『ドライブ・マイ・カー』はなぜ世界中で評価されているのか
2022年3月28日(月曜日/日本時間)に発表される米・アカデミー賞で『ドライブ・マイ・カー』は4部門で候補にあがっています。日本映画史上初の作品賞、脚色賞候補に加え、濱口竜介監督は監督賞候補にも選ばれ、国際長編映画賞では大本命といわれています。村上春樹の原作を濱口監督が自ら脚色し、大江崇允が共同脚本家となったこの映画は、なぜこれほど世界中の人に愛されたのか。その魅力5つをご紹介します。
『ドライブ・マイ・カー』あらすじ
演出家の家福(西島秀俊)は、脚本家の妻の音(霧島れいか)を突然亡くします。彼女は、生前、浮気をしており、それを彼は知っていました。妻の死を受け止められないまま、新しい舞台演出の仕事のために広島に向かった家福は、舞台の運営側が用意した運転手のみさき(三浦透子)を紹介され、彼女の運転で会場を往復します。
その会場で行われた舞台のオーディション。アジアの俳優たちが結集したその中に、かつて妻に紹介された若い俳優・高槻(岡田将生)がいました……。
魅力1:セリフが心に刺さる濱口ワールド
『ドライブ・マイ・カー』の主人公は舞台演出家、その妻は脚本家。二人の会話は日常会話というより、まるでお芝居をしているようです。冒頭からそのような世界観を見せられ、最初は面食らうのですが、本作は最後までその流れを貫きます。登場人物のすべてがセリフにつまっているので、俳優はセリフを言うだけで、その心情が観るものにダイレクトに伝わってきます。だから演技が研ぎ澄まされている印象。 濱口監督は、自然にセリフが口をついて出るくらい、何度もリハーサルを重ねるそうですが、その効果が俳優たちの芝居から贅肉を取り去っているようです。
魅力2:人間関係の妙に魅了される
家福、妻の音、高槻は、わかりやすいキャラクターではありません。でも、家福の運転手となる、みさきだけは、自らの家族や育った背景を語るので、観客から見れば、とても共感を得やすいキャラクター。みさきの存在が、観客をこの映画の世界にグッと引き寄せます。 筆者はみさきが登場してから、この物語のエンジンがかかった気がしました。そこに異物である高槻が混じってかき回す。「なぜこの男はこんなことをするんだ」と思いつつも、目が離せないのです。 主人公の家福は諦観者で、中心にいながら、周りで起こることをじっと見つめ、自分の中で解き明かせない妻の秘密と向き合っていく。そんな人間関係の妙を見せてくれました。魅力3:村上春樹の海外人気の影響あり!?
本作は村上春樹の同名短編小説の映画化です。日本では新刊が出る度にブームになる村上春樹。英訳も多く、海外でも知られている日本作家であり、映像化作品もいくつかあります。中でも有名なのは『ノルウェイの森』(2010年/トラン・アン・ユン監督/松山ケンイチ、菊地凛子、水原希子、高良健吾出演)。ほか、『トニー滝谷』(2005年/市川準監督/イッセー尾形、宮沢りえ、西島秀俊出演)、『ハナレイ・ベイ』(2018年/松永大司監督/吉田羊、佐野玲於、村上虹郎出演)も村上春樹小説の映画化です。 海外でも映画化されており、特に『バーニング 劇場版』(2019年/イ・チャンドン監督/ユ・アイン、スティーブン・ユァン出演)は、2019年の海外の映画賞を席捲した秀作。『ドライブ・マイ・カー』の海外評価の高さは、『バーニング 劇場版』を彷彿させます。
魅力4:批評家に愛される『ドライブ・マイ・カー』
世界の映画賞を席捲した本作。カンヌ国際映画祭で日本映画初となる脚本賞を受賞したのを皮切りに、特にアメリカでの映画賞受賞は多すぎて書ききれないほど。特にニューヨーク、ロサンゼルス、全米という3つの映画批評家協会賞作品賞を受賞したのは快挙! この3つの映画批評家協会賞を受賞した外国語映画は史上初です。日本の映画賞では日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞など計8冠に輝き、キネマ旬報ベスト10の1位、第76回毎日映画コンクールなどで受賞しています。
魅力5:濱口映画の最大の魅力は脚本
『ドライブ・マイ・カー』は、同名小説が収録された短編集「女のいない男たち」の「シェエラザード」と「木野」の要素も含んでいます。加えて、家福が広島で上演する舞台「ワーニャ伯父さん」を多言語舞台として描くなど、実に複雑な構造で作られた作品です。濱口監督は5時間17分の長編映画『ハッピーアワー』がロカルノ、ナント、シンガポールほか国際映画祭で主要賞を受賞するなど、すでに海外の映画人の間で注目されていました。2022年の最新作『偶然と想像』もベルリン国際映画祭・銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞。
『偶然と想像』は3つの短編映画からなるオムニバスで、共通点は後半に驚きの展開が待っていること。俳優たちから飛び出す言葉は、どこに転がっていくのか予測がつかず、ずっと見ていられる! こちらの作品も超おすすめです!
3月28日(月曜日/日本時間)に発表される第94回アカデミー賞授賞式(WOWOW/午前7時30分より)で『ドライブ・マイ・カー』が栄誉に輝くか? 楽しみに待ちましょう。
『ドライブ・マイ・カー』2021年度作品(全国超ロングラン上映中)
原作:村上春樹 「ドライブ・マイ・カー」(短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊)
監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介 大江崇允
音楽:石橋英子
出演:西島秀俊 三浦透子 霧島れいか 岡田将生
(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
参考:
『ドライブ・マイ・カー』オフィシャルサイト
WOWOWアカデミー賞授賞式公式サイト