話し方・伝え方

敬語を崩して相手との距離を縮める方法

失礼なく敬語を崩す方法にはどんなものがあるでしょうか。「生意気」「慣れ慣れしい」と思われずに、距離を縮めるための敬語の崩し方を、具体例を交えてご紹介します。敬語を崩し過ぎてしまったときの対処法も確認しておきましょう。

藤田 尚弓

執筆者:藤田 尚弓

話し方・伝え方ガイド

敬語で話すか迷ったことのある人は74.2%

初対面の相手とは敬語で話し、仲の良い人とはタメ口と呼ばれるカジュアルな話し方をするなど、私たちは話し方の丁寧さを相手との関係性によって変えています。また、関係性だけでなく、話題によっても話し方は変わります。

例えば、大事な商談は丁寧な話し方をして、商談語の雑談ではゆるめた敬語を使うなどの調整は皆さんもしたことがあるのではないでしょうか。相手に敬意を示すことができる敬語ですが、あまりに硬い敬語ばかり使っていると、距離を感じさせてしまうこともあります。

「このまま敬語で話し続けていいんだろうか」と迷った経験は皆さんにもあるのではないでしょうか。「敬語によそよそしさを感じ、敬語を使うかどうかを迷うことがあるか」といった調査では、74.2%の人が「迷うことがある」と答えています(*1)。

失礼がないように硬い敬語で通すと決めている人もいるかも知れませんが、必要以上に敬語を使う人に対して「感じがよくない」と思う人は8割にものぼります(*2)。

失礼なく敬語を崩すにはどうしたらいいのか。『いい人間関係は敬語のくずし方で決まる』(青春出版社)より、誰にでも試しやすいタイミングや崩し方をご紹介します。
 
「言い人間関係は敬語のくずし方で決まる」藤田尚弓(青春出版社)

いい人間関係は敬語のくずし方で決まる』(青春出版社)著:藤田尚弓

 

どんなタイミングで敬語を崩すのか

話し方が、丁寧に話す「敬語」とカジュアルに話す「タメ口」の2つだけだと思っていると、どのタイミングで敬語を崩すのか悩んでしまうかもしれません。

初対面の相手と丁寧に話すときにも、カジュアルな話し方が2~3割混ざることがあります。特に年齢や立場が上の人は、1割程度カジュアルな話し方が多くなります(*3)。「敬語を崩して大丈夫だろうか」と過度に心配することはないのです。

タイミングとしては、プライベートな話題になったときや、会話が盛り上がったときから始めるのがお勧めです。急にカジュアルにするのではなく、相手に気づかれない程度に場を和ませる、敬語の崩し方をご紹介します。まずはここから試してみてください。
 

敬語の崩し方(1)文末に「よ」「ね」をつける

敬語をゆるめるのが不安な人でも簡単にトライできる方法として、文末に「よ」「ね」を付け加えるというのがあります。相手に気づかれずに、少しだけ雰囲気を和らげることができるので試しやすいと思います。例を見てみましょう。

(例)
「それが結構大変なんです」
→「それが結構大変なんですよ」
 
「そういえば聞きました」
→「そういえば聞きましたね」
 
たったこれだけですが、少しだけ話し方がカジュアルな印象になるのがわかると思います。相手に違和感を持たれることなく、やわらかい雰囲気にできます。この時、語尾をほんの少しだけ長めにすると、更にくだけた印象になります。
 

敬語の崩し方(2)独り言を入れる

敬語は相手への敬意を伝える話し方です。会話の中の独り言は、相手に向けて話しているわけではないのでカジュアルな話し方にしても失礼になりません。例を見てみましょう。
 
(例)
「C社のデータですね。確か、あったはずだな。会社に戻ったらメールでお送りします」
 
例文中の「確か、あったはずだな」はカジュアルな話し方ですが、独り言なので相手も気にならないはずです。雑談のときであれば、相手の意見に共感したシーンで積極的に使いましょう。
 
(例)
「それは面白そうな本ですね。帰りに買っていこうかな」
 
独り言部分の「帰りに買っていこうかな」では相手から視線をはずし、少しだけ小さめの声で言うようにするといいでしょう。独り言であることがわかりやすくなるので安心です。
 

上司や先輩への敬語を崩すコツ

リアクション部分をゆるめ、質問で終える

リアクション部分をゆるめ、質問で終える


仕事の話のときには丁寧な敬語を使って敬意を示したいですが、雑談のときには少しカジュアルな話し方も取り入れて、心の距離を縮めた方がよいでしょう。上司や先輩との雑談では、聞き手にまわりリアクション部分をゆるめるようにするのがよいでしょう。
 
