上司が部下を昇進させる理由とは? 昇進・昇給の背景事情
能力や運以外で、「昇進」「昇給」に関わる背景事情とは?
同じ会社の中でも、職場によって昇進や昇給のタイミングが異なることもある。もちろん社員の能力は人によって違うし、会社への貢献度も異なる。職場環境や事業環境が、昇進や昇給に影響を与えることもある。つまり、社員の能力の高さや会社への貢献度などは昇進・昇給の大切な要素であるが、自分を取り巻くさまざまな環境(所属部署の職場環境や事業環境など)がどういう状態であるか、いわゆる「運」も少なからず影響している。
昇進・昇給が実現する際の、会社や上司の背景事情について、人材コンサルタントが解説する。
<目次>
仕事の役割と責任は明確か
まず、公正な昇進・昇給を実現できる会社について考察する。どのような会社であれば、社員はやる気を持って働き、会社への貢献度を上げるために精一杯力を尽くすのだろうか。最も大切なのは、「仕事の役割と責任」を明確にしていることである。ここが明確でないと、仕事ができる社員、責任感の強い社員などに仕事が集まる一方、仕事ができないか、もしくは働く意欲が足りない社員の仕事が停滞し、周りの社員が埋め合わせをするようになる。そこには不公平な処遇が横行するようになる。
それでも会社に貢献している社員を昇進・昇給などさせられればよいが、給与制度そのものの規定が邪魔して、たとえば5割増しの貢献をしている社員に相応の5割増しの給料を払えることは稀である。貢献度の高い社員に対して、現場の上司からの高評価を反映し「5~10%増し」程度の昇給ができる給与制度はたくさんあるだろうが、それでは「5割増し」の貢献度の差を待遇に反映しているというには程遠く、貢献度が高い社員がやる気を失っても不思議ではない。
昇進・昇給の基準は明確か
会社にどのような貢献をすれば昇進・昇給が実現するのか、そこが社員に対して明確になっていない職場も多いのではないだろうか。昇進・昇給の基準が明確でない会社の多くは、前述した「仕事の役割と責任」が明確でないことも多いため、まずはそこから改善すれば、「昇進・昇給の基準」を明確にする準備ができてくる。この順番を間違えてはいけない。具体的な役割・責任を定義し、昇進・昇給の基準を設定すれば、あとは定期的に行う上司と部下の面談によって、日々の仕事の達成度や課題を相互に確認し、改善に向けた方法を話し合うことになる。
ここで1つ問題がある。それは、上司と部下の関係には「相性」というものがあり、上司と部下の間に「世代間格差」なども多く、相性が良好でない場合がしばしば見られることだ。その場合、上司が面談の結果くだす部下の評価に対して、部下本人が納得できないことがある。上司の役割と責任のひとつには、部下と日頃からコミュニケーションを取り、信頼関係を築けるよう努力することがあるが、それがうまく機能していない場合、評価に対する部下の納得感欠如が続き、働く意欲を失いがちになる。まさに悪循環に陥っていくケースである。
つまり、「仕事の役割と責任」や「昇進・昇給の基準」が明確でも、信頼できる上司との間で建設的な話し合いが持たれない限り、部下の昇進・昇給への不満を解消することは難しい。これは上司・部下、双方にとって不幸なだけでなく、会社にとっても損失である。
このことに対する解決方法としては、部下の評価をする上司を複数指名して評価者を増やす場合が多い。またそれと同時に、部下が上司を評価する制度も導入し、上司と部下の人間関係が正常な状態にあることを確認する職場もある。
このように、多くの会社ではさまざまな工夫によって、社員の昇進・昇給に対する不公平感を減らし、社員の働く意欲を高める努力をしている。ただ、会社によっては、これらの取り組みが遅れているか、対策を取っていてもそれが不十分な場合もある。そのような職場では、昇給・昇進への不満が原因で社員の流出が続いているケースもある。これは若手社員に限らず、中堅社員にも広がることがあるから注意が必要である。
上司が「部下の昇進」を実現させたいのはどんな時か
これまで、公正な昇進・昇給を実現できる会社について考察してみたが、次にどんな時に上司は「部下の昇進・昇給を実現させたい」と思うのかについて考える。まず「昇進」について、会社への貢献度が高い社員に対して、より大きな貢献をすることを本人に期待したいとき、昇進させることで本人に対してわかりやすいメッセージを送ることができる。
