「うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ。」。スマホにテレビに街頭ビジョン……2021年に入ってこの曲が流れてこない日はないと言っても過言ではないほど、大ヒット中の『うっせぇわ』。歌っているAdoはつい最近高校を卒業した18歳のシンガーということ以外にプロフィールは不明で、顔出しも一切していません。
 
Ado

「うっせぇわ」で大ブレイクしたAdo


「ポケットからきゅんです!」でおなじみのひらめや、ヨルシカなど、ネット発のアーティストは顔も本名も非公開が主流。その理由やヒットの要因を、音楽雑誌の副編集長も務めたフリージャーナリストの筆者が分析します。
 

Ado、ひらめ、ヨルシカの共通点は

2020年10月、17歳最後の日に『うっせぇわ』をYouTubeに公開し、メジャーデビューしたAdo。18歳のシンガーということ以外にプロフィールは非公表。ボカロPと組んでYouTubeなどネット上を中心に活動しており、社会現象を巻き起こしている『うっせぇわ』以外にも、ボカロPのjon-YAKITORYが制作し、Adoが歌う『シカバネーゼ』はSpotifyバイラルトップ50(日本)で最高1位、iTunes J-POPチャートではロシアで最高2位と、その影響力は海外にまで及んでいます。
 

『「ポケットからきゅんです!」』がTikTokで大人気となった、シンガーソングライターのひらめ。本名も素顔も非公表で、メディア出演の際はTwitterのアイコンと同じイラストのお面を被っています。

ソロアーティスト以外にも、本名や素顔を明かさずに活動するアーティストのブレイクが昨今は目立ちます。ヨルシカは、コンポーザーのn-buna(ナブナ)とシンガーsuis(スイ)を中心に活動するバンドです。“ずとまよ”ことずっと真夜中でいいのに。も、作詞・作曲・ボーカルのACAねは顔を出さずに活動しています。さらには2020年大ブレイクを果たしたYOASOBIも、当初はメディアに顔を出さずに活動していました。
 
 

顔出しなし・本名非公表の理由は大きく2パターン

本名や素顔を明かさずに活動するアーティストが増えていることについて、大きく分けて二つの理由が挙げられます。中でも特に大きい要因は「ネット発のアーティスト」であることです。

「ネット発のアーティスト」は、ボーカロイド(ボカロ)による楽曲制作が多く、制作者であるボカロPはニックネームや下の名前の愛称などで活動するのが主流です。例えばクラシック音楽のように、そもそも本名フルネームで活動する人が少ないという文化が前提にあります。

また、ネット上の創作活動はアニメーションとの親和性が高いということも、顔出しなしの文化を推進した理由に挙げられそうです。Adoの『うっせぇわ』ではクレジットに「Music & Lyrics & Arrangement」に加えて「Movie」「Mix」「Image Director」が連なります。ビジュアルもセットにした楽曲制作と考えれば、歌い手が素顔を晒す必然性はなくなります。

そもそも2000年代以降に生まれた世代は、物心のつく頃にはすでにSNSが存在し、メディアリテラシー教育を学校で叩き込まれています。本名や所属先をTwitterのプロフィールに記載することを禁止していたり、Instagramにクラスの集合写真を掲載する際はモザイクを必須にしたり、といった作法を小中学生のうちから当たり前に行っているのです。

かつて「本名・素顔非公開」というと、そこに匿名性から来る神秘性、ミステリアスなイメージが取り巻いていましたが、2020年代の本名非公開アーティストは、むしろ本名ではないことによる親近感が生まれているといえます。YouTubeのコメント欄を見ると、大半の人のアカウント名がニックネーム(ハンドルネーム)になっており、その中の一人としてアーティストも同じようなニックネームを名乗っているのです。

優里

「ドライフラワー」が大ヒットの優里

2020年に『ドライフラワー』が大ヒットした優里も、苗字を含めたフルネームは名乗っていませんが、それにより神秘性が増すというより、むしろ親近感が増している印象ですね。
 

本名・顔出しのリスク……SNS時代ならではの事情も

ネット発のミュージシャンというと、ボカロP以外にはひらめ、りりあ。、瑛人、yamaといったソロシンガーが多く浮かぶという人も多いのではないでしょうか。本名や素顔を明かさないもう一つの大きな理由は、「アーティストのプライバシー保護」と考えられています。

GReeeeNが素顔を明かさないのは、メンバー全員が歯科医を務め、本業に支障をきたさないためであることはよく知られています。2020年代のアーティストはそうした特殊事情だけでなく、「アーティストの普通の日常生活を守るため」に、本名や素顔を明かさずに活動しているケースも増えています。

特に女性のソロシンガーについては、2010年代にファンによるストーカー被害が多発し刺傷事件まで起きてしまったことから、アーティストの人権保護が一層重視されるようになりました。ネット上で何でも検索できるようになったことの弊害、といえます。


加えて、ビジュアルや名前などに頼らず純粋に音楽で勝負したいというアーティストが増えていることの表れという見方もあります。

シンガーのyamaは本名・素顔に加え性別も非公表です。一昔前の音楽プロデューサーなら間違いなく「こんなアーティスト名だと検索にヒットしない!」と叱りそうな活動名ですが、2020年4月に公開された『春を告げる』はYouTubeの再生回数が7000万回を超え(※2021年3月24日時点)、世代を超えて愛されるミュージシャンの一人となりました。
 
yama

謎多きソロシンガーyama


『春を告げる』の作詞・作曲を手がけたボカロPのくじらは、yamaと一度も直接会わず、互いに顔も知らないまま楽曲を共同制作したといいます。「何者であるか」「どこの誰か」といった地位名誉、所属、住所などあらゆる先入観から解放されて、自由に楽曲制作できることは、ネット社会の功罪の「功」、光の部分といえそうです。
 

顔出しなし・本名非公表の理由まとめ

1:ネット活動はニックネームが主流
2:アニメとの親和性(=ビジュアルも含めた創作)
3:本名をネットに書かない文化が10代に浸透している
4:本名でないことでむしろ親近感が増す
5:ネットストーカーなどへの対策
6:性別・所属などあらゆる先入観からの解放
7:純粋に音楽で勝負することの表明
 



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