その中でも、平成から令和にかけて「ガールズロック」というジャンルに幅広さを持たせ、今なお道なき道を開拓し続けるバンドとして、「SCANDAL」の存在を抜きに語れません。2010年代に長年SCANDALの取材を続けてきた筆者が、SCANDALの偉大なる軌跡を解説します。
今年で結成15年のSCANDAL
【守】「制服着た女子高生4人組」華々しいデビュー
SCANDALは2006年に同じダンススクールに通うHARUNA(Vocal & Guitar)、MAMI(Guitar & Vocal)、TOMOMI(Bass & Vocal)、RINA(Drums & Vocal)の4人により結成。大阪を中心に活動し、2008年に1stシングル「DOLL」でメジャーデビューを果たすと、翌2009年に日本レコード大賞新人賞を受賞するなどロケットスタートを切ります。 SCANDALのここまでの活動歴を振り返ると「守破離」の3段階に大きく分けることができます。結成当初はずばり「守」。「制服を着た女子高生が楽器を持ってステージに立つ」というビジュアルを徹底し、楽曲制作は田鹿祐一、蔦谷好位置、田中秀典など一流のトラックメイカーによる作曲。「アーティスト自身が楽曲制作している方が良い」という風潮のあった2000年代において、SCANDALは一流のチームの用意したステージで文字通り「DOLL」となることを選択したのです。
ミニスカートに黒髪ロングの親近感と、耳の肥えたロックファンも納得できるクオリティの楽曲。そのギャップに同世代の男性はグッと心を掴まれました。中高年男性にも「楽器を持った娘を応援する心理」のごとく、彼女たちの成長を見守りたいと中毒者が続出します。
コピバンコンテストで後輩育成→夢の大阪城ワンマン達成
アイドル的要素もあったデビュー当時のSCANDALですが、他に類を見ないビッグアーティストとなった要因は、女性ファンからも支持が厚かったこと。メンバー自身、楽器歴は結成とほぼ軌を一にするため、結成当初の楽曲はコピーしやすい楽曲が多く、カバーする女子高生バンドが続出。軽音ブームも手伝って「身近なシンボル」となったのです。実際に、2010年から2015年までの6年間、「SCANDALコピーバンド & ヴォーカリストコンテスト」を主催し、後にたんこぶちん、KANIKAPILAといったメジャーアーティストを生みます。さらに、寺田恵子(SHOW-YA)が立ち上げた女性ミュージシャンだけのロックフェス「NAONのYAON」に出演したり、SCANDAL主催イベント「バンドやろうよ!!」でFLiP、ステレオポニー、ねごと、赤い公園らと共演するなど、ガールズロックシーンの隆盛に貢献します。
2010年代にはSilent SirenやChelsy、LoVendoЯなど、美しいビジュアルと本格的なロックサウンドを兼ね備えたバンドも数々登場しました。その中でもやはり先頭に立つのはSCANDAL。2013年には結成当初からの目標に掲げていた大阪城ホールでのワンマンライブを敢行。バンドとしてのステージを一段上に登りました。
(C)矢沢隆則/BEEAST
【破】ワールドツアーを経て、国内対バン相手にも変化
ガールズバンド日本代表、SCANDALは世界へ。2015年に、世界8カ国10都市を巡るワールドツアー『SCANDAL WORLD TOUR 2015「HELLO WORLD」』を初敢行すると、その後もコンスタントに楽曲制作・リリースを行い、国内外を問わずツアーに出続けます。この頃、バンドの楽曲は全てメンバーによる作詞・作曲となり、編曲もメンバーによるものが大半となります。骨太なロック、フェス沸騰必至の四つ打ち曲はもちろんのこと、当時流行したEDMサウンドも取り入れ、楽曲の幅を広げます。
また、磨きに磨きぬいた演奏技術も評価を集め、HARUNA、MAMI、TOMOMIは2017年に日本人女性アーティスト初となるFender社とのエンドース契約を果たしました。
この頃から、ライブステージにも変化が見られるようになります。衣装面ではデビュー当初のミニスカートを封印し、パンツスタイルのものが増えていきます。対バン相手も男性ロックバンドが主となり、新たなファン層からも支持を獲得しました。
【離】「ガールズバンド」にこだわるSCANDAL、唯一無二の存在へ
「ガールズロックバンド」から「ロックバンド」へとスイッチした、と評する声もあるようですが、あくまで自分たちを「ガールズバンド」と称することにこだわり続けるSCANDAL。その背景には「女性だからこそ作れる音楽」、そして「女性としての生き方」を発信し続けていきたいという矜持があるのではと筆者は考えています。かつて「ガールズロック」は「男性顔負けの迫力」「女性なのにパワフル」など、男性優位が前提のように評されてきた時代があります。また、2010年代のガールズバンドブームにおいても、露出の高い衣装を着たり、ライブの物販で2ショットチェキを販売したりと、「ガールズ」=「アイドル」的な売り出し方で消費され、短命に終わるバンドが多かったのも事実です。
そうした中で、SCANDALは「キュート」な面なども含めて何かを否定することなく大きく広く包み込む懐の広さ、多様な価値観を受け入れる音楽性があります。2019年にプライベートレーベル「her」を立ち上げると、4人の個性をより一層際立たせた楽曲制作に励みます。「前向きで力強い曲」だけでなく等身大の喜怒哀楽さまざまな感情を乗せ、ジャンルにとらわれないチャレンジングな音作りでファンを楽しませ続けています。
(C)矢沢隆則/BEEAST
積極的な発信が女性の共感を呼ぶ
さらに、メンバーからの積極的な発信も、他のアーティストに多大な影響を与えています。最近の楽曲で作詞を担当することの多いRINAは、コロナ禍の2020年に自身のYouTubeチャンネルを立ち上げると「女子ドラマーの体づくり」「ガールズバンド、結婚しても続ける?」などのタイトルでメッセージを発信。さらにモデルのSeinaとともに、「MAKE A WISH DAISY PROJECT」を立ち上げ、母子家庭や父子家庭で育つ人、DV被害に遭っている人々などを支援する団体への寄付を行っています。こうした、時に生きづらさを抱えながら日々を過ごす女性のシンボルとして、力強くそばに寄り添う姿勢は2020年代の女性ミュージシャンに多大な影響を与え、シーンの活性化、表現の多様化に大きく寄与していると言えます。
「女だから」「男に対抗」といった価値観を超えて、卓越した「型」の吸収力に加えて自分たちの等身大の表現を楽しんでいるSCANDAL。次のステージにも引き続き期待したいと思います。