言うまでもないが、仕事の役割と責任を拡大させるときは、拡大したあとの新たな仕事の役割と責任を担う準備が本人にできていなければならない。本人が周囲の期待に応えられるかどうか、多少の不安があったとしてもまずは任せてみることもある。部下を昇進させることは、上司にとってはリスクを取ることになるのだ。
そのため、昇進させた部下のことは、当面の間は上司が意識的にフォローしなければならない。部下に任せっきりでは、その昇進がうまく機能しないこともある。このように、部下を昇進させることは、上司の仕事を増やすことを意味している。よって、忙しすぎる上司を持つと、昇進後の部下の失敗確率が高まることにつながりかねないので注意が必要だ。そのような上司は部下の昇進後の新たな仕事をフォローする余裕がないからである。
上司にとっては、部下とのコミュニケーションがうまくとれていないことが悩みである場合もある。そのような難しい関係にある時、上司によっては、部下の昇進によって、自分の仕事を新たに増やすことはしたくないと考える人もいるかもしれない。
部下が昇進すれば仕事の役割と責任が拡大し、上司の仕事の役割と責任の一部を担ってくれるため、部下の昇進は上司にとって歓迎すべきことであるはずだ。ただ、目先の仕事で余裕がなくなっている上司にとっては、コミュニケーションをとることが難しい部下を昇進させれば、自分の仕事にも多大な影響が出るかもしれない。そのような上司の思いが、部下の昇進にマイナスに働く場合もある。
このように考えれば、上司の仕事のしやすさに配慮できる部下であることは、昇進の切符を早くつかむための必要条件になるに違いない。
「昇進して」昇給する人、「昇進しなくても」昇給する人
仕事の役割と責任が伴う昇進が実現した時、その職の重さに対して見合う給料が支払われることが理にかなった処遇である。一部例外はあれど、多くの人は昇進すれば昇給もセットでついてくることが多い。一方、昇進しなくても昇給が実現する人もいる(年次に伴い定期的に給料が上がることは、この場合は昇給とはみなさないことにする)。上司が部下を昇給させる時、その大前提となるのは、昇給しなければならない理由があるということだ。たとえば、部下の貢献によって大きな仕事を受注できた時である。会社を儲けさせたことが、誰の目にも明らかであれば、上司はその貢献に見合う報酬として昇給させることがある。
成功報酬による一時的なボーナスではなく、本人の基本給を上げるのが昇給であるから、上司にとって部下を昇給させるのは、実は部下を昇進させることよりも難しいことがある。就業規則で社員の勤務成績に基づいて昇給・降給をすることを明記していても、一度上げた給料を下げることは社員の士気に大きな影響を与えるため、会社というものは昇給に対してとても慎重なのである。
そのような背景がある中で、昇給が実現するかどうか、それには本人の会社への貢献度や将来に対する期待など、総合的な判断となることは間違いない。一方、これ以外にも例外的な昇給が実現することがある。それは、本人が会社を辞めるかもしれないとの懸念がある場合だ。会社としては、今その社員に辞めてほしくない。昇給することで本人の退職を思いとどまらせたいとき、昇進の伴わない昇給が起きることがある。
会社から見て、どうしてもやめてほしくない社員が対象となるから、そう簡単にこのような状況を作り出せるわけではないだろう。ただし、実際には昇給が実現したことで、会社から高評価を得たと考え、退職を思いとどまる人もいることから、この昇給が一定の効果をもたしていることも否めない。
「昇進」「昇給」には仕事ぶり以外にもあらゆる思惑が絡んでいる
社員の昇進や昇給は、社員本人のモチベーションを高めるだけでなく、会社の発展にも大切な取り組みであることから、事業が成長し、社員満足度の高い将来性のある会社では、公平で大胆な昇進や昇給が実現していることが多い。これまで見てきたように、昇進・昇給が実現する背景にはいろいろなケースがある。会社にわかりやすい形で貢献した社員であることはやはり大事であり、それは大きな売り上げをもたらしたり、重要顧客を増やしたりという方法もあるし、チームプレイに徹していることも評価されるに違いない。仕事は複数の仲間が連携して作り上げることも多いため、スタンドプレイで成績がいいだけでは、必ずしも昇進や昇給は実現しない。ただ、その他にも、上司の思いや人材流出抑止などさまざまな背景も関係しているのが実情なのである。
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