(例)
「すごい! それってプラチナチケットですよね。手に入れるのは大変だったんじゃないですか?」
 
質問で終わりにするようにすると、会話が続きやすく、相手の話す量を増やせます。質問が具体的すぎると相手の話したくないことに触れてしまうこともあるので、少し「ぼかし」を入れた質問をするようにします。例を見てみましょう。
 
(具体的な例)
「旅行が趣味なんですね。今まで泊まった旅館で一番良かったのはどこですか」
 
(ぼかしを入れた例)
「旅行が趣味なんですね。今まで行かれて一番良かったのはどの辺りですか」
 
ぼかしを入れておけば、答えたくない質問にはざっくりと回答することができますので安全です。
 

職場の異性に対して敬語を崩すコツ

職場の異性は、敬語をゆるめても不快に思われにくい相手です。共通点に関する話題、自分の興味のある話題など、盛り上がったタイミングで、気楽に敬語をゆるめてみてください。
 
(例)
「わ、会社の前にできた店のテイクアウトですね! 美味しそうだなぁ。俺も買おうかなぁ」
 
雑談のときは敬語を崩し、仕事の話のときは丁寧な敬語に戻すようにしておけば、多少ゆるめすぎてしまっても失礼な人だとは思われにくくなります。

注意したいのは、会話の丁寧さよりも、話の内容です。ダイバーシティ(多様性)は企業にとって避けて通れないトピックになりつつあります。昔は問題視されなかった発言が、ハラスメントと解釈されてしまうものもあります。年齢、性別、家族構成、教育、性的指向、外見、趣味、出身地、体格、勤務形態などについての発言には気をつけましょう。
 
(余計な一言の例)
「30歳の大台に乗ったんなら真剣に婚活したほうがいいよ」
「美形なのにゲイなんてもったいない」
「美人は得だよなぁ」
「太っていると自己管理ができない人だと思われるよ」
「パートは気楽でいいよね」
「女性は~だよね」
「男のくせに」

……など良かれと思ってやりがちな「外見を褒める」という行為も、実は難易度が高い会話になります。褒めているつもりがセクハラになってしまうケースがありますし、外見を褒めることで能力を低く評価しているように聞こえてしまうこともあるので気をつけましょう。
 
(誤解されやすい例)
「山本さんは、スタイルがいいね」
「美人は契約が取れていいなぁ」
 
外見については触れないようにするのが無難ですが、褒めるときには、内面と絡めてリスペクトしているという気持ちを伝えるといいでしょう。
 
(例)
「規則正しい生活をしているからスタイルを維持できるんでしょうね」
「美しいのに仕事もできて羨ましいな」
 

敬語を崩し過ぎてしまう人の対処法

くずし過ぎても調整すればOK

崩し過ぎても調整すればOK

どちらかというと、敬語を崩し過ぎてしまうというタイプの人には以下の3点がお勧めです。

(1)言葉以外で敬意を表現する
敬語を崩している時こそ、座り位置、頷き、表情などで相手を敬っていることを伝えるように意識しましょう。総合的に敬意が伝わっていれば、多少敬語をゆるめ過ぎていても失礼とは思われにくくなります。
 
(2)話題が変わったタイミングで丁寧な話し方に戻す
「ちょっと敬語を崩し過ぎたかな」と気づいた場合には、話題が変わったタイミングで丁寧な敬語に戻しましょう。話題によって話し方が変わるのは自然なので、無理なく戻すことができます。
 
(3)別れ際の挨拶を丁寧にする
雑談で多少敬語をゆるめ過ぎても別れ際の挨拶をしっかりすることで、印象を緩和できます。
 
正しい敬語を使うことは大切ですが、少しゆるめた会話もできるようになると、人と仲良くなるのが今までよりもうまくできるようになります。ぜひ試してみてください。

【参考文献】
*1 深尾まどか. (1997). 大学生の敬語意識--丁寧さと親しさの調節について. 日本語教育研究, (33), 82-106.
*2 文化庁「国語に関する世論調査」平成10年度
*3 三牧陽子. (2002). 待遇レベル管理からみた日本語母語話者間のポライトネス表示: 初対面会話における 「社会的規範」 と 「個人のストラテジー」 を中心に (< 特集> 言語の対人関係機能と敬語). 社会言語科学, 5(1), 56-74.

 
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