「楽(らく)」のデザインコンセプト
「楽」は4両1編成のみの貴重な電車だ。従来の黄色と白を基調とした塗装から、漆メタリックと呼ばれる和風のものに変更。デザインコンセプトを「地のにぎわい」として日本の伝統色と和柄により沿線の魅力を表現している。 近鉄沿線は、大きく大阪、奈良、京都、伊勢志摩、名古屋の5つの地域に分かれる。それぞれ、大阪=灰桜色(青海波)、奈良=黄蘗(きはだ)色(天平)、京都=青鈍(あおにび)色(市松)、伊勢志摩=黄丹(おうに)色(縞)、名古屋=緑青色(鹿の子)に決め、それぞれを車体と座席などのデザインに取り入れている。「楽」の車内
車内に入ってみると、シートの図柄は上記の5つの色と模様がランダムに配置され、ポップな楽しさにあふれている。通常よりもシートピッチは広く取っていて121cm。「しまかぜ」のシートピッチ(125cm)には及ばないものの、リニューアル前が91cmだったから相当な余裕だ。また、大きなテーブルも付いている。転換クロスシートなので、座席を前後に倒すことにより向かい合わせの4人席になる。その場合でも、ゆったりとした間隔になるので、窮屈な感じはしない。テーブルの窓際にはライトが置いてあって洒落た雰囲気になる。また、テーブル下には電源コンセントもあり、スマホやタブレットを安心して使うことができる。 座席は、すべてハイデッカーなので、通常の車両よりも高いところから車窓を楽しむことができる。両端の1号車と4号車は2階建て構造で、フリースペースの階下室が設けられている。2階建て車両なので、それを示す近鉄の登録商標であるVISTA CARの表記が車体外観に大きく書かれている。
「楽」車内のフリースペース
1号車と4号車の運転台寄りには「楽VISTAスポット」というフリースペースが設置されている。2階にある座席よりも一段低くなっていて(これが通常の高さ)、不思議な形をしたソファーが置いてある。前面展望はもちろんのこと、サイドも眺められる。座席よりも低いところにあるので、座席の最前列に座っている乗客の視界の妨げにはならない。よく考えられた構造だ。 座席の中ほどに階下席への階段がある。降りていくと、階下のフリースペースがあり、土足厳禁なので、靴を脱いで利用する。様々なタイプのクッションが置いてあり、寝そべったりリラックスして寛ぐ場所のようだ。窓は小さく、密室のような感じとなり、階上での賑やかな語らいや懇親に疲れたときに逃げ込むスペースとしても使われるのかもしれない。 「楽VISTAスポット」も階下室もともに1号車と4号車ではソファーや椅子に大きな違いがあるので、両方を見比べてみると興味深い。「楽」に乗って、大阪から名古屋までののんびり旅
筆者が試乗した「楽」の旅は、大阪上本町駅から近鉄名古屋駅まで。近鉄の名阪特急「ひのとり」なら2時間少々で到着できるところを3時間50分かけてのんびり走った。途中で定期の特急列車を何本も待避するため、いくつもの駅で停車したからである。 列挙すると、車両基地のある高安(たかやす)を手始めに、河内国分(かわちこくぶ)、大和朝倉、名張、東青山、津、豊津上野、桑名の順だ。名張と津、桑名は特急停車駅で、津のみドアが開いて乗降が可能だった。あとは、すべて運転停車のためドアは開かず、ホームに降り立つことさえできない。それでも、特急や急行に乗ったのでは通過してしまい、その存在すら知らなかった小さな駅の様子が分かって興味深かった。もっとも、臨時列車なので、次に乗るとき、この順番に必ず停車するかどうかはわからない。「楽」は大阪の郊外、大和盆地を通り、奈良県から三重県にかけての山岳地帯を多くのトンネルで抜け、鉄橋を渡って進む。伊勢中川駅手前の中川短絡線で大阪線から名古屋線に乗り入れ、県庁所在地の津に停車したあとは、平野を北上。四日市、桑名を過ぎると、揖斐川、長良川、木曽川の三大河川を豪快に渡って名古屋を目指す。
「楽」に乗れる団体ツアー
「楽」の旅で多いのは、大阪から伊勢志摩へ向かうもの。例えば、大阪上本町駅から鳥羽駅まで往復し、駅前にある老舗旅館で伊勢志摩の海の幸満載の会席料理に舌鼓を打ったあと鳥羽湾を望む温泉露天風呂でのんびり過ごすプラン。あるいは、宇治山田駅まで往復し、現地では5時間ほどの自由行動を楽しむというツアーもある。後者では、伊勢神宮参拝やおかげ横丁での飲食や買い物などが可能だ。
いずれも、コロナ禍対策として、2人席を1人で独占し、相席にならず、「密」を回避している。ただし、沿線エリアが緊急事態宣言下になってしまったので、直前の催行中止もありうるようだ。落ち着いて旅するには、もう少し先のほうが安心のような気がする。
これからも「楽」を利用したのんびり旅の機会は多々あると思うので、焦らず待つことにしたい。
鉄路の名優(「楽」)(近鉄のサイト)
取材協力=近畿日本鉄道
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