いたくないの』と。そこまで嫌われていたなんて思ってもいなかった。うまくいっていると信じていたんです」

ちょうど、妻と一緒に行こうと海外旅行のパンフレットをもらって帰ってきた日のできごとだった。
 

退職金をすべて渡して

妻は「今さら、何があったとか言いたくない。あなたは子育てをしなかったとか、家事もしたことがないとか……。今までは私も元気だったからいいけど、この先、あなたの世話はしたくない」ときっぱり言った。

「つまり、妻は孤独だった、というわけです。確かに子どもたちが小さいころは、妻に家庭のことをすべて任せていました。仕事柄、本当に残業や出張が多くて、家庭のことを顧みている余裕がなかった。それは申し訳ないと思っている。でも子どもたちが小学校に上がってからは、年に2回は家族旅行もしたし、長男の野球には僕もとことんつきあいました。でも妻からみれば、『点数稼ぎ』『日頃の名誉挽回』にしか思えなかったようです」

話し合いを続けたかったが、妻は「離婚しか選択肢はない」と言い切った。2カ月後、退職金は上乗せ分ごと妻が持っていき、タケルさんはがらんとした一軒家にひとり取り残された。

「弁護士の友人が言うには、調停、裁判をすればそれほど持っていかれることはなかったはずだと。だけどなんだかもう、何もかもめんどうになってしまったんです。おそらく妻は、それまでも自分名義で相当、貯金をしていたと思う。いつかは離婚しようと考えていたんでしょうね。離婚してやると思いながら、ごく平凡な日常を送っていた妻を、初めて怖いと思いました。年とって動けなくなったときに復讐されるよりは、今のうちにすべて手放したほうがいいような気がしたんです」

家を売り、小さな中古マンションを買って移り住んだ。仕事を続け、今後年金を受け取るようになれば最低限、生き延びてはいけるはずだ。

「子どもたちとは連絡がとれています。ふたりとも妻の行動には驚いたようです。子どもたちにも相談していなかったとは……。娘からは『ヤケになって飲み過ぎないように』と言われました。わかってはいるけど最近、酒量が増えました。仕事から帰ってひとりでいると、オレの人生、何だったんだと思わざるを得ないですよ」

一方の妻は40代になってから始めたパートの仕事を続けながら、ひとりの生活を楽しんでいるらしいと娘から報告があった。離婚後、妻とはいっさい連絡をとっていない。

「僕は妻と添い遂げるつもりでしたが、彼女はひとりになってせいせいしている。そんな感じなんでしょうね」

一息ついて、タケルさんはしみじみと言った。

「夫婦って何なんでしょうね。つきあっていた期間も含めると30年も一緒にいたのに、僕は彼女のことを何も知らなかったような気がします」
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