「転職するので家売ります!」真意を人材コンサルタントが考察
一方、転職にはさまざまな個人的な事情が働くものだ。たとえば、
「転職するので家売ります!」
という決断を下した、男性のにわかには信じがたい実話からは、会社・社会への強い貢献意欲が見えてくる。自分の目先のメリットだけを考えた転職意向を見直すきっかけとなろう、就職・転職の際に「大切にしたい考え方」を、人材コンサルタントが解説する。
転職の3大理由
最初に転職の3大理由を紹介しよう。第一に、「待遇や評価への不満」である。不満という言葉が強すぎる場合、人によっては「現状を改善したい」と言い直してもいいだろう。次に多い転職理由は、「仕事内容に関する不満」である。これにはさまざまなケースがあり、今の仕事に特別不満を持っていなくても、「新たな挑戦がしたい」からと転職を考える人は、世の中に意外と多いものだ。
三つ目の理由は、「職場の人間関係」である。パワハラやセクハラにあうほど深刻な事態に陥っている人の場合は緊急避難的な転職になるが、誰もがそこまで人間関係がこじれているわけではない。「職場の人間関係は問題がない」「周りはいい人ばかり」という声がある一方で、「刺激を受ける人がいない」ことが転職理由になることも意外に多い。
このように転職理由はさまざまであり、転職したい理由が複数重なれば、当然具体的な転職活動に結び付く可能性も高まる。
転職を思いとどまる理由は?
次に、転職を思いとどまる人の理由についても確認しておきたい。本来は転職したい事情があったが、何らかの理由でその問題が解消されたか、多少状況が解消された場合、人によっては転職を思いとどまることがある。転職理由として代表的な3つの事例に沿っていえば、たとえば、待遇や評価に変化が起きることがある。昇進や昇格を打診されたり、なかば諦めていた異動が実現したりして、悩みが解消されれば、転職する理由がなくなることがある。
さらに、自分を評価してくれない直属の上司が突然左遷された場合。後任として上司になった人物とは相性がよく、自分を認めてくれていると感じられれば、もう少しこの会社で頑張ってみようと思い直すかもしれない。
このように、会社を辞める決意を固めるほど悩んだことが、状況の変化によって解消されたことで転職を思いとどまることは、実際にはよくあることである。
「転職するので家売ります!」はこうして起きた
転職をきっかけに働く場所が変わり、引っ越しを伴うことは、それほど珍しいことではない。単身の人なら生活に変化が起きるのは本人だけであるため、本人が納得すれば引っ越しも話は早い。家族がいる場合、今の居住地に生活基盤があれば本人だけが単身赴任する場合もあるし、家族が離れて暮らすことを好まず、家族と一緒に引っ越す人もいる。しかし、ここで紹介したいのは、転職することを決めた際、同時に自宅を売ることも決めた人の実話である。
Aさんは、自動車部品業界で働くエンジニアで40代、2人の子どもと地元で派遣社員として働く奥さんがいた。神奈川県にある自宅は持ち家で、住宅ローンを10年ほど返したところだった。エンジニアであるAさんは過去に2社を経験し、これが2度目の転職だった。
Aさんの転職を支援した人材コンサルタントによれば、転職活動中、一度も家族の話題を出すこともなく、最終的に愛知県にある会社に転職を受諾した。やりがいのある仕事が見つかり、満足していたという。家族の年齢構成などを聞いた結果、おそらく単身赴任をするだろうと、人材コンサルタントは予測していたというが、そこで意外な話を受け驚いたのである。
「転職するので家売ります!」
一瞬耳を疑ったが、本人は本気だったという。家まで売らなくてもいいのではないか、そう思う人もいるかもしれない。一方、自動車部品業界のエンジニアという仕事をする人にとって、神奈川県から愛知県に引っ越すということには、ある特別な意味が込められていることを説明しておきたい。
自動車部品会社にとって最大の顧客である自動車メーカーの本社やメイン工場の所在地は全国にいくつかあるが、愛知県はその中でも最も重要な拠点である。
この人物にとって、この自動車メーカーとの仕事は初めての経験であったが、いつか実現したいと考えていた、いわば目標とするキャリアパスだった。それもあって、転職が実現したことを機会に、生活の拠点を愛知県に移し、中長期的に腰を据えて新しい顧客向けの仕事に取り組みたいと考えたのである。
あわせて、キャリアの後半を愛知県で過ごすこと、そして新天地でやり直すことを決断したのである。転職事情は人それぞれであるが、自動車部品業界のエンジニアが転職する時、国内では限られた数しかない自動車メーカー本社やメイン工場の立地を意識する人が多いことから、同様な決断をした人の話を聞いたのは一度や二度ではない。それだけ専門的な仕事であり、中長期でコミットをする仕事でもあるのだろう。